軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 「お話」と交渉成功

フォルシーナの「お話」は、俺がゼファラに対して施した「口移し」の件であった。

どうもフォルシーナには、あの行為がどさくさに紛れて美女エルフに接吻をした判定になったらしい。

しかし口移しがキス扱いされるネタはお約束ではあるが、まさか俺がその当事者になるとは思わなかった。

「瀕死のゼファラ殿にポーションを飲ませるにはあの方法しかなかったのだ。仕方あるまい」

「しかしお父様がおやりになる必要はなかったのでは? その場にはアルファラもいたのですし」

「いや、その余裕はなかった。あの口移しにはそれなりにやり方があってな、それを教えている間もなかったのは見ていてわかったであろう?」

と諭すように言うと、渋々ながら納得はしてくれたのか、『氷の令嬢』モードはいくぶんか緩まり、フォルシーナのまとう冷気が多少収まりをみせた。

「確かにお父様は以前、人を助けるためなら接吻も厭わないとおっしゃっておりましたので理解はいたします。ですがもしゼファラ様のほうで問題だとお考えになったとしたらどうでしょうか?」

「というと?」

「命を助けるためとはいえ、人前で、その、せ、せせ……」

「接吻ですよ」

横からマリアンロッテが耳打ちするのはいつもの光景である。

「……その、接吻をしたということで、なにか代償を求められる可能性があるということです」

「ゼファラ殿も戦士ゆえそのようなことは考えもせぬだろう。そもそもあれは接吻などではなく、純然たる救命行為なのだからな」

「そうでしょうか?」

訝しげな目をするフォルシーナだが、その視線が急に俺の後ろへと移動した。

立ち上がったゼファラが背後から近づいてきたのだ。

「話中すまぬな。人族の王、マークスチュアートよ、どうやら貴殿に命を助けられたようだ。礼を言うぞ」

「無事でなによりだゼファラ殿。ただ貴殿を助けたのは、ここで倒れられてはこちらも困るという事情があるからだ。礼には及ばぬぞ」

「ふふっ、なるほど」

俺の微妙にツンデレみたいな言葉にゼファラは目を細めて笑った。

「まあ、その言葉が真実かどうかはともかく、エルフ族が長年の 軛(くびき) を逃れて外へ出ようというのに、その前に倒れるのは私としても悔しかったところだ。その意味で礼は言っておこう」

「ならばその礼は受け取ろう。ところで今の『エルフ族が外へ出る』というのは、ワイバーン討伐に力を貸してくれるということでよいのだな?」

「無論そういうことだ。これからは盟友としてよろしく頼むぞ、マークスチュアートよ」

「願ってもないことだ。よろしく頼む」

ゼファラが右の手のひらを向けてきたので、俺は左の手のひらを掲げて合わせた。

エルフ式の握手だが、手を合わせた瞬間ゼファラは身体をぐっと寄せてきて、美しい顔を近づけてきたかと思うと、俺にだけ聞こえるように、

「唇を重ねるという行為はエルフにとっては非常に重い意味があるのだ。私を助けるために必要な行為だったというのは理解しているが、盟友であるのならば我らの考え方も重んじてもらえるとありがたい」

と耳打ちしてきた。

意味深な台詞ではあるが、その「重い意味」自体がどのようなものかわからないので何とも答え難い。さすがにここまできて「唇を無理矢理奪ったから決闘だ」とかいう話もないと思うが……。

「……うむ。無論エルフ族の文化を軽んずるつもりはない」

仕方なく当たり障りのない言葉で誤魔化したが、ゼファラはそれで満足したのか、身体を離した。

「今夜は宴を行おう。マークスチュアートらはまずは館にて休むとよい」

そう言って、ゼファラはアルファラや右腕のミュゼ、そして、集まっていたエルフたちに指示を与え始めた。

この場ではもう俺たちのできることはないので館の方へ向かおうと振り向くと、そこには『氷の令嬢』モードを保ったままのフォルシーナの姿があった。

「お父様、先ほど小声でなにかを伝えられていたようですが、なにをお話されたのでしょうか?」

「む? ああ、いや……長同士の密談ゆえ、それは話すことはできぬ」

「唇という言葉が聞こえたのですが、その、せ、接吻についてなにか言われたのでは?」

「否定はせぬが、それ以上は言えぬ。それはわきまえよ」

「わかりました。お父様がエルフ族の文化を尊重するとおっしゃっておりましたし、きっとエルフ族の習俗と関係のあることなのでしょう。後でアルファラに聞いてみることにいたします」

「好きにするがよい」

確かに決闘とかいう話だったら困るので、俺の代わりにアルファラに聞いてもらえるのはありがたい。

まさか「唇を奪ったのだから結婚しろ」なんてそんなラブコメまがいの話だったりするはずもないだろうし、俺が思うより重い意味がないことを祈っておこう。

夜の宴は凄まじく盛大に行われた。

宴と言うよりもはや祭りと言った方が近く、なんと広場にテントや座所が設けられ、中央には大きな火が焚かれ、その回りで飲めや歌えのどんちゃん騒ぎが行われたのである。

酒を浴びるように飲み、肉を貪り食うのはイメージ的にはドワーフ族に近く、あまりの違和感にめまいがしそうであったが、慣れてしまえばなんてことはなかった。

俺とゼファラは一段高いところに設けられた席に隣同士で座り、酒を酌み交わした。

彼女は始終上機嫌で、自分もずっと外の世界にあこがれていたことなどや、長としての悩みなどを語ってくれた。完全に心を許してくれた感じであったので、それについては俺も安心しつつエルフ美女との語らいを楽しんだ。

近くの席ではフォルシーナたちがこちらをちらちらと見て気にしている様子もあり、特になぜか聖女オルティアナと女公爵ヴァミリオラの視線が強かった。

まあ族長ゼファラがいつもの肌面積な上にやたらと身体を寄せてきて時々柔らかいモノがあたっていたりするので、それが気になるのかもしれない。おかげで俺はできるだけ身体を動かさないようにして冤罪を回避するのに必死になっていた。

そして翌日、俺たちは王都へと帰ることなった。

エルフの里には『通話の魔導具』を渡しておき、常に連絡を取り合えるようにした。

なお、エルフの里は『転移魔法』で自由に行き来ができることも確認された。いずれ『転移の魔導具』を複製し、設置する案もゼファラと話し合って合意に至っている。

「ではゼファラ殿、我らはいったん国へと戻る。ただ恐らく魔族の襲来までそこまでの余裕はない。戦える準備だけはすぐにしておいて欲しい」

「承知している。貴殿の魔法で移動ができるのであれば、我らにそれほどの準備はいらぬ。いつ呼んでくれても構わん」

「うむ。よろしく頼む」

挨拶が済むと、俺はゼファラから離れ、フォルシーナたちの前へと移動した。

フォルシーナとマリアンロッテ、そして聖女オルティアナが俺の腕や服を掴んでくる。

「何度も言っているが、『転移魔法』は別に私の体に触れている必要はないのだぞ?」

「こちらのほうが安心するのですお父様」

「私も同じです、国王陛下」

「まだ『転移魔法』には慣れないので……」

と理由をつけてくるが、いつもより密着具合が強い気がする。

しかもアミュエリザも手を伸ばそうとして姉のヴァミリオラに止められてるし、クーラリアはミアールに羽交い絞めにされている。

こちらをじっと睨んでるアルファラがまた「やはり情婦ではないか」とか言い出すから、勘違いを生む行為は慎んでほしいのだが……と思いつつ、俺は『転移魔法』を発動した。

景色が切り替わる直前、ゼファラがウインクをしたように見えたのだが、それは気のせいだったのだろうか。

彼女とは遠からず再会するはずだが、だからといって確認することはできそうもない。