作品タイトル不明
10章 → 11章
―― エルフの里 里長の館 ゼファラ私室
「母上、お話があります」
「どうしたアルファラ、軍備のことか?」
「いえ、そうではありません。先日の、あの母上の命を奪おうとした、ツノの生えたダークエルフのことです」
「ああ……。あれがどうかしたか?」
「母上はあの者の名前を呼んでいました。それに知人であったようにも見受けられました。母上はあの者がどのような者かご存じなのですか?」
「そうだな、古い知人だ。実は先代が族長をしていた時に、私は先代に命じられてダークエルフの集落に行ったことがあるのだ。ダークエルフたちが困窮しているようなら、我らの里で共に生きるのはどうだと勧めにな」
「なんと、そのようなことが……」
「先代の懸念通り、ダークエルフは困窮していた。人族の間で生きてはいたが、劣悪な土地に住むことを強いられ、人族がやらぬような仕事を与えられ、そして満足に食えぬような状況であった」
「それでは里へ誘ったのですね」
「うむ。だがその時ダークエルフの族長であったダーマはそれを断った。我々は我々のやり方で生きていくとな。もちろんそれはダークエルフたちの総意でもあったようだ。それはそれで結構なことだったのだが……」
「なにかあったのですか?」
「どうやら悪徳の者に騙されて、その土地すらも奪われて、多くのダークエルフが散り散りになってしまったらしい。そして最後に会った時、ダーマはこう言った。私は必ず同胞が生きられる土地を、誰よりも豊かな土地を手に入れてみせる。そして同胞たちを再び集めてみせる。その為には、鬼にでも身を堕とそう、と」
「ではその結果があの姿なのですか。しかし先日の行いを見る限り、同胞を救う者の姿には見えませんでしたが……」
「私もあの姿には驚いた。奴はたしかに人族を恨んでいたが、まさか本当に鬼になるとは思ってもみなかったゆえな。しかし実はな、あの鬼の姿については後でマークスチュアートから真実を聞いて納得をした。残念ながらこれはお前にもまだ教えられんのだがな」
「そうですか……わかりました。しかしあのマークスチュアートという人族の王は、いったいどれほどの智謀を隠しもっているのでしょうか」
「うむ。話をすればするほどあの男には驚かされる。武や美を兼ね備えていることを考えても、あれほどの傑物はこの大陸の長い歴史にも二人とおるまい」
「やはりそうお考えになりますか。だからこそ、母上は私をあの男の元へと行けとおっしゃるのですね」
「む? いや、そのようなことは考えておらぬぞ。お前には私の後を継いで族長をしてもらうつもりだが」
「え……っ、そうなのですか? 私は母上がそのつもりで、私を『破邪の弓』の回収に同行させたのだと思っていたのですが」
「あれはただエルフの秘宝を取り戻すのにエルフが誰も行かないという法はなかろうと考えただけだ。それにマークスチュアートの元へは私が行こうと考えているのでな」
「は?」
「ん?」
「今なんと?」
「宴の時も話をしたのだが、マークスチュアートは妻に先立たれて今は一人身らしい。もっともあの連れの何人かはすでに妃候補なのだろうが、その中に私も入ろうと思ってな。唇を捧げてもいるし、それとなく聞くと私は十分に妃の対象に入るらしいのでな」
「しょ、少々お待ちください。私も何度かあの王には助けられておりますし、てっきり母上もそのつもりなのかと思っておりました。ですから私があの男の元へと参ると心を決めていたのです」
「いや、あの男はお前が嫁ぐには少し精神的に成熟しすぎている。しかも子持ちの男だ、私が行くのがふさわしかろう」
「いえですが、フォルシーナたちを見る限り、マークスチュアートは私のような見目の娘のほうが好みのはずです。ですからここは私が……」
「いや、あの男は私の身体に欲情していた。明らかに意識して目を背けたりしていたからな。ゆえにここは私が行って懐柔を……」
「ですが……」
「しかしだな……」
―― ミルザム王国 王城 国王執務室
「それはまことか、シルメド」
「はっ。インテクルース王国はブラウモント、ローテローザ領公爵によって打倒され、神聖インテクルース王国の建国が宣言されております。新たな王はブラウモント元公爵が即位、ローテローザ公爵家およびゲントロノフ公爵家はブラウモント王家に従う態度を示しております」
「あまりに早すぎるな。ブラウモント、ローテローザ両公爵家が旧王家に叛意を示してから15日ほどしか経っておらぬではないか。どのような軍略をもってすればそのようなことが可能なのだ」
「まったくわかりませぬ。インテクルース王都の密偵の話ですと、王都での戦いは、早朝に城壁での戦いが始まり、昼前には終わっていたそうでございます」
「あり得ぬ。それで神聖インテクルース国の戦力はどうなったのだ。新たな国となったとて、兵などはそのまま引き継ぐのであろう。直前の魔族との戦いと合わせれば大幅に消耗したのではないか?」
「それが両公爵による王都攻略ではどちらにもほとんど被害がでていないそうでございます。ただ魔導師団団長のレギン・レギルは死亡が発表されたとのことですが」
「インテクルースの双璧の一つが倒れたのはこちらにとっては朗報だが……。しかし王都のそのざまは、王家側に多く内通者でも出たのか。魔族の王都急襲では王子が活躍したと聞いたが、その王子はどうなった」
「捕らえられ、腹心の元ゲントロノフ公爵とともに処刑されたそうです」
「旧王家の血族はなにも騒いでおらぬのか?」
「まったく。それどころか、ほとんどの者がブラウモント王を支持しているとのことです」
「あり得ぬな。それだけブラウモントが辣腕ということか」
「恐らくはそうでしょう。ただ今のところ王都の警戒が厳しく、情報も十分には入ってはきておりません。ブラウモント王はそちらにも長けた人物のようですな」
「さもありなん。だがインテクルース王国が今不安定な状況にあることは間違いはあるまい」
「おっしゃる通りかと。そこで陛下、面白いお話があります。実は旧王家の血族の一人が、こちらに接触を望んでいるようなのです」
「ほう?」
「しかもその者の付き人の話によると、近々魔族がインテクルース王国に再襲来するそうで。ブラウモント王もそちらをかなり警戒しているとのことですので、話を聞く価値はあるかと」
「ふむ、話を聞く価値はありそうだな。よかろう、その者を我がもとに連れてまいれ。それとシルメド、ブラウモント王の情報をできるだけ多く集めよ。特にどのような手段を使って今回の戦に勝ったのか、その情報はなんとしてでも手に入れよ」
「ははっ。全力を持って当たらせます」
「魔族が暴れている今が大陸の盟主を気取るインテクルースを引きずり落とす絶好の機会なのは変わらぬ。まさか内乱で王が変わるとは思わなんだが、それも天の配剤に違いあるまい」
「おっしゃっる通りかと。それから陛下、こちらも例の付き人からの情報なのですが、いくつかの国が神聖インテクルース王国に目を向けているようでございます」
「いよいよもって面白い。そちらも急ぎ情報を集めよ。場合によっては同盟と結ぶことも視野に入れる必要があろう」
「ははっ、そちらも急ぎ確認をさせます」
「うむ。このミルザムを大陸の盟主たらしめることは我が王家長年の悲願。その機が訪れたとなればこれは間違いなく天意であろう。余の代でなんとしてでも成し遂げねばならんな」