作品タイトル不明
22 ダーマ
ツノ付きのダークエルフ、黒の影ダーマ。
彼女は俺との戦いの中で、ボスキャラには必須ともいえる第二形態へと変化した。
ツノが伸びる、白目が黒くなる、全身から黒いオーラが噴き出すといった見た目の変化だけでなく、俺が与えた全身の傷まで回復する。
ゲームでは『ネガティブドライブ』という技扱いだったが、強化&完全回復という状態変化は初見殺しもいいところだ。
「私ガコノ姿ニナッタカラニハ、ココニイル者タチハスベテ死ヌ。死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ネ死ネ死ネ死ネェッ!」
ダーマの動きが超加速したかと思うと、その姿が5つに分かれた。
5人のダーマは次々と『縮地』スキルで突っ込んできては、細剣をマシンガンのように連続で突き出してくる。切っ先から螺旋を描く黒いオーラは刀身に闇属性が付与されている証だ。
俺はその攻撃を『転身』スキルで鋭くステップを踏んで避けつつ、『シグルドの聖剣』で払いのける。だが『 神速(チート) 』をもってしても、5人分の攻撃をすべてをさばき切るのは難しい。さすがに終盤ボスの最終形態である。
俺が怯んだと見たか、5人のダーマは俺を取り囲んできた。
「『ダークレゾナンス』!」
5重の叫び声とともに、5人のダーマが黒い螺旋を伴った連続突きを放つ。
圧倒的な飽和攻撃、だが包囲攻撃には全周囲攻撃と相場は決まっている。
「『 蓋天(がいてん) 冥王剣(めいおうけん) ・ 開闢(かいびゃく) 』」
静かに技名を呼びつつ、俺は剣を天に突き上げる。と、全周囲に凄まじい刃の嵐が吹き荒れた。一瞬のうちに全周囲に無数の斬撃を放つという技であり、見た目のモーションこそ剣を突き上げるだけだが、その前に必死に周囲を斬っているのである。
それはともかく『シグルドの聖剣』に魔力を込めた状態で放ったので、斬撃にはすべて聖属性が付与されその威力を高めていた。ゆえに必殺技名に怪しげなサブネームが追加されたわけだが、名づけのセンスは俺の中のマークスチュアート面である。
「ナァッ!?」
全方位から俺に迫っていたダーマは、カウンター攻撃にまともに突っ込む形となった。5人のダーマは斬撃の竜巻に飲み込まれて全身を切り裂かれ、5重のやられ声とともに吹き飛んだ。
そのうち4人の姿は途中で掻き消え、本体の一人だけが辛うじて体勢を立て直し、着地して膝をついた。
「グッ!? バカナ、人族風情ガ鬼ヲ超エルダト!?」
「鬼など所詮、己の弱さにつけこまれ操られているだけの 傀儡(かいらい) に過ぎぬ。我が剣を超える道理はない」
「ダッ、黙レッ! 貴様ナドニ我々ノ苦シミナド理解デキルカッ!」
「理解はできぬが理解しようとすることはできぬでもない。もっともそちらの態度次第だがな」
「ソレガ理解シヨウトスル人間ノ態度カッ! 貴様ラ人族ハ変ワラヌ! 永遠ニ傲慢ナ蛮族メ! 滅ビヨ、滅ビヨ、滅ビヨッ!!」
叫びながら立ち上がろうとするダーマだが、全身から黒い血が吹き出して再びガクリと膝をついた。
ダーマは見るからに闇属性だし、聖属性武器で切り刻まれれば容易には動けないだろう。
俺は歩を進め、ダーマの前に立った。
さて、このタイミングで鬼の一人であるこのダークエルフが出てきたのは多少驚いたが、すでにシナリオが崩壊しているこの世界ではそういういものだと受け入れるしかない。
問題はこのダーマをどう扱うかだが、厄介なことにこのキャラは、ゲームでは殺すと『詰む』設定だったのだ。なら捕まえれば、とも思うが、それをするかどうかもかなり悩ましい。なにしろこのダーマは――
『だから先走るなといったのだダーマ。その男は我が影をこともなく倒したのだぞ』
その暗い声はダーマの足元から聞こえた。
同時にダーマの足元の影からいきなり黒い触手のようなものが無数に伸びてきて、ダークエルフの身体を包むように黒い 檻(おり) を形作った。
「ジビットゲイン、カ……」
『ここは退け。エルフの頭領を潰したのだからエルフどもの動きは鈍ろう』
「ソウ、ダナ。貴様ノ言ウトオリダ。最低限ノ目的ハ達シタ。ソレニ私ハマダ死ネヌ」
『当然だ。我らには大望があるのだからな。そして人族の王よ、じきに我らは力を取り戻す。その時が変革の時だ』
そんな捨てゼリフを残して、ダーマを包んだ触手はダーマごと影の中に沈んでいった。
どうやら仲間が来て逃がすイベントを演出してくれたらしい。こちらとしても助かった。
俺が胸をなでおろしていると、背後から「母上、母上!」というアルファラの悲痛な叫び声が聞こえた。おっと、気を抜いている場合ではなかった。
俺はゼファラを抱えているアルファラの元に向かった。
族長ゼファラはすでに力なく仰向けになっていて、呼吸も浅く、その瞳は今にも光を失いそうになっていた。
「マークスチュアートよ、母上を助けてくれ!」
「うむ、任せよ」
俺はマジックバッグから『エクストラポーション(精霊水版)』を取り出す。
が、ゼファラはもう飲み込む力もないようだ。
こういう時はアレしかない。俺のマークスチュアート面が素早く行動に移る。
『エクストラポーション』を口に含み、そしてそれをゼファラの口に流し込む。
そう、いわゆる『口移し』というやつだ。映像作品などで見たことのある行為だが、まさかそれを実際にやるとは思わなかった。
口に無理矢理流し込まれた『エクストラポーション』は、どうやら無事に 嚥下(えんか) されたようだ。多少気管に入っただろうが、ポーションはどこからでも吸収されてしまうので問題はない。
しばらくするとゼファラの全身の傷が急速に塞がっていき、そして瞳にも命の光が戻ってきた。『エリクサー』と同等の効能があるかもしれないという話だが、少なくとも半死半生状態からは十分回復ができるようだ。
アルファラに抱えられていたゼファラが自分の力で上半身を起こすと、アルファラはその首に抱き着いた。
「母上っ! ああ母上! 死の淵から戻られたのですね!」
「うむ、どうやらそのようだ。しかしアルファラ、族長の娘が人前でそのように泣くものではないぞ」
「そうは言いますが母上……っ」
「まったく、そろそろ親離れをしなければならんというのに……」
そう言いながらも、優しそうな目で娘の頭を撫でるゼファラ。うむ、感動的なシーンである。
ゼファラが原作ゲーム通りに死ぬのは同じく死の運命にあった俺としても嫌なので、ホッと胸を撫でおろす。
さてこれで、エルフの里でのイベントは完全に消化できたはずだ。
エルフ族と友誼を結び、『破邪の弓』も取り戻し、しかも『地の大精霊』まで前倒しで保護できた。イレギュラーな『鬼』たちの出現は多少驚いたが、どちらもいい形で追い返すことができたし、ゼファラの死を回避できたのも大きい。
チート頼りとはいえほぼ完璧なミッションコンプリートっぷりに独り満足していると、背後からフォルシーナたちが歩いてきた。
「お父様、おめでとうございます。これでエルフ族の協力は間違いなく得られそうですね」
「うむ、それが目的であったからな。多少想定外のことが起きてしまったが、これで安心して王都へ戻ることができるというものだ」
答えながら振り返ると、そこには嬉しそうに微笑む愛娘――ではなく、すべての感情を失った、完全に『氷の令嬢』モードに入ったフォルシーナの姿があった。周囲の空気が凍るほどの冷気をまとうその姿は『鬼』にも匹敵するほどの威圧感がある。
「そうですねお父様、これで城で待っている皆にいい報告ができるでしょう。しかしその前に……お父様にお話があります」
久しぶりに聞く絶対零度を音にしような冷たい声に、俺は一歩下がりながら、「う、うむ」と応えるしかなかった。
……いやちょっと、俺なにもしてないよね?