軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 騒動

さて、地下のダンジョンを後にした俺たちは、そのまま元のルートを辿って地上へと戻ることにした。

縄梯子を上る時は俺がしんがりとなるが、間違っても上は見ないように注意する。しかし女子がそのことにまったく気づかないのも不思議ではある。もっともこの世界、流行りなのか若い女子はミニスカートが多いので単に気にしていないだけかもしれない。

まあゲーム世界じゃこれが普通だしなあ、とか考えて上っていたら、途中でフォルシーナが声を上げた。どうやら虫がいたらしいのだが、もちろん俺は下を向いていたのでセーフであった。頭頂部にフォルシーナの視線を感じたので、ここで選択肢をミスっていたら危ないところだった。

縄梯子を上りきった先はもちろん『破邪の弓』が収められていた祭壇の間である。

アルファラを先頭にして外に出ると、不思議なことに神殿の外には誰もいなかった。ゼファラは誰か立たせて置くといっていたはずなのだが……。

それどころか少し離れたところにある里長の館の向こう、広場のほうがひどく騒がしい。何度か響いてくるのは明らかに剣戟の音である。里の中で争いが起こっているのは間違いなかった。

その上マリアンロッテが、

「国王陛下、非常に邪悪な気配が……! これは先ほどのアンデッドのものに似ている気がします!」

と叫ぶに及んで、俺たちの間に強い緊張が走った。

フォルシーナたちは俺の顔を見てくるが、アルファラだけは広場の方に顔を向けたままである。

「これは……里でなにが起きているのだ!?」

「緊急のなにかが起きたようだ。急いで見にいくとしよう」

焦燥に染まった顔のアルファラに答えつつ、俺は皆を連れて広場の方に走っていった。

一応冷静なふりをしたが、実はこれは俺にとってもイレギュラーな事態であった。ゲームにはこんな展開はどのルートにもなかった。なかったのだが、エルフの里を襲う可能性がある、先ほどのアンデッドと似た気配を持つ存在には覚えがなくもない。

里長の館を回り込んで表の広場に出ると、そこには広場を囲む大勢のエルフと、その中にいる二人の人物が目に入ってきた。

一人は里長である、金髪縦ロールの美女ゼファラだ。

彼女は全身が傷だらけ、血だらけの状態で地面に片膝を付いていた。気丈にもまだ顔を上げてはいるが、今にも倒れそうな状態である。というよりあの出血量では、もはや命の灯がいつ消えてもおかしくないように見える。地面には『エクストラポーション』の空ビンが落ちているので、そちらもすでに使ってしまったようだ。

一方、ゼファラに睨みつけられている人物もゼファラに劣らぬ美女であった。

黒いロングヘア、長い耳と浅黒い肌、一見してダークエルフと思われるが、その女の額には二本の赤いツノが突き出ている。

さらには全身から立ち上る赤黒いオーラと、身にまとう強烈な強者の気配。誰が見ても並の存在でないことを悟らざるを得ない、そういう雰囲気の女である。

なお年齢は二十代後半に見えるが、実際はもっと上のはずだ。そう、その女は俺のゲーム知識にある人物なのだ。

そのダークエルフの女は血のように赤い目でゼファラを見下ろし、手にした細剣をつきつけた。

「薄汚い人族に与しようとするなんて、見下げ果てたものねゼファラ。いつからそのような腰抜けになったの?」

「……長い年月が経てば誰もが変わるものだ。仲間のもとを去ったお前は知らぬだろうが、ダークエルフたちもすでに別の生き方を見つけているぞ」

「貴女のような小物には私の大望など理解できるはずもない。まあでも、貴女たちの居場所がつかめて助かったわ。まさかこんなところに隠れてるなんてね。腰抜けエルフたちには相応しい寂しい里だわ」

「余計なお世話だ。お前たちもこちらに来ていれば、無駄な苦労をせずに済んだものを」

「ダークエルフは誇り高いの。貴方たちと同じに考えないでもらいたいわね」

「結果得たのがその薄汚い姿か。お前がなにを求めて生きて来たのか知らぬが、無様なツノを見る限りろくでもないものであろう」

「貴女のような低能な人間に理解してもらわなくて結構よ。ここのエルフたちは私が使ってあげるから安心して死になさい」

「なんだと……? いったいなにをする気だ!?」

「貴女がそれを知る必要はないわ。さよならゼファラ」

ツノの生えたダークエルフの女、ダーマはそう言うや、細剣を一閃させてゼファラの首を切断……しようとしたが、それは間一髪『シグルドの聖剣』によって阻まれた。

俺が細剣を押し返すと、ダーマは素早くバックステップして構え直した。

「私の邪魔をするなんてよほど死にたいみたいね。……あら、貴方はブラウモント王。まさか『破邪の弓』をもう取り戻してきてしまったの?」

「無論だ。それよりエルフの里に何用かな、『黒の鬼』よ」

俺がゼファラを庇うように前に出ると、ダーマはさらに一歩下がりつつ、眉を潜めて瞳の赤を濃くした。

「それを答える必要はないわ。しかしそう、貴方は思ったよりも強く、しかも余計なことを知っているようね。それは少し困るのだけれど」

「私はお前の都合で動いているわけではないのでな。しかしお前がここに来るのはもう少し後なのではないか? 予定を繰り上げられては困るのだが」

「なにを言っているのかわからないけれど、こちらも貴方の都合で動いているわけではないわ。しかし貴方、話に聞くよりふざけた人間ね。少し力の差を教えてあげましょうか」

ダーマは瞳を光らせると、細剣を構えつつ一瞬で距離を詰めてきた。

「そぅらッ!」

口元に笑みを浮かべながら、ダーマは細剣を超高速で突き出してくる。閃く銀光はさながら流星の雨。

自信を裏付ける凄まじい剣の腕だが、その程度では『神速』は破れない。刃同士が発する金属音が一瞬で数十と鳴り響き、『シグルドの聖剣』はすべての突きを弾いて逸らした。

「へえ、これについて来られるなんて……面白いわ」

ダーマの細剣が、黒いオーラをまとい始める。

「もう少し本気を出してあげましょう!」

それまで直線的だった突きが、変幻自在の軌道を描くようになる。しかもほとばしる黒いオーラが視界を奪うという、ゲーム的には『視界不良』というステータス異常効果付きの技だ。『ブラインドスラスト』という名前だったか。

もっともそれでも俺の『神速』を破るには不十分だ。何しろ細剣の先端が俺に届く瞬間さえ見えれば、余裕で反応が間に合ってしまうのだ。

すべての攻撃を止めた上で最後の一撃を大きく弾くと、俺は『シグルドの聖剣』に魔力を込めて、剣先から中級光属性魔法『シャイニングレイ』を放った。

鋭い光線が体勢を崩したダーマの左肩を直撃、貫通しないまでも肉を 抉(えぐ) る。飛び散ったのは黒い血だ。

「な……にっ!?」

大きく飛びずさるダーマ。左肩をかばうように、右手の細剣を前に出して構える。

俺はそのまま『縮地』で距離を詰め、『シグルドの聖剣』を振るってダーマを追い詰める。剣と剣の差し合いだが、テクニックは互角としても、パワーはもとよりこちらが上、その上スピードで圧倒しているとなると勝負にはならない。

『シグルドの聖剣』の切っ先は何度もダーマの身体をかすめ、その身体に傷を刻み付けていく。

「くぅ……っ! まさかここまでやるとは……ッ!」

「手も足も出ないようだな、黒の鬼ダーマよ」

「黙りなさい! 人族風情が調子に乗るナアッ!」

ダーマの全身から黒いオーラが一気に噴き出し、同時に彼女の全身の傷が一瞬で回復する。目の白い部分が黒くなり、ツノが更に伸びて見た目がさらに鬼の雰囲気を強くする。ボスキャラお約束の第二形態である。