軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 試練 2

「くっ、今度こそ……っ」

再び現れたリバーシ盤を前に、アルファラが雪辱に燃えた姿でゆらりと立ち上がる。

が、このままだと彼女が勝つ前に俺たちはミイラになってしまうだろう。さすがにそれは勘弁願いたいので、仕方なく腹黒国王ムーブを発動することにする。

「待てアルファラ殿、ここはやはり協力すべき状況であろう」

「ならぬ、これは私の試練なのだ。私一人で乗り越えねば母上にも顔向けができぬ」

「果たしてそうであろうか?」

「なに……?」

必殺の眼鏡スチャッ攻撃はまだ有効だったようで、アルファラは一瞬動きを止めた。

というか言動からいっても根が素直な娘さんなんだろうなあ。実際ゲームでもそういう 人間(キャラ) ではあった。

「試練というが、もしこれがアルファラ殿への試練であるなら、一体なにを試されているのか、それをまず考えてみたまえ」

「なんだと……なにを試されているかなど明らかだろう。私の能力だ」

「能力といっても様々だ。知力体力精神力、手先の器用さ話の巧みさ、剣の冴え弓矢の腕魔法の扱い、ここでアルファラ殿が試されている能力はなんだと考える?」

「それは……このゲームは明らかに知を競うものだ。ゆえに私の知力が試されているのだろう。違うか?」

「私は違うと考える。なぜならアルファラ殿、貴殿に最も必要な能力は知力などという単純なものではないからだ」

「どういうことだ?」

訝しげな顔をしつつも、腰に手を当て、身体を前に乗り出してくるアルファラ。露出が多いせいで前かがみになると胸の谷間が強調されるからやめてもらいたいんだよなあ。

俺は目を微妙に逸らしつつ、咳払いをして言葉を続ける。

「貴殿はこの先、ゼファラ殿の後を継いで族長になることが望まれているのであろう。では族長に最も必要な能力、資質と言ってもよいが、それはなんだと心得る?」

「決まっている。弓の腕、魔法の腕、そして美しい肉体だ」

今度は逆に胸を反らして堂々と答えるエルフ少女。

たしかにその身体は美しいと評するに足るものだが、密室であるこの場で腹筋を見せつけるのはやめていただきたい。

「それはエルフ族としての資質であろう。族長として必要な資質はまた別のものだ。違うか?」

「む……確かにそうかもしれぬ。ではなにが必要なのだ」

「これは数百万の民を治める国王としての見解として聞いてほしい。集団の長として最も必要な資質、それは他者の言葉に耳を傾けることだ」

「他者の言葉に……人の話をよく聞けということか?」

「それだけではない。人の上に立つ者は必ず近くに信用できる者を置き、なにかあればその者に意見を聞き、時には協力を仰ぐべきなのだ。何事も自分一人で解決する、そのような心構えを長は決して持ってはならない」

「むむ……う。つまりどういうことだ?」

「話を元に戻すと、いまアルファラ殿が試されているのは知力などではなく、人と力を合わせ、時には人に物事を任せて自分はそれを見守るという、そういう器の大きさなのだ。ここで意固地になり自分で解決しようとするのは、それこそ正反対の、間違った態度ということになる」

「うむむむ……、人族の王よ、お前の言葉はわかりにくい。要するにこの場をお前に任せればいいのだな? それが私の度量の大きさを示すことになると言いたいのだろう」

「その通りだ」

小難しく聞こえる言葉で煙にまいただけなんだが、重要なことはきちんと伝わったようだ。このあたりはさすが腹黒中ボスであるが、アルファラも母親譲りの勘の良さがあるのだろう。

そうホッとしていたのだが、アルファラはしばし考え込んでから、

「しかしここでお前に力を貸してもらえば、私はお前に対して借りが大きくなりすぎる。すでに一度命を救われている身だ。そのようなことは私としても自分を許すことができん」

などと言い出した。

ああそういえば融通が利かない一面もあったなあ。

しかし困った。こういう相手は理で説き伏せようとしても無理である。なぜならそもそも彼女の言動の理由が感情にあるからだ。

とすればここから先は感情面に揺さぶりをかけて説得するしかない。幸い、マークスチュアートという 人間(キャラ) はそういう手練手管にも長けている。

俺はまず、アルファラの前に回り込み、正面から彼女を見据えた。

「な、なんの真似だ!?」

「アルファラ殿、まずこれだけは理解しておいてもらいたのだが、私はあの場で貴殿を救ったことを貸しであると思っておらぬ」

「お、お前としてはそうかもしれんが……」

「そもそも私は貴殿とそのような浅い関係を持つつもりはない。人族とエルフ族の過去の 軋轢(あつれき) を考えた時、まず必要なのは互いが心から信頼できると思える関係を作り上げることであろう」

「それは……確かにそうであろうな」

「とすれば、我らの間にまず必要なのは打算のない行動だ。ここで私が貴殿の代わりに試練を行うというのも、貴殿に貸しを作ろうとしてではない。私が貴殿の力になりたいと、そう純粋に考えただけに過ぎぬ」

「力になりたい、だと……?」

そこで急に訝しそうに眉を寄せて目つきを鋭くするアルファラ。

まあこんな陰険そうな糸目丸眼鏡国王がそんなことを言ってもすぐには信じられないよなあ。実際適当に言ってるだけだし。

しかし俺の中のマークスチュアートがここが決めどころだと言っているので、俺は間髪入れずに言葉を続けた。

「さよう。私が貴殿を助けたいから助けるのだ。いや、こう言い換えた方がよいか。どうか私に貴殿を助けさせてはもらえぬか。貴殿は私にとって大切な存在なのだ」

キメ台詞なので、俺は糸目を開いて真面目顔をしてみせる。そのまま少しだけ上半身を前に出し上からのぞき込むようにすると、アルファラは気圧されたようにその場でのけぞった。

う~ん、こういう時は視線の高さを合わせたりした方がいいような気もするんだが、俺の中のマークスチュアートがそうしろと言っているんだよな。

「お、お前はなにを言っているのだ。大切な存在などと、そのような 空言(そらごと) で私がほだされるとでも思っているのか!?」

アルファラはというと、なぜか顔を真っ赤にして怒り始めた。

確かにちょっと言い過ぎたきもするのだが、感情をゆさぶるのが目的だから仕方ない。その意味ではアルファラの態度はこちらの思うつぼである。

「無論そのように簡単に貴殿の心が得られるとは思ってはおらぬ。だがそういった気持ちを私が持っているということは理解してもらいたいのだ」

「おっ、お前はやはり私を情婦にしようとしているのだろう!?」

「何度も言うが、そのようなつもりは一切ない」

「では今の言葉はどういう意味なのだ!?」

「どうと言われても困る。そのままの意味でしかないからだ」

ここで腹黒中ボス得意の適当曖昧発言を交ぜておく。

アルファラに対しては、俺はすでに実力が上であることは見せつけてある。その上で感情を揺さぶりつつそれっぽいことを言えば、後は勝手に勘違いするはずだと俺の経験が言っている。エルフの小娘なぞ所詮腹黒国王の手のひらである。

「くっ、なんという訳のわからぬ男だ! しかし情婦でないとすると……」

予想通り、アルファラはそこで顔をしかめながら考えごとを始める。

「いや待て……。口説いているのに情婦にするのが目的ではないということはまさか……。はっ!? もしや母上もそこまで考えてこの場に私を……!? 確かにあそこまでの力と美を持つ王、私としても悪いとは思わぬが……。それに部族間でのつながりを作るという考えも理解はできる……」

ボソボソとなにかを喋りながら、何度もうなずき始めるアルファラ。

その顔は赤くなったり厳しくなったりと動きが激しいが、だんだんと納得するような表情になっていくのがわかった。

どうやら上手くいきそうかと思っていると、アルファラは決意を浮かべた顔で見上げてきた。

「お前の考えは一応理解した。つまりその……お前は私と仲を深めたいという気持ちがあって、だからこそ協力させてほしいと、そういうわけなのだな?」

「うむ。エルフ族とはそのような関係にありたいと思っている」

「なるほど、私もエルフ族族長の娘。そういった話も理解できなくはない。ならばここはお前に任せよう、人族の王マークスチュアート」

やたらと覚悟の決まった顔で宣言するアルファラ。彼女にとって試練の交代は、やはりプライドを傷つけられるものなのだろう。

しかしここで納得してもらわないと、無限に負けリバーシに付き合うことになるからな。悪いがエルフ族のプライドは一時胸に納めておいてもらいたい。

俺は内心胸を撫でおろしながら、「ではお任せ願おう」と言って、リバーシ盤の置かれた机に向かっていった。

一瞬交代が認められないのではないかと思ったがそんなことはなく、俺が最初の一手を打つと、床から腕が伸びてきて向こうも次の一手を打ってきた。

互いに何手か打ったところで、隣で見ていたアルファラが眉を寄せる。

「序盤はよいのだ。しかしいつの間にか追い詰められているのが不思議でならぬ」

「先ほども言ったが、定石のようなものがあるのだ。後でお教えしよう」

と言っても、俺が知ってるのは四隅を取られないようにするってことくらいだけど。

子どものころはそれを知ってるだけで負けなしだったんだが、周囲がそれを知ったら結局いい勝負をするようになってしまったことを思い出す。

「むむ、よくわからぬが貴殿が優勢だというのはわかる。単純なゲームと思ったが、奥が深いのだな」

「そうだな」

などと話しているうちに決着がついた。白8黒2くらいの割合で俺の圧勝であった。定石に関する知識とマークスチュアートとしての知能が合わされば当然の結果である。

「ううむ、さすがだ人族の王。貴殿は知力も並外れていると見える。これほどの傑物であれば情婦の多さも納得がいくというものか。だが私は情婦 に(・) は(・) ならぬぞ」

「そのつもりもないし、その前に情婦など一人もおらぬ」

どうもアルファラの勘違いは一向に訂正されないらしい。しかも「情婦」という言葉にやたらと重みがつくようになったのだが、先ほどのやり取りで俺がアルファラを男女の仲的に狙ってると取られてしまったのだろうか。いやさすがにそれはないか。政略結婚するとしたら年齢的にはゼファラの方だもんなあ。

それはともかく、条件を達成したことによって、地面から腕がにゅっと伸びてきて、テーブルの上に野球ボール大の黄色い玉を置いていった。それが試練クリアの証拠品『地精霊のオーブ』である。大層な名前だがただのイベントアイテムで、これと交換に『破邪の弓』が手に入れることができるわけだ。

俺がそれを手に取ってアルファラに渡すと、背後で扉が開く音がした。