軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 試練 1

そんなわけで、俺とアルファラの二人は溶岩の上にできた道を渡り、その奥に開いた洞窟に入っていった。

狭い洞窟を少し進むと、目の前が急に開けた。

そこに広がっていたのは、非常に広い地下空間だった。

俺たちが入っていくと、背後で重いものが動く音がした。振り返ると入り口が石の扉で閉まっている。試練が終わるまでは出られないといういうわけだが、このあたりはお約束なので焦る必要はない。

改めてその広い部屋を見回す。

真っ先に目に入ってくるのは、奥に立っている戦士を模した巨大な石像である。

鎧兜をつけ、右手に長剣、左手に盾。身長は5メートルくらいだろうか。無言でこちらを睨みつけているような、今にも動き出しそうな、そんな雰囲気がある石像だ。

そしてその手前、ちょうど部屋の中央にテーブルがあり、その天板には碁盤の目のような模様が描かれた板が置いてある。

「人族の王よ、この部屋はどのようなものなのだ。あの奥の石像と、手前の机が怪しいというのはわかるが」

「まずはあの机のところまで行ってみるとしよう。なにかわかるかもしれん」

なにがあるかはゲーム知識でわかってはいるが、そのままとは限らない。一応警戒しながら真ん中のテーブルまで歩いて行く。

天板の上に置いてある板には、やはり碁盤の目のような模様が描かれている。というより、はっきりいえばそれは日本でもっとも有名なゲームの一つである『リバーシ』のゲーム盤であった。ご丁寧に真ん中には白と黒のコマが4つ置いてあり、すぐにゲームができるようになっている。勿論使うコマも横に並べて置いてある。

「なんだこれは、占星盤かなにかか?」

「いや、これは恐らくゲームをするための盤面だな」

「ゲームだと? 石置きにしてはマス目が多いようだが」

「このマス目とコマは、古代人が興じたと言われている『リバーシ』だろう。これがあるということは、このゲームをして勝つのが試練の一つということなのだろうな」

と少しの嘘をまぜつつ状況を説明する。

非常に唐突な感じがするが、要するにこれ、元のゲームでは『試練』を突破するためにまずはミニゲームをクリアしろというイベントだったのだ。

もちろん負ければ奥の石像が動き出してバトル、それを倒せばクリア……ではなくて、もう一度『リバーシ』に挑戦という流れだ。勝てなくても3回石像を倒せばクリアとなるが、その場合アルファラの好感度が大幅に下がるという設定だった。

そこからもわかる通り、この『リバーシ』をプレイするのは主人公という設定である。ゲームではプレイヤーが指すことになるのだから当然だが。

「では私がやってみよう。アルファラ殿は見ていて――」

「待て。この試練で試されるのは私なのだろう? であれば、その『リバーシ』とやらをやるのも私であるべきではないのか?」

「む……」

言われてみれば確かにその通りである。ゲームとは違ってしまうが、これもリアル世界ならではの違いか。

「アルファラ殿の言う通りだ。ではこのゲームのルールを説明するゆえ、挑まれるがよい」

「教えてくれ」

というわけでリバーシのルールの説明をする。まあ子どもでも遊べるゲームなので、アルファラもすぐにルールは覚えたようだ。

「簡単なルールだな。それなら問題なかろう。では早速やってみるか」

自信満々に鼻息を荒くして、アルファラはゲーム盤に向かった。

この試練ではプレイヤー側が常に先攻なので、白を選んで早速コマを置く。すると不思議なことに、挟まれた黒いコマが勝手にひっくり返った。なるほど自動のリバーシ盤か。これは地球でも見なかった技術だな。

さて、相手どうなるのかと思ったら、机の向こうの地面から土の腕がニョキッ伸びてきた。その手が器用に机の上のコマをつまむと、盤面に黒いコマを置いた。やはり自動で白がひっくり返る。というかそういう形だったのかこのミニゲーム。

「なるほど、面白い仕掛けだ。ではさっさと片をつけてしまおう」

初見のゲームなのになぜか自信に満ちた雰囲気のアルファラ。その態度にほのかなポンコツ臭が漂い始めているのは気のせいだと思いたい。

15分後……。

「なっ、バカな!? ほとんどが黒……だと!?」

白が5つしか残っていない盤面を前に、うろたえる超絶美形なエルフ少女。その後ろで、俺は溜息を押しとどめるのに必死になっていた。そんなので好感度を下げるわけにはいかない。

さてどうなるかと思っていると、リバーシ盤が置かれたテーブルがすうっと地面に吸い込まれていった。

代わりにゴゴゴ、と音がして、見ると奥の巨大な戦士の石像が動き出していた。

「くっ! まさかゲームに負けたからか!?」

「そのようだな。この程度は私の相手にはならぬから下がっているがよい」

「いやしかし、これが試練というなら――」

「アルファラ殿、先ほどのゲームがアルファラの殿の試練というなら、こちらは私に対する試練ということだろう。そうでなければ2人で入る意味はないのだからな」

「う……確かに一理ある。だがあの巨大な戦士、一人で大丈夫なのか?」

「案ずるまでもない」

俺は『シグルドの聖剣』を抜くと、一気に魔力を込める。

刃が青白く強烈に発光したところで切っ先を突き出すと、刃から電柱ほどの光の柱が走り、石像の胸に直撃する。

上級光属性魔法『ライトオブジエンド』の一撃で石像の上半身は砕け散り、下半身はその場に大きな音とともに倒れる。そしてその砕けた破片や残った下半身は、すごい勢いで奥へと飛んでいくと、逆回しにした動画のように元の石像へと戻った。

「……本当にでたらめな強さだな。いや、あの石像が見た目ほど強くないのか?」

アルファラがそう呆れたような、少しだけ疑わしそうな目を向けてくる。

なかなか鋭い意見だが、決して弱いモンスターではない。もっともゲームでは2人で戦うことが前提で、しかも複数回戦うこともあるのでそこまで強いということもなかった。今の手応えからいって、アルファラ一人でもギリギリ勝てるレベルだろう。

「どちらにしろアルファラ殿が出るほどのことはないということだ。それより先ほどの盤上ゲーム、再びやることになるようだ」

「むっ、望むところだ。今度は先ほどのようにはいかぬ」

見るとテーブルがいつの間にか元に戻っていて、アルファラは勇ましい言葉とともに、再度『リバーシ』を始めた。

……のだが、まあ結果は言うまでもなく惨敗である。

しかし横で見ていると、アルファラはここぞというところですべて間違ったほうにしか指さないという、ある意味奇跡的なリバーシの打ち手であった。

俺は再び動き出した石像を『ライトオブジエンド』で沈黙させてから、腕を組んで唸っているアルファラに声をかけた。

「アルファラ殿、あのゲームにはコツがあってな。よければお教えできるが……」

「いや、これは私の試練だ。人の手を借りては意味がない」

「そのようなこともないとは思うが……」

「2回やってこのゲームの感覚は掴んだ。次は勝つ」

妙に自信満々なところがポンコツ感をいやますのだが、さすがにそうとは言えないので俺は黙ってうなずくにとどめた。

ゲーム通りなら勝っても負けてもあと一回だし、さすがに彼女がリバーシをしている以上、俺に対する好感度が大きく下がるということもないだろう。

と気楽に構えて3回目の勝負の行く末を見守ったが、なんと今回は途中で全部黒にされて完封負けしてしまった。感覚を掴んだとは一体……。

ガクリと膝を付いて落ち込むアルファラをよそに巨人戦士の石像が三度動き出し、 三度(みたび) 俺の一撃で崩れ去った。こちらにはお疲れ様と声をかけたい。

さてアルファラにとっては不本意だろうがこれで試練終了かと思っていたら、床からまたリバーシ盤を乗せたテーブルがせりあがってきた。

しかもそれ以外の動きはなく、閉じた入り口の扉もそのままだ。あれ、まさかこれ、勝つまで出られない感じ?

背に冷たい汗が流れ始めるのを感じ、俺は秘かに身震いをするのだった。