軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 地の精霊クーロ

アンデッドが去ると、その場には俺たちと、そして『破邪の弓』をくわえた犬型ゴーレムが残された。

といっても、これが本来あるべき状況である。

アンデッド戦で消耗した体力が戻ったのか、アルファラが真っ先に俺のところにやってきた。

「人族の王よ、『破邪の弓』を取り戻したい。しかしこれはどうしたらいいのだ? あのゴーレムを『精霊』と呼んでいたようだが、どうすれば取り戻せる?」

「あれが『精霊』であれば話が通じるはずだ。まずは交渉を試みよう」

俺が前に進み出ると、犬型ゴーレムは弓をくわえたまま、こちらに身体を向けた。

大きな石を犬の形に削り出したような見た目で、写実的というより、アニメの犬のように多少デフォルメがかかった作りである。

ゲームだと可愛らしく描かれていた気もするが、実物はトラぐらいの大きさなので可愛いかと言われると微妙である。もっとも偉大なる精霊であるのだから、それでいいのかもしれない。

俺は五メートルほど手前で足を止め、犬型ゴーレム――『地の精霊クーロ』に話しかけた。

「初にお目にかかる、『大地の精霊』クーロよ。私はマークスチュアート・ブラウモント。神聖インテクルース王国の王だ。この度はエルフ族の依頼を受け、その『破邪の弓』を探しに参上した」

「グルル……」

「貴殿が持っているその『破邪の弓』はエルフ族の宝、そして先のような邪なるものを退けるのに必要なものなのだ。どうかお返し願えないだろうか」

「グルル……」

う~ん、唸るだけでコミュニケーションが取れているのかどうか不明だな。

ゲームだと「グルル(そうか)」みたいに表示されていたんだが、あれってどういう表現だったのだろう。もしかして主人公は犬語を理解していたのだろうか。音声だとやっぱり唸ってるだけだったし、説明が一切なかったんだよな。実際来ればわかるのだろうとたかをくくっていたんだが……。

ほかに反応がないか待っていると、クーロはいきなりお座りの姿勢になり、『破邪の弓』を地面に置いた。

それを見てアルファラが前に出ようとするが、俺はそれを制止した。

「む、なぜ止める」

「あれは『破邪の弓』を渡すという意思の表れではなかろう。見よ」

「なに?」

俺が指さしたのは、クーロの後ろ、溶岩だまりである。

見ると溶岩だまりの真ん中に一本の道ができ、奥の壁までつながった。そしてその奥の壁の一部が崩れ落ち、洞窟のような穴が現れた。いかにも『新しいマップ出現』という感じである。

「なんだ、あれはどういうことだ?」

「グルルルル……」

クーロは答えてくれたようなのだが、やはり意味がわからない。

ただゲーム知識でいえば、確か「『破邪の弓』を得たくば試練を乗り越え、相応しき力があることを示せ」みたいなことを言っているはずだ。そして新たにできた道がその「試練」に続く道というわけだ。

なお、ただ落とし物を返すのに条件つけるのはどうなのか、という疑問は、ここでは持ってはいけない。相手は人智では量れない『精霊』なのだ。

「どうやら『破邪の弓』を返すのに、こちらを試しているところがあるのかも知れぬ。あの新たに開いた通路になにかあるのであろう」

「そのようなことがあるのか? そもそもあの『破邪の弓』はエルフ族のものなのだぞ?」

「アルファラ殿の言うこともわかるが、相手は精霊だ。ここは従った方がよい」

「そもそも今言ったことが本当かどうかもわからぬのにか?」

「うむ……どうだ地の精霊クーロよ。あの奥の通路に入って我らに力を示せということなのであろう?」

確認をとってみると、クーロは「グル」と喉を鳴らしてうなずく動作をした。

それを見て、アルファラがすごく訝しそうな顔を俺に向けてくる。

「人族の王よ、お前は精霊の言葉がわかるのか?」

「お父様はすべての事象に通じていらっしゃるの。すでに精霊様のお力すらいただいている身だから、言葉の壁などないに等しいのよ、アルファラ」

いつの間にか近くに来ていたフォルシーナが、なぜか胸を張って自慢そうに説明する。

俺にとってはむず痒いことこの上ないのだが、ここは助かったというべきか。おかげでアルファラも眉を寄せながらもうなずいてくれたし。

「……わかった、どちらにしろ言う通りにするしかないようだ。それで、試練とやらには全員で向かうのか?」

というアルファラの質問に、精霊クーロは首を横に振りながら「グルルッ」と吠えた。

多分「あの試練には2人で挑まねばならぬ」と言っているはずだ。なにしろこれ、主人公とアルファラの好感度アップイベントだからなあ。

まあどちらにしろ、この先の「試練」を考えると俺とアルファラが行くしかない。

本当は俺の代わりに仲のいいクーラリアでもいかせたいところなんだが、男女2人という都合のいい縛りがあるのである。まあ元がギャルゲー気質あふれるゲームなので仕方ないのだが。

「人族の王よ、今のはどういうことだろうか?」

「恐らく試練に挑むには条件があるのだろう。例えば人数は2人でなければならないとかだな」

チラッと見ると、クーロは「グル」とうなずいた。やっぱりそうだよね。

「本当に言葉がわかっているのか……。まったく意味がわからぬ人族だな」

「アルファラ、これがお父様です。驚くことではありません」

フォルシーナの横でマリアンロッテもコクコクとうなずいていて、それを見たアルファラは諦めたような顔になった。

「まあいい。それで『試練』とやらは誰が挑むのだ? 当然私は行くが」

「私が行こう。2人と限定するからには、恐らく男女が想定されているはずだからな」

チラッと見ると、クーロは「グル」とうなず……かないで、こちらをじっと見ているだけだった。アレ?

「お父様、男女一組でなくてもいいようですが」

フォルシーナが急に謎の圧を醸し出してくる。見るとヴァミリオラもジトッとした目になってるし、まさかまた俺に妙な疑いがかかりはじめているのだろうか。

しかしなぜ……と考えて思い出した。このイベント、男女一組が指定される会話はなかったのだ。ゲームだと主人公が「じゃあ俺とアルファラの二人で行こう!」とか勝手に言い出していたからな。そうすると男女の縛りは勘違いということか。記憶なんて所詮そんなものである。

ただこの先にある『試練』の内容を考えると、やはり俺が行くのが最適、というか俺が行かないとなにをしていいか分からないはずだからなあ。

「う、うむ。だが私が行くのが手間がなかろう。どのような事態にも対処できるゆえな」

「もしやお父様自身、アルファラと2人になりたいだけなのではありませんか?」

「そうではない。そもそも『破邪の弓』を取り戻す依頼を受けたのは私だ。私が行くことがもっとも理に適おう」

「しかしお父様」

やはり納得しないのか、さらになにかを言おうとするフォルシーナ。

その周りを、マリアンロッテとミアール、そしてクーラリアが取り囲んだ。

「フォルシーナ、これは国王陛下のいつものなさりようだから」

「お嬢様、ここは見守るのがお嬢様のお役目だと思います」

「お嬢、いい加減諦めた方がいいぜですよ」

う~む、微妙な言い回しがとても気になるが、それによってフォルシーナは説得されたようだ。かなり渋々といった感じではあるが。

「……わかりました。お父様、お気をつけて」

「なるべく早く戻る。アルファラ殿、よいな?」

「ここはお前の言うことを聞くしかなさそうだ。しかし私はほかの者と違って情婦になるつもりはないぞ。もし邪なことをするつもりなら――」

「そのような者はおらぬし貴殿になにかするつもりも一切ない。エルフ族と友誼を結ぼうというのに信頼を損ねることなどするはずがなかろう」

「それならいいのだがな」

アルファラの好感度は例の薬で多少上がったはずなんだが、まだまだ信頼を得るまでは遠いようだ。

しかし彼女はエルフ族族長の娘であるし、国王としては好感度が低いままというわけにはいかない。

なにしろゲームの『破滅ルート』では、アルファラ率いるエルフ族との対決シーンもあったりするのだ。そんなルートを歩むつもりは毛頭ないが、その可能性があるというだけで俺にとっては恐ろしい。

自分が本来なら断罪されていた中ボスにすぎないということは、決して忘れてはならないのである。