軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

231.彼女のとなり

「オーレリア、少しいいですか」

拠点の二階に上り、左右に三つ並んだ部屋のうちの左側の真ん中の部屋をノックすると、すぐに中から応えがあった。

「アリア、どうかしましたか?」

「来週、カルナバルの冒険者ギルドと商業ギルドの代表者との顔合わせについて、担当者の資料が届いたので、オーレリアにも渡しておこうと思って」

「あっ、ありがとうございます」

そう笑って、どうぞと部屋の中に招き入れてくれる。

基本的に拠点の部屋はどれも同じ広さであるけれど、オーレリアの部屋はベッドにサイドボード、本棚付きの机に後付けのクローゼットが置かれていて、アリアの部屋より物が少なく、その分少し広く感じられた。

家具はどれも飾り気が少ないけれど、しっかりとした造りのもので、オーレリアの堅実な性格にはよく似合っている。枕元にはクマのぬいぐるみがちょこんと置かれ、サイドボードの上には布が掛けられていて、その上に伏せられた手鏡、使い古したパイプや真鍮の燭台のほか、小さなプレートの上にビーズの指輪やちょっとしたアクセサリーが置かれていた。

そこに、まだ真新しい写真立てが置かれているのを見つけて、思わず視線を向ける。

「あ、先日ウォーレンと撮ったものです。私の分も一枚いただいたので、飾ってみました」

「いい写真ですね。とてもきれいに撮れています」

お世辞ではなく、実際よい写真だった。

写真家の腕もカメラの機種も良いのだろうし、天候に恵まれたということもあるのだろうけれど、被写体がとても魅力的に撮られているのに感心する。

髪をアップにしたオーレリアの耳には、普段の彼女は身に着けないような少し大きめのイヤリングがぶら下がっており、それと同じ意匠のピンを隣に居るウォーレンがネクタイに挿している。ドレスはアリアが選んだものだが、少しクラシカルなデザインは落ち着いた雰囲気のオーレリアによく似合っていた。

誰がどう見ても、若く前途ある裕福な婚約者の写真であり、よほど偏屈な性格でない限りこれを見て文句をつける者は居ないだろう。

だが、そういった写真そのものの評価は別として、写真の中のオーレリアはリラックスをしたとても良い表情をしていた。

オーレリアが緊張しやすい性格であることは知っているし、見知らぬ相手だと、男女問わず身構えるようなところもある。

ウォーレンは信頼している友人であるのだろうけれど、改まって写真を撮るというイベントにこんな風に自然な微笑みを浮かべているのは、やはり隣に居るウォーレンへの安心感が理由なのだろう。

むしろウォーレンの方が、やや緊張をにじませている様子だった。

オーレリアは定期的に王宮に伺候しているし正装も見られているだろうけれど、反面社交界に出入りしていない彼女は、着飾るためのドレスというものにほとんど袖を通すことはない。

アリアが知る限り、ウォーレンとのお見合いの時に着ていたのが最後だろう。

――美しく装ったオーレリアに動揺した、というところかしら。

彼の来歴を考えれば、豪奢なドレスに身を包んだ貴婦人など生まれた時から見慣れた存在な気もするけれど、どうにもあの若き侯爵はブラッドオレンジの髪を持つ親友に対して、妙にうぶなところを見せることが多い。

先日、オーレリアが体調を崩した時は、本当に元王族で現プラチナランクの冒険者なのかと疑いたくなるような動揺を見せっぱなしだった。

彼がオーレリアのことを大切に思っていることはよく伝わってくるけれど、もう少ししっかりしてほしい。

そんなことだから、この少し鈍感で、自分に女性的な魅力があるとこれっぽっちもわかっていないらしい友人に気持ちが伝わらないのではないだろうか。

――もっとも、おかしなお節介を焼く気はないけれど。

それはウォーレンが自分で頑張ることであるし、それぐらいができない男に大切な親友を任せる気にはなれない。

オーレリアには世界一素晴らしい相手と結ばれてほしいし、なんならずっと、自分と楽しく商売をしていてほしいくらいなのだから。

「写真を撮るのは初めてだったので、変に写っていないといいんですが」

「ドレスも似合っていますし、とてもきれいですよ。良ければ今度、私とも撮りませんか」

だから、そう聞いたのは幸福そうな雰囲気で微笑んでいる親友の隣の男に、多少張り合う心があったかもしれない。

「はい、是非」

アリアの提案に、オーレリアは本当に嬉しそうに笑って頷く。

「その時はお揃いのドレスを仕立ててもいいですね。ジーナさんやジェシカさんやミーヤさん、双星のお二人も誘って華やかに撮るのもいいかも」

「楽しそうですね!」

そう笑うオーレリアの表情は本当に明るく、なんの陰りもないもので、さすがにほんの少しだけ、かの侯爵閣下に同情するような気持ちもにじんでしまい。

「では、ギルドから派遣されてくる方の件ですが、まず冒険者ギルドからは……」

そうして仕事の話になるとオーレリアは緊張と真面目さをにじませた、しっかりとした表情になる。

「どちらの方も、貴族なんですね」

「まあ、組織の責任者となると、まだまだ市井の出の方は少ないですね。基本的にジャスマン商会が仲立ちをしてくれるので、当日の打ち合わせと商品の詳細な説明が終われば私たちはそれほどやることもないので」

「頑張ります」

そう告げるオーレリアの意識は、もう仕事のことでいっぱいという様子で。

――頑張ってくださいね、ウォーレンさん。

アリアは親友として、そして隣で彼女を見守る者として、こっそりと心の中でつぶやくのだった。