作品タイトル不明
12なんで誰も返事しないの!?妻が困ってるのよ?母親が困ってるんだからすぐ来なさいよ!役立たず!
「なるほど……」
映像と親子たちの中で起こった回想を交互に映し出しながら、ノンファンはそうなるよねとブラーシュと会話を続ける。途中からの経過を見ていないので祖国の情報を軽くしか知らなかった。
「姉妹も家族もいなくなって貴族位も返上か消滅してしまって使用人も解雇状態になったってことか」
ブラーシュがまとめる。
「そうなるよね。仕えている家自体がなくなったし、私たちも継承する気がないし。国も戻ってくる可能性はゼロだって薄々わかっそうだし。仮にあったとしても、虐げられてた貴族家を継ぎたくはないでしょ。継ぐ気持ちはマイナス通り越して、こっちから消滅させたかったけど」
ノンファンは当たり前のことだと胸に強く抱いているものを吐き出す。ブラーシュも同じく頷きながらテーブルに置いてある手作りのジュースを飲んだ。
時間がある時に人間社会で見たことのあったジュースを真似して作ってみたが、これがなかなか奥が深い。ついついハマってしまった。
彼も気に入ったらしく、好きな果実を見せてきてこれなんてどうだと持ち寄ってはそれを渡せば、嬉しそうに笑う。笑顔が見たくて気合が入るのもよくあることだ。
「うまいな。また違うのを作ってくれ」
「ノンファンのジュース屋は大盛況みたいで嬉しいよ」
ほのぼのとした空気をそのままに、また使用人の家庭映像へ目を戻す。そこではここと真逆なスキャンダル的空気が漂っていた。冷戦だ。
親子の言い合いは苛烈になっていく。ものを取られてしまった子供のトラブルの原因はどうやら、母親の悪い話がこの近隣にも容赦なく流れたのだ。
「母さんが子供を虐めたから!」
「虐めてないって言ってるでしょ。母親を虐めてるのは周りなの!」
親子喧嘩ではない。これだけは確実に言える。子供は本当のことを言っており、母親が今もなお認めていないだけだ。
ことは妖精の愛し子と獣王の番、精霊の愛し子の可能性のあるノンファンの調査なので、獣王ガオンのなんちゃって断罪に至るショボい証拠集めとは違う、細部にまで行われて。
針に糸を通すが如く、証言や証拠を集めに集めた国の調査。容赦のない取り調べもあり商人たちは世間に恨まれなくないと、主犯の古株である今映っている母親の使用人が全て悪いと言ったのだ。
なすりつけた点は合っているが、それがなんだというのかというような些細なことだ。なすりつけたとは言うがそれで罪がなくなるわけでも、同情を受ける立場になることでもない。
今回こんなことになっているのは使用人の子供が、外で事件を知った子供に食べ物やお菓子を強奪されて泣いて帰っているらしい。
子供が泣きながら「お菓子を取られた!泣いてるのに鼻で笑って自分たちだけで食べた!」と訴えた時、使用人の女は激怒。
「なんて酷いことをする奴らなの! 人の食べ物を奪って笑うなんて、人間のやることじゃないわ!」
このセリフを言ったのは、姉妹たちを地獄の環境にさらに落としていた話を子供がまだ知らずに、まだまだ純粋に信じていた時。映像を見るノンファンの前で泣き叫ぶ子供と怒り狂う使用人の母親。女は子供の恨んでいる目付きに目ざとく気付き「何見てるのよ!」と八つ当たり気味に睨み返す。
ノンファンは感情の消えた瞳でじっとその光景を見つめている。奪う側だった人間が奪われる側になっただけ。本当に人間ってピンからキリまでいるんだな。
使用人の女が今言っていたセリフを心の中でそっくりそのままお返しする。助ける義理も哀れむ感情もなし。確認してから、ブラーシュに淡く笑みを渡す。
子供を栄養が足りないとわかっていて嘲笑う女の愛が子供にあるわけもなく、あの子供もいずれ母親を捨ててどこかに行くのだろうな。
母子は映像の中でまだいい合いをしている。近隣でヒソヒソされて使用人の女もいずれここに居られなくなるのだ。いくら鋼の心臓を持っていても言葉だけではなく出ていけ的な対応だってされるのも遅かれ早かれだろう。
「他の使用人は?」
ブラーシュが楽しげに次を催促する。ジュースが美味しいのでツマミが欲しいそうだ。フッとこちらも楽くなってきたので頷く。
「他の使用人は……イビられてる。普通にイビられてる」
「そりゃそうだ。妖精の愛し子と精霊の愛し子を冷遇していたとなれば国ぐるみで罰も下すだろ」
「罪があやふやでそこは罪を起こした前提で全員捕まると思ってた」
「やったことは食べ物を与えることを指示されず、言われた通りにしたことくらい。あとは、通報しなかったってところか?通報したところでどこもなにもしなかっただろうが」
世の中の言葉にはやったもの勝ちと言うが、これに関してはやったもの負けだ。どこかに連絡しても貴族というだけで関わりたくないと、全ての組織がそっぽを向く。
一般家庭だったとしても同じことが起こるのに、貴族なんて使用人からしたら雲の上の存在。仕事もなくなり連座されるかもしれない危ない橋は渡らない。
獣王は大きな国の王だったから国ごと貴族を断罪できたのであって、他家の貴族があんなことをしたら姉が愛し子でもない限り一瞬で社交場から弾かれて、ミイラみたいに日上がることになる。
ノンファンは助かる術はないなと他人事に感想を抱き、それでも姉の番のガオンのやり方は一方的であったと思う。
番以外はほんきでどうでもいいと思っていたタイプだから、あの場で媚を売ったプライド放棄などと許さない気持ちと相まって、燃料を流し込まれたのだ。
「国に捕まったやつはいるみたいだが、罪は軽微だな」
「やったことは横領程度だから」
平民がやったことなので軽微なことだが、国の信用と信頼をなくすきっかけになっているので軽微の罰を言い渡されたものの期間は無期限。下水の掃除夫とか。
「ああ、いつまで続くんだ!?」
「うるさいよお前。ただでさえ憂鬱なのに騒ぐな」
二人の男に映像が寄っていく。
「子供二人がいるところで働いていただけなんだぞ?おれはなにもしてない!使用人たちが食ってたっていうものも食べてない!」
「はぁ?お前、日当たりのいい部屋で女の使用人と仕事放棄してただろ?皆知ってるぞ」
「な、それは」
元使用人たちがなぜ処罰を受けているのかについて文句を述べて、騒いでいる方の関係ないと言い張っていた男へ思いもよらないカウンターが、容赦なくズバリと放たれた。
男は予想外な方向からの背中への攻撃を受けて、グゥッと黙り込む。傍にいる男が全てを諦めた顔つきでブラシを動かす。
「次女に日当たりの悪い部屋を与えておいて使用人が日当たりのいい部屋で遊んでいたら、それを知った奴らが激怒するのは当たり前だろ。おれだってあとから知ったら、なんてことしたんだってドツキたくなる」
「お、お前だって」
「業務時間に賭け事をしてた。認めたさ!だからこんな地獄にいるんだろ!お前もわかってんなら喚くなっ」
殴り合いの喧嘩でも始まりそうなのに始まらないのは、散々した後なのだろうか。
「なんであの二人が愛し子なんだよ!知るわきゃねえだろうがっ」
「普通の子供でもやっちゃいけないんだろうよ。他国からも子供を大人全員が冷遇して。この国は今や子供を虐げる国として有名だ」
「虐げてねぇんだよ」
「加担したのは確かだ。物理的にやったかなんてどうでもいいってこった!」
投げやりに行われる会話。終わりがない罰だから解放されることはない。今言った通り、この国は他国から見れば大問題を起こした国。姉も妹も祖国に来ることはないので謝る機会もない。
映像をそこで消してブラーシュとノンファンはお互い顔を突き合わせる。罰を何にしようかと思ったが、すでに彼らは与えられている。
強いて言うのならば、一番酷かった使用人に与えたい。何にしようかなと思案しているとブラーシュが「あのまま肥え太らせてしまえばいいんじゃないか」と言う。
太りやすくして、数週間後には家から出られなくさせればいいと笑う。ノンファンはいいね、とそのアイデアを貰うことにした。
案を起用して女使用人に魔法をかけると体がふわりと光る。現在はむしゃむしゃご飯を食べていたようで、光に反応したが大したことではないと鼻で笑うとまた食べ出す。
食べるのが好きなようで所謂、食い尽くし系だったらしい。だからあんなに食べたがったのだなと、微妙にわかった気がする。栄養は全て女性に奪われたようなもの。
「ブギー!ブグググ!誰か!早く持ってきて!」
子供の名前を叫び、肥え太った女が一人。
「なんで誰も返事しないの!?妻が困ってるのよ?母親が困ってるんだからすぐ来なさいよ!役立たず!」
父親が子供を連れて出て行ったことにも気づかずに、暴食したことも忘れて妖精王たちに大笑いされる姿を晒していた。