作品タイトル不明
11知ってるんだからね!あそこの家のお嬢様たちのものを奪ってたこと!母さんが主犯なのは皆知ってることなんだから
使用人というのは雇われだ。それ以上でもそれ以下でもない。主人に言われればそれ以上はしない。しかし、人間というのは感情の生き物。ピンからキリまで。
使用人が貴族ではなく平民だった場合、コンプレックスが刺激され愚かな言動をする者も現れよう。例えば誰よりも捨て置かれている次女の食事を指示されていないからと、勝手に買って食べる人間。
次女がフラフラと歩いているのに、それを鼻で笑い高級なハムを使用人部屋で仲間内だけで高笑いしながら、ワインで流し込んだり。ほんの少しでも与えようとする奇特な者は、一人もいなかったわけである。
「くすくす!またあの子がボーっとしてるわ!」
「この家の貴族たちって傲慢で仕えているのが嫌になるけど実子たちがああなっちゃったらもう、笑っちゃうわよねえ!」
「おかげで私らはこんなに美味しいものにありつけるんだから、私たちだけはありがとうって思っておきましょうよ」
二人の姉妹が食べない分をさらりと請求しておき、仲間たちだけで分け合う美味しい食べ物は最高だ。使用人たちが気をつけているのは、食べ物だけにしていることだ。
それ以外、宝石や服はバレる可能性が高く処罰も酷いので、食べ物だけにしてある。
たまに、主人の父親から古着を頼まれるので大量に買って幾つか取る物もいるが、たくさん買っているのでバレる見込みはかなり低い。
次女ではなく長女だけの服だとしても、一人も次女の服を買うなどという気を利かす人も皆無。そうすることで貴族なのに自分より下をわざと作り、八つ当たりとストレス発散をしていた。
スッとして、平民なのに貴族子女よりいい生活をしているマウントは、実に最高の自己肯定概念を固定させた。
「ねえ、見ちゃったのよ」
一人の使用人がドアから入ってきて、るんるんと足をご機嫌に動かしてから使用人部屋へ、とても楽しい話題を打つ。
「なぁに?」
「ノンファンが姉のお古着てるのよ」
「やだ、私たちと同じよね」
貴族の館に勤めていても、平民はお古を買ってきまわすのは常識だ。それを貴族の娘が着ているのが面白くて堪らない。
「やだぁ、あれはもう雑巾にするボロさよぉ」
「ただでさえ安い服を大量に購入して、向こうの商人も切れ端みたいな服売ってきてるものねっ。ふふ!」
使用人たちは主人の娘を呼び捨てにしている。呼ぶ機会などそもそもないので、格下扱いは使用人たちの中で普通になっていた。
「「あはははははははははは!」」
「あ」
──パチッ
夢を見ていたらしいとノンファンは過去の出来事を思い出していく。
獣王ガオンのノンファンへの調査が杜撰でめちゃくちゃだった原因は、人間の時に暮らしていた屋敷の雇われている者たちに聞いたことが、全ての間違いだったせい。
彼らに聞いたせいで嘘つきだらけの者たちにより、足元を掬われたというわけだ。
獣王たちの敗因は大体ここらへんにある。自業自得ではあるが。もっと事細かに調べれば、もっと突っ込んで調査していけば……少しの時間の掛け方であんな終わり方にならなかっただろう。
自分的にはラッキーだったけど。妖精王に覚醒したのは乱暴に引っ張られて頭を打ったからだし。まぁ感謝はしてあげるけど許しはしない。
それとこれとは話が違うから。それに、その時ああしたのは悪意の憎しみからであって、善意でもなんでもなかったのだ。
カウントするには酷すぎるエピソード。引き摺るのではなく手を引いて、環境から救出してやればよかったのに。上から目線なのは他人事なのだ。
過去は過去。今更あの時のことが改変されるわけがない。つまり、意地悪で質が最悪な使用人たちが生きている。彼らにはまだなにもしていない。
なにかするべきだろう。貴重なご飯を勝手に盗み食いしていたのだから。あれはあれで立派な窃盗だ。取り敢えず使用人らが今は何をしているのか、確認がてら鑑賞会といこう。
ブラーシュを呼び寄せて具体的なことを言うと眉根を下げて、頭を撫で撫でしてきた。痛みを癒してくれているつもりな手先に、目を閉じて受け入れる。彼の手はいつも優しさに溢れていた。
「お前の生まれた家はもう貴族じゃなくなったはずだ。雇用もなくなっているだろう」
「そうだね。多分全員今はバラバラだと思う」
当主の雇い主が捕まったのだから自然消滅だ。しかも、妖精の愛し子と精霊の愛し子の姉妹が冷遇されていた貴族家。そんな家で働いていた人たちだと周りが知れば、どうなるかなんて火を見るより明らかだ。
ノンファンなど特にバカにされていた筆頭だ。姉メーライはある程度両親に構われており、その分目が行くので奪うのが難しかった。なので目をかけられていないノンファンは奪いやすかったろう。
「様子を見てみようか」
気になってどんな処分を下すかも決めるために覗くことにした。妖精たちを派遣して映像を出す。この方法が楽なのでいつもやっている。
「一番私を舐めていた人から」
あとから順々に見ていけば何がいいか決めて、個別にすればいいかな。なんてことを考えながらぼちぼちと思考を弛ませる。
映像にはメイドで二番目が三番目の古株が映っていた。メイド長は地味に忙しいので、人を馬鹿にする行動をする時間はなかったんだろう。多忙なのだ。
二番目か三番目はその下が逆らえないから、実質下っ端たちの女王になれる便利な立場だ。だからこそ、ノンファンたちを好き勝手に扱える駒がたくさん居た。
古株の使用人はせかせかとしているわけではなく、のんびりだらりとしている。家事などしていなくて屋敷の仕事を無くしたのに、随分と余裕そうだ。
周りから批判されて肩身の狭いことになって、精神的に疲弊しているかと思っていたのに。随分と鋼のメンタルの持ち主だ。貴族の娘をイビれるのだから、怖いもの知らずなだけはある。
「肥えてないかあの女」
ずっと隣にいるブラーシュが怒りに吠えた。
「働いてないからきっと増えたんだろうね」
ちょっとでも動いていたから体を維持できたのだろうが、今はなにもしていないとなれば体型が変化してしまう。特に貴族家で高級なものを食べていたら、無駄に増えもするだろうな。
「お母さん。取られた」
「はぁ、また?」
「うん……」
小さな子供が家に入ってきた。トボトボと歩いて母親のところへ向かい、何かやり取りをしている。いつものことのようだ。
「持ち歩かなかったらいいじゃない」
「ひ、開き直らないでよ!元はと言えば母さんが悪いのに!」
突然子供が耐えられないと泣き出す。いきなり泣き出した子供に母親はめんどくさそうな顔をして、耳を塞ぐ。
親子みたいだ。この使用人には子供がいたのによくもまあ、他家のこどもにあんなことがやれたものだ。
「またその話?全員いなくなったから私たちに八つ当たりしているだけでしょ。それを正義の鉄槌みたいに振りかざしてるだけ。いつまでも泣かないでよ。うるさいわ」
「知ってるんだからね!あそこの家のお嬢様たちのものを奪ってたこと!母さんが主犯なのは皆知ってることなんだから」
「私以外の使用人たちが罪を認めたくないから、私に全部被せようとしてる虚言なのに本気で信じるなんて頭がおかしい子ね。子供なら母親を信じるべきでしょ」
心底何を言ってるのだと言う顔をした母親に、子供は信じられないと言った顔つきで凝視していたが、昔からその性格を知っているせいで嫌でも本気で言っていることもわかっていた。
頭がおかしい子というのが口癖の母親にグッと唇を噛む子供。威圧されて生きてきたが、貴族家で母親が働かなくなった日から何もかもが変化した。
今までこの近隣で貴族家で働いているからと一目置かれていた、母に関する話がどこからともなく流れてきたのだ。後で知ったことだが、それは貴族家で働いていた使用人たちが逃れたくて流れたくて、必死に罪を全てなすりつけた結果だ。
貴族家の中で起きていたことが王国の調査により暴かれてすぐに、使用人たちは推薦状なんてもらえる状況でもなく騒動の中で泡のように仕事はなくなる。