作品タイトル不明
10空腹を知らないから産んだ育てたと偉ぶれるのならば永遠に飢餓を思いしればいいのさ
「え、ノンファン?」
「な、ノンファン!?」
「なにしてたの?もっと早く会いにきてよ!」
「そうだ、父親が捕まっているのに今までどこにっ」
「私が大怪我したの見てなかったの?」
「あ」
「それは。治っていたじゃないか」
「治ったのは表面だけで皮膚の下はそのままだったって想像つかないの?」
普通に完全完治しているけど、人間なら即治らない。止血しただけと想像もできないのかアホなのかと煽る。
「でも、精霊の力で治ったんでしょ?私たちのところに来たのだって」
ポジティブすぎやしないか、この中年たち。虐げていたくせにカルガモみたいに大人しく従う女の子はもう居ない。
あれだけハキハキと喋ったのは、なんだと思ったんだろう。単に十二歳だからハキハキと話せたとか思ってたとか?
牢屋の中で脳のふやけ具合が悪化したようにみえる。元々アレなわけだったんだが、もうモウロクしてしまったのだろう。元々モウロクしてたけど。
「本気で私が助けに来たと?今まで助けられるようなことを私にした覚えがちょっとでもあると?」
凄んで聞くと二人は目に怯えを宿しながらも、果敢に言い返す。ここで勇気を使う意味がわからない、本気で使う所はここではない。
「あるだろう!今まで育ててやっただろう!」
「ええ!産んであげたわ!」
「出た。産んであげた。育ててあげた」
ロクでもない親から出るランキング一位と二位だ。自分調べでソースも自分だけど。
「聞いたブラーシュ。出たでしょ?」
「ああ。そうだな。ってことはガオンの毛は全剃り決定か?」
待って、まだだ。媚びてはないから。これはどっちかというと今のは聞いたから答えた回答である。
二人での賭け事を楽しんでいる間にもどうしようもない両親はお前が妖精の愛し子と聞いて、と本当になんでそれを出すんだと呆れる。
百パーセント言うと思ったけど。逆に言わないわけがない。それをとっかかりに、やったことを隠して無かったことにして手のひらをギュルンギュルンと回転させるのは、わかりきっていたけど。
本当にノンファンの前で悪びれることなく言うなんてこの世に未練がないのかもしれない。そんなわけがないとわかっているものの、ここまで堂々となにもかもしなかったことを謝罪なく親と言うだけで許されると思い込む原理。解明したくない。
「私を産んだけど育ててはない。深刻な栄養不足で……十二なのに八歳に思われるくらいには育てられはないんだけどなぁ?」
自分たちで実の娘の年齢を間違えたのだ。その時の記憶程度は、バカでも残っているだろう。残ってないのなら無理矢理思い出させる。
「そ、そんな小さなことなんて気にするな」
「そうよ。私は母親なのよ」
「私は小さい子供だったんだけどね。庇護対象のはずの」
親からご飯をもらわないとろくに動けなかったという意味での。
「決めたブラーシュ。彼らの罪は食べても満たされない飢えにする」
男に話しかけると相棒は頷き、そっと彼らへ手を向けて魔法を起動させる。ふわふわと魔法陣が形を作り、光るとそのまま彼らの体へ吸収されていく。
自分がやろうとしたんだけど、代わりにやってくれたのか。代打としてやってくれた彼へはありがとうと笑みを浮かべた。合流してからノンファンにやたらと甘い。
「空腹を感じ続けて満たされなくなる」
「え、なんだそれは!やめろ!」
「やめて!今すぐ解いて!」
言い合っているうちに腹が鳴る。えぐいほどの腹の虫がグウウウ!と二人の胃から聞こえてきた。父も母もお腹を反射的に抑えて、先ほど昼食を食べたのにもうお腹が空いた感覚に驚いた顔を浮かべる。
「え、腹が」
「お腹が空いた?さっき食べたのに。嘘、本当に?」
言葉を聞いてもまだ理解できてなかったが、空腹状態に即なったので事実と知る。食べればいいのだと思ったがノンファンが二人にパンを出してやり、食べてみたらいいと薄く笑う。
笑い方にゾクッとなった二人は慌てて、空腹のままにガツガツ食べた。しかし、いつもならマシになる空腹がいつまで経っても膨れた感覚にならない。
「違う!食べたのに!」
最後まで食べ切り、二個目も食べ終わったところで空腹が最初と変化しないことを知る。
「あ、あ、そんなっ。満たされない!満たされない?嫌!」
「もしかしてずっとこのまま、なのか!?」
二人は顔を青ざめさせる。こちらを見て牢屋を激しく揺さぶるがびくともしない。それでも構わず空間に跳ね返るほどの騒音を、ガチャガチャと言わせて必死に揺らがせた。
「いやいやいや!お願い!お願い治して。元に戻して!」
「謝るから!お前も謝れ!」
母へ向かって父ががなりたてる。
「あ、そ、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「私も謝る!悪かった。すまなかった!謝る!」
「私も悪かったわ!あなたを居ないものとして扱ったの!」
「服もやらずご飯も渡さなかった!」
「何も買ってあげなかったし、教育もさせなかったって、皆言ってたのよ!反省してるの!」
ノンファンはまたもやウーンと顎に手をやり、二人を見る。静かになるまで無言を渡す。二人が話さなくなったのは一時間近く経過したころだった。
何も言わないノンファンに話しかけても、答えてくれないのかもしれないと至ったから、話さなくなった。しかし、理由は違う。
謝る二人を見ていたのは動物が泣いているなあ、と動物園の動物を見るような気持ちになっていたからなだけだ。そこに家族や情はない。
育まれる前に空腹で消え去っているので、生まれるわけもない。他でもない目の前の二人が妹の情を生まれさせる隙さえ与えなかった。
「それってあなたたちが今まで周りから言われたことであって、受け売りでしょ。自分たちで考えて出てきた言葉なら、最初に出てくるのは……」
一拍置いて精霊王の少女は首を傾げた。
「私に自分たちへ罰を与えてくれって言うのが、正常な罪悪感を抱く罪の意識のあるべき大人の姿なんじゃない?」
彼らはぽかんと絶句したあと本当に十二歳なら、実子に言うのが憚られるような罵倒を繰り広げた。余程腹に据えかねたらしい。その腹が満たされることはもうないけど。
鼻歌を歌いながら、ブラーシュと新作アイスクリームのフレーバーを食べに行くために彼らの声を遮断してしまったから、二人の生みの親の聞くに耐えない濁った声が聞こえることは二度となくなった。