軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話 二人だけの合図

「遅い」

開口一番、それだった。

「悪かったわね」

アリステラ——リナは肩をすくめる。

「ちょっと用事があったの」

「毎回それ言ってる気がするな」

レオは呆れたように息をつき、それでもどこか安心した顔をしていた。

(これもあと、少し)

その気持ちを押し込めて、いつも通りに笑った。

軽く剣を合わせて、息を整える。

木陰に腰を下ろすと、風が心地よく頬を撫でた。

「なあ」

レオがふと思い出したように口を開く。

「部隊には暗号があるんだ」

「暗号?」

「そのまま言ったらバレるだろ」

地面に小石を転がしながら、軽い調子で続ける。

「だから、短い言葉で合図する」

「ふうん」

興味なさそうに返しながらも、耳はしっかり向いていた。

「例えば?」

「まあ色々あるけど——」

少し考えて、肩をすくめる。

「その場で決めることもある」

「適当ね」

「実戦だとそんなもんだ」

ふっと笑うその顔が、いつもより少しだけ近い。

「じゃあさ」

アリステラは、ふと思いついたように言った。

「私たちならどうする?」

「俺たち?」

「そう。二人だけで通じるやつ」

レオは一瞬だけ目を瞬かせて、それから吹き出した。

「なんだそれ」

「いいじゃない」

「……まあ、いいけど」

少し考えて、ふと顔を上げる。

「じゃあ、“ダンじい”」

「は?おじいちゃん?」

思わず素で返してしまう。

「説教長いだろ、リナのじいさん」

「長いわね」

「だから“ダンじい”って言ったら——逃げろ、危険」

一瞬、間があって。

吹き出した。

「なにそれ」

「いいだろ、分かりやすくて」

「分かりやすすぎるでしょ」

笑いながらも、妙に納得してしまう。

「じゃあ……」

アリステラは少し考えて、口元に笑みを浮かべた。

「“水やり”」

「水やり?」

「そ、庭師の孫っぽいでしょ?」

「視界、遮るの」

手でさっと払う仕草をする。

「土埃でも、水でも。見えなくするイメージ」

「……なるほどな」

レオは少しだけ感心したように頷いた。

「使えるかも」

「でしょ?」

得意げに胸を張ると、レオがくすりと笑う。

「他は?」

「えー……」

他にも幾つか、お互いにアイデアを出す。

少しの沈黙。

風が抜けていく。

「なあ…これ、覚えとくか」

軽い調子で言われた言葉に、胸がわずかに揺れる。

(覚える、ううん絶対に忘れない)

(……消せるはずないのに)

「いいわよ」

それでも、笑って頷いた。

「その代わり——」

「ん?」

「ちゃんと使いこなしなさいよ」

「任せろ」

いつもの調子で返される。

その“いつも”が、どうしようもなく愛おしい。

立ち上がる。

「ほら、行くよ」

「おう」

並んで歩き出す。

少しだけ近い距離。

当たり前みたいに隣にいる存在。

(あと少しだけ)

胸の奥で、また同じ言葉が繰り返される。

(この時間も)

(この距離も)

(全部——終わる)

それでも。

「ダンじい来たら逃げるんだろ?」

「当たり前でしょ」

「薄情だな」

「生きるためよ」

笑い声が重なる。

この瞬間だけは、何も変わらないなみたいに。