作品タイトル不明
22話 本当の敵は
扉を出た瞬間、空気が変わっていた。
爆発による混乱。
走り回る兵。
飛び交う怒号。
だが——
ルシエルドの足は止まらない。
視線だけが、周囲をなぞる。
煙は、来賓の間の方向。
人の流れはそこに集中している。
(なら——逆だ)
アリステラを運ぶなら、人の少ない方。
混乱に紛れるなら、“人の流れから外す”。
足を向けるのは、爆発とは反対側の回廊。
人気は薄い。
それでいて——
(消されすぎている)
爆発の混乱で避難した形跡もない。
本来いるはずの護衛もいない。
“意図的に空けられた”空間。
(通路を作ったな)
(城外か…)
外へ出るための“最短ルート”を逆算する。
城内の喧騒を背に、ルシエルドは人気のない通路を進む。
本来なら巡回騎士とすれ違う時間帯。
それなのに、誰とも会わない。
(……人払いされている)
通路の隅には、爆発で舞った灰が薄く積もっていた。
その上を、複数人分の足跡が一直線に続いている。
歩幅も、間隔も、乱れがない。
(訓練された動きだ)
王妃派の私兵に、ここまでの統率はない。
さらに進む。
城門脇の通用路。
本来ならば閉じられているはずの扉が、わずかに開いていた。
(内側から……)
こじ開けた形跡はなく、鍵で開けられている。
(内部に手引きがあるのは確定か)
だが——それだけでは、説明がつかない。
(王妃派の動きにしては——規模が大きい)
単なる誘拐ではない。
騎士団の配置、巡回、導線。
すべてに干渉している。
(これを単独で動かせるはずがない)
その時。
足元で、乾いた音。
何かが転がった。
——短剣。
拾い上げたそれは、軽い。
だが、刃の重心が妙だ。
切断ではなく、“急所を穿つ”ための設計。
この国の鍛冶とは違う。
裏返すと柄の内側に、
刻まれた印。
——見覚えがあった。
指先が、わずかに止まる。
薄暗い部屋。
血の匂い。
焼けるような痛み。
幼い頃、一度だけ見た印。
「奴ら…『黒蝕』か」
かつて王家を襲った、異端思想をそう呼ぶ。
革命でも、理念でもない、
国を黒く侵し、蝕む災厄。
隣国で再集結の兆候は掴んでいた。
王妃派と結びついたことで、ようやく全てが繋がる。
(追撃は、王妃派ではない)
(本命は——奴らだ)
ふと、気配を感じる。
振り返る。
手元の短剣を投げつける
草むらの奥で、短い悲鳴が上がる。
同時に、そこから影が複数動く。
一閃。
金属音と共に弾く。
だが敵は引いた。
(足止めか)
数は、三人。
間合いを詰めてこない。
時間を稼ぐ配置。
「……時間稼ぎにしては、雑だな」
低く吐き捨てる。
そのまま、一歩踏み込む。
剣戟が、乾いた音を響かせた。
違和感を感じる。
殺気が、薄い。
“倒す”ではなく、“動かす”ための剣。
間合いを取る。
(誘導されている)
敵は、ルシエルドを仕留める気はない。
何処かへ誘導している。
応戦の振りをして、流れにのる。
たどり着いた先は——
城外れに放棄された、旧騎士訓練場。
囲い込みに最適な、開けた空間だった。