軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話 見せかけの平穏

ヴァルディスの護衛騎士たちは、王都到着とともに帰路についた。

見慣れた顔ぶれが消え、わずかな心細さが残る。

それでも——

王都での日々は、忙しさに満ちていた。

ドレスの衣装合わせ、しきたりや来賓の確認など、式の準備。

さらには挨拶回りも重なり、予定は途切れることなく押し寄せる。

息をつく暇もない。

なのに——

(……静かすぎる)

何か怪しい動きは無いか、敵か味方か。

毒の件もあり、当初はあらゆるものに気を張っていた。

顔を合わせる相手。

提供される飲み物。

出入りする侍女。

護衛の配置、交代の間隔。

すべてを、見ていた。

それでも、何も起きない。

あれほど警戒していたはずの“何か”が、

まるで最初から存在しなかったかのように。

だからこそ、胸の奥に言葉にならない違和感が沈む。

登城したその日のうちに、謁見が執り行われた。

病弱ゆえ社交の場から遠ざけられてきたアリステラにとって、国王と王妃を目にするのは、これが初めてだった。

威厳を湛えた国王が控え、その隣に――王妃が座している。

ただそこに在るだけで、場の空気を支配していた。

「遠路、よく参りましたね、アリステラ」

微笑みは崩れない。

王妃としての品格と優雅さが、自然と滲み出ている。

「どうかルシエルドと力を合わせ、この国のために尽くしてくださることを期待していますよ」

穏やかな声音、誰が見ても理想的な王妃の姿。

だがそこには、逆らうことを許さない響きがあった。

一瞬——視線の奥に、温度のない光が宿る。

普通の令嬢なら見逃してしまう、僅かな変化。

ほんの一瞬。

けれど、確かに。

(……見られている)

あの時の感覚が、消えない。

「殿下は本日もお戻りが遅くなるとのことです」

予定の合間を縫ってルシエルドのもとを訪ねる。

だが――返ってきたのは、何度目かも分からない同じ報せだった。

(また、会えなかった)

ルシエルドは、結婚式に向けた警備強化を表向きの理由として、王城内外を駆けていた。

その動きは、単なる備えではなく、

自らの存在を誇示し、王妃派を牽制するため。

そして何より、不穏な兆しを一つも見逃さぬためだと聞いた。

集められた情報は、すべて彼のもとへ届くという。

胸の奥に、わずかにざわつく。

守られているのは、分かっている。

それでも——

(顔を見ていない。殿下のお体は大丈夫だろうか)

何も出来ないもどかしさと不安が募る。

不意に

(……レオ)

別の、姿が過ぎる。

彼もまた、ルシエルドの配下として忙しくしているはずだ…

(だめだ、レオの事は考えるな)

ここは王都だ。

感情に流される場所ではないと、自身を律する。

(今は、自分の役割を全うしないと)

前を向き、姿勢を正して歩く。

ヴァルディスの名を背負う者として、ルシエルドの隣に立つ者として侮られてはいけない。

——隙は、見せない。

廊下を進む。

すれ違う視線。

ひそやかな囁き。

整いすぎた静けさ。

その中で——

一瞬、鋭い視線を感じた。

振り返る。

侍女が一人、

何事もないように、頭を下げて通り過ぎていく。

(気のせい……?)

さらに、歩みを進めた先に、護衛が一人立っていた。

見覚えのある顔。

だが——

(配置が、違う)

昨日は、反対側にいたはずだ。

「配置換えがあったの?」

何気なく問う。

「……ええ、本日より」

わずかに、間があった。

それが、妙に引っかかる。

(誰の指示?)

問いかける前に、侍女の声がかかる。

「アリステラ様、こちらへ」

案内されたのは、見慣れない回廊。

(……嫌な気配)

周囲に意識を巡らす。

壁、窓、曲がり角。

逃げ道と死角を、反射的に測る。

足は止めない。

視線も、揺らさない。

「この後のご予定についてですが…」

呼びかけに、ゆるやかに頷く。

(気配が消えた?考えすぎ?)

そう結論づけた。

その判断が、どれほど危ういものかも知らずに。