軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15話 身代わり

あの嵐が嘘のように、快晴な日々が続いた。

道中、懸念された敵襲も無く

隊列は、順調に王都へ近づいていく。

「ルシエルド殿下って、本当にお嬢様を気にかけていらっしゃいますよね」

昼食に立ち寄った店の個室で、食後のお茶を口にしていたアリステラに、アンナが穏やかに言った。

「初めてお見かけした時は、仮面に騎士団長の威圧もあって……正直、怖い方だと思っていたんです」

「ええ、分かるわ」

自然と頷く。

「でも、休憩のたびに確認なさるんです。お嬢様の体調はどうか、疲れていないか、無理をしていないかと」

その言葉に、胸の奥がわずかに痛む。

——“病弱な令嬢”だからこその気遣い。

本来の自分は、野営もこなせるほどの体力がある。

それでも今は、その偽りを守らなければならない。

(……いずれ、伝えないと)

婚姻を終え、すべてが落ち着いた後に。

ふと、仮面の奥の姿を思い浮かべる。

(殿下は……どうして、あの仮面を)

理由は知らない。

けれど、あの人もまた——何かを隠している。

「殿下の優しさやお気遣いは、きちんと伝わってくるわ。だからこそ……申し訳なく思うのよ」

本日の食事も、安全を考慮して用意された個室だった。

華やかな振る舞いや、洗練されたエスコートはない。

けれど、実直で飾らず、ただまっすぐに向けられる配慮。

それが、日ごとに心に残っていく。

別の姿が、重なる。

レオは、もっと感情のままに動く人だった。

軽口ばかりで、自由で、掴みどころがない。

けれど——

(……似ている)

不器用なほど、まっすぐなところが。

気づいてしまって、わずかに息が詰まる。

(違う人なのに)

視線を落とす。

(忘れなければ、いけないのに)

何気ない瞬間に、すぐに思い出してしまう。

「結局のところ……」

小さく、零す。

「芯の似た人に、惹かれるのかもしれないわね」

その呟きは、誰に届くこともなく消えた。

——コンコン

扉が叩かれる。

「食事は終わったか」

低く、抑えられた声。

顔を上げると、そこにいるのはルシエルドだった。

「ええ、おいしくいただきましたわ」

立ち上がり、視線を合わせる。

(……高い)

ほんのわずかに見上げる角度。

(レオより、少し高い)

そんなことを思った自分に、小さく苦笑する。

「少し気になる報告が入った。護衛も含め、共有する」

ルシエルドは慣れた動作で左腕を差し出した。

そのまま、アリステラを庇うように廊下側へ立つ。

(……左側)

不意に、以前レオに手を引かれた時とは逆だと思った。

案内された別室には、すでにジョシュアと数名の側近が揃っていた。

「アリステラ様。辺境伯より連絡が」

ジョシュアが差し出した報告書。

「次の宿泊予定地に、不穏な動きがあるとのことです」

「すでに先行させた部隊が確認に入っている」

ルシエルドが続ける。

感情を交えない、簡潔な説明。

「相手の出方が読めない。ゆえに——貴女には別の宿へ移ってもらう」

静かながら、決定事項として告げられる。

数キロ先に手配された別宿。

使用人の姿で移動し、存在を伏せる。

護衛は厳選し、極力目立たないようにする。

すべては——アリステラを守るための算段。

(……また)

胸の奥に、わずかな違和感が灯る。

(私は、守られるだけでいいの?)

その問いが、消えない。

「当初の宿には、私が向かう」

ルシエルドの声が落ちる。

「貴女の身代わりを立てる。敵の狙いはそちらに向くはずだ」

——身代わり。

その言葉が、胸に引っかかった瞬間。

「その役目、私の護衛が務めます」

気づけば、口にしていた。

「リナという者を」

場の空気が、わずかに揺れる。

「……っ、アリステラ様、それは——」

ジョシュアの動揺した声。

「口出しは無用です」

静かに、だがはっきりと遮る。

視線を逸らさない。

「そのリナという者では、務まらぬのか」

ルシエルドの試すようなその問いは、あくまで冷静だった。

「いえ……そのようなことは」

否定するしかない。

ジョシュアは、唇を引き結ぶ。

「彼女の実力は、私が保証いたします」

その言葉に、迷いはない。

もう、誰も止められなかった。

——短い沈黙

「……いいだろう」

低く、決断が下される。

「ただし」

わずかに声の温度が変わる。

「護衛は、こちらで指定する。それが条件だ」

視線が、真っ直ぐに交差する。

「承知いたしました」

アリステラは、迷わず頷いた。