軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話 嵐の前の静けさ

それからのルシエルドの手腕は、さすがとしか言いようのないものだった。

「殿下、かなり重症らしいじゃないか……」

「聞いた話では、立ち上がれないとか」

「私は、目が見えなくなったと聞いたわ」

館の片隅。

騎士だけでなく、メイドや下働きの者たちまでもが、ひそひそと囁き合う。

誰かが零した“ここだけの話”は、瞬く間に広がり——

気づけば、館全体がその噂に包まれていた。

アリステラの警備は、これまで以上に厳重なものとなり、部屋から出ることも叶わない日々が続く。

——そんな夜のことだった。

ルシエルドの部屋が、襲撃された。

厳重に警備されていたはずの部屋。

だが、その守りの“わずかな綻び”を突かれたという。

もっとも——

結果は、あまりにも呆気なかった。

侵入者は瞬く間に捕縛され、

そこから芋づる式に、領主へと辿り着く。

隠されていた不正も、すべて白日の下に晒された。

——すべては、ルシエルドの読み通りに。

(……いざとなれば、私も戦う)

あの日に固めた決意は——

肩透かしを食らったように、出番を失った。

「何か気になるのか、アリステラ」

出発の馬車へ乗り込もうとした、その時。

不意に、横から声がかかる。

振り向けば、すぐ傍にルシエルドの姿。

「……え?」

一瞬、返事が遅れる。

「やけに周囲を気にしていた」

その言葉に、はっとした。

——無意識のうちに、探していた。

(……レオ)

胸の奥に、小さな痛みが走る。

「失礼いたしました。ご心配には及びませんわ」

何事もなかったかのように、微笑みで誤魔化す。

それ以上、踏み込ませないように。

「……そうか」

短く返しながらも、ルシエルドの視線はわずかに鋭い。

しかし、追及はしない。

「だが——些細なことでも、気になれば必ず言え」

ルシエルドは、まっすぐにアリステラを見つめた。

その眼差しには、迷いも揺らぎもない。

「貴女は、私が守る」

飾り気のない声音。

だからこそ、まっすぐに胸へと届く。

「……ありがとうございます」

自然と、言葉がこぼれた。

馬車に乗り込む。

窓越しに見えるのは、馬上のルシエルド。

背筋を伸ばし、無駄のない所作で隊列を率いている。

——武骨で、愛想のない婚約者。

けれど。

冷静で、的確で。

確かに——守ろうとしてくれる人。

(……この人となら)

ふと、そんな思いがよぎる。

(良い夫婦になれるのかもしれない)

胸の奥に、ほんのりと温かなものが広がった。

そして——

きっと、こうして。

初恋は、思い出になっていく。

隊列は、静かに動き出した。

王都へ向けて。

少しずつ。

この人の妻となる日が、近づいていく。