軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話 静かな嫉妬

倒れた男たちと、乱れた室内。

嵐の音だけが、戻ってきていた。

短い戦闘の余韻が、まだ空気に残っている。

これ以上は踏み込まない——互いに同じ判断だった。

レオは、机の上の書類を手早くまとめると、

例の密書も、迷いなく懐に入れた。

(……持っていくのね)

当然だと思いながらも、その手際に視線がいく

(やっぱり、この人——)

ふと、レオと視線が混じると、

ほんの少しだけ、空気が緩んだ。

「さっきの——」

少しの逡巡のあとレオが口を開きかけた、その時。

廊下の向こうから、足音がした。

しかも、複数。

二人は瞬時に動きを止めた。

「——誰だ!」

鋭い声と共に、剣に手をかける音がする

気付かれたと、二人が身構えたその時――

廊下の先に現れたのは、数名の騎士。

——王都までの護衛として同行している、辺境伯の騎士たちだった。

その先頭に立つ青年と目が合う。

すると、青年の目は驚きで見開かれた。

「アリ——」

言いかけて、はっと息を呑む。

「……リナ!?」

その動揺は一瞬で消え、慌てて言い直す。

「……ジョシュア様」

そう漏れたアリステラの声から完全に戦意が抜けてしまった事に、レオは気づいた。

(――誰だ?この男)

レオの胸の奥が、ざわつく。

「無事だったのか!ケガはないか!?」

返り血を受けたアリステラの姿に、ジョシュアと呼ばれた男は驚き、側に駆け寄る、

(距離が、近い)

無意識に、眉が寄る。

「アンナから聞いて探していた。

君はいつも無茶をする…なぜ俺に声をかけない?」

(……なんだそれ)

「ごめんなさい…。少し、様子が知りたかっただけなの…アリステラ様が蚊帳の外だと思ったから…」

少し身をすくめて、返事をする。

「忙しいあなたの手を煩わすべきではないと思って…」

「なんの為に俺たちが同行しているんだ!」

今度は少し強めの声で叱責する、だが、その後トーンを落とし優しく続ける。

「今回は無事で良かったが……次からは必ず言え」

そのやり取りを——

レオは、無言で睨みつけていた。

「…ごめんなさい」

少し上目遣いで、視線を向けるアリステラ。

その仕草を見た瞬間——

思考が、一瞬止まる。

(……何だ、今の)

(あんな顔、今まで——)

胸の奥が、ざわついたまま収まらない。

言葉にはならない。

それでも、視線だけが外せなかった。

ふと、ジョシュアがレオを見る。

「そちらの方は?」

穏やかな笑み。

だが——その奥に見える、明確な警戒。

アリステラを庇うように、一歩前に出る。

(……守ってるリナを)

その動きが、癇に障る。

胸の奥が、じわりと熱を持つ。

「殿下の命で動いている。」

声は低く、抑えられている。

僅かに棘を含んで。

「そうですか、殿下の…」

ジョシュアは頷く。

だが、その視線は外さない

「リナが世話になったようだ。後はこちらに——」

「待て」

無意識に、思わず声が出た。

自分でも、一瞬遅れて気づく。

(……何してる)

空気が、わずかに張る。

ジョシュアの視線が鋭くなる。

「……いや…何でもない」

すぐに言葉を切り、視線を逸らす。

(違う)

(止める理由なんて——ないんだ)

「ほら、リナ行くぞ」

ジョシュアの手が、アリステラの背に触れる。

その瞬間。

レオの指先が、強く握られた。

(触るな)

喉元までせり上がる衝動をなんとか押し込む。

ここで揉めるなと、理性が辛うじて引き留める。

「レオ!」

呼ばれて顔を上げる。

だが、アリステラは何か言葉を飲み込んだように

「…無理しないでね」

それだけを残して、そのまま連れて行かれた。

(……行くな)

言えない、言えるはずがない。

ただ、見送るしかない。

足音が遠ざかる。

静寂が訪れる。

レオは、しばらくその場に立ち尽くしていた。

気づけば、さっきまでアリステラに抱いていた

違和感も、疑念も——

どこかへ消えていた。

残っているのは。

(……気に入らない)

(あの男も——あの距離も)

胸の奥が、ざわついたまま収まらない。

嵐の音だけが、やけに遠く響いていた。