軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夏が来た!

晴天の空にジリジリと照りつける太陽が昇り、湿度の高い空気に青臭さが混ざり流れてくる。

ふむ、これはまさに……。

「夏が来たぁぁぁ!」である。

わたしが玄関前で叫ぶと、後ろから、イメルダちゃんの疲れたような声が聞こえてくる。

「この暑い中、元気が良いわね……」

振り返ると、麦わら帽子を被り、シンプルな白いシャツに水色の涼しげなスカート姿のイメルダちゃんが空を眩しげに、そして、恨めしそうに見上げている。

側には近衛兵士妖精の潮ちゃんと日傘を差す妖精メイドの黒バラちゃんがいた。

妖精ちゃん達はイメルダちゃんがうんざりした顔で階段を降りているのを、どことなく楽しそうに見ている。

それに気づかないイメルダちゃんは、愚痴るように言う。

「今年の夏はいつも以上に暑い気がするわ。

むしむししているし」

「ああ、暑いのはともかく、むしむししているのは森の中だからかもね」

「え?

そうなの?」

「うん、森の中の方が湿気が多いの」

イメルダちゃんが住んでいたのは、多分大きなお屋敷かお城っぽいので、ここまで側に木々が生えているのは初めてだろう。

わたしは続ける。

「だけど、気温は逆に低いはずだから、今年はやっぱり暑いのかな?」

「……サリーさんは平気なの?」

「わたし?

これぐらいなら平気だよ?」

ママの洞窟近辺は標高が高かったから、夏でも大して暑くなかった。

だから、この場所の夏は大変なことになるのではと身構えていたんだけど……。

暑いと言えばそうだけど、我慢できないほどではない。

まあ、前世日本のヒートアイランド現象だっけ? 都市部の灼熱プラス高湿度を体験した身だから、それほど苦にならないのかもしれない。

もっとも、服装は夏服にはなっている。

前世セーラー服の夏服バージョンだ!

といっても、そこまで大きくは代わっていない。

半袖だというのと、生地が薄手になったぐらいか。

あと、髪型が変わった。

左右に分けて三つ編みにしていたんだけど、髪が腰に近くなってきたので邪魔にならないように一本にまとめることにした。

妖精メイドのサクラちゃんが毎朝やってくれていて、細かく編み込みがされている。

正直、わたしだけでは再現できない髪型になってしまっているので、別のにお願いしたいのだけど……。

サクラちゃんが〝わたしが毎朝やるから大丈夫!〟と気合い十分な表情で言ってくるので、取りあえずお願いしている。

自分で出来ないだけで、この髪型は凄く可愛いくて気に入ってるしね。

そんなことを思いつつ、ポケットからハンカチを取り出すと、イメルダちゃんの頬に流れる汗を拭いて上げる。

「自分でやるから」と恥ずかしがる可愛らしい姉的妹ちゃんにハンカチを渡しつつ、言う。

「外で活動するなら早朝とか夕方にしたら?」

今はお昼前とはいえ、十二分に日が昇っている時間だ。

イメルダちゃんは少し躊躇したが「今日の様子を見てから考えるわ」と言った。

まあ、何かあっても妖精ちゃん達が見ててくれれば大丈夫かな?

「無理しないでね」

と言っておいた。

ふむ、あれを作っておこうかな?

家に入ると、食料庫に向かう。

そして、準備しておいた小ぶりの壺を取り出す。

ふっふっふ、抜かりなく夏場に必須なものを作ってあるのだ。

更に、塩の入った壺を手に持ち、 中央の部屋(食堂) に戻ると、それをテーブルに置いた。

「何してるの?」

視線を向けると、部屋の隅に置いてある冷房の魔道具の前に陣取っているシャーロットちゃんが、キラキラした目でこちらを見てきた。

シャーロットちゃんも当然のように夏服だ。

水色の、わたしのセーラー服に似た可愛らしい服を着ている。

髪も、三つ編みを二つに分けていて、凄く可愛い!

ちょっと前までならお揃いだったけど……。

一本にまとめるの早まったかな?

でも、妖精メイドのサクラちゃん達が気合いを入れて考えてくれた髪型だから、戻すとは言いづらい。

そんなことを考えつつ、シャーロットちゃんに答える。

「今からね、夏に良い飲み物を作るんだよ」

「美味しい?」

「うん、美味しいし、健康にも良いんだよ」

と言いつつ、妹ちゃんを冷房の魔道具から離すと、椅子に座らせる。

冷房の魔道具は、前世クーラーほどではないけど、それでもずっと側にいると体が冷えちゃうからね。

台所に移動すると中を覗く。

シルク婦人さんが鉄板を洗っているのが見えた。

「シルク婦人さん、飲み物を作るんだけど――」

そこまで言うと、こちらを見たシルク婦人さんが手早く手を洗い、布で拭く。

そして、並べてあったコップに手を伸ばす。

「取りあえず、3個頂戴」

と要望を言うと、3個、手に持ちこちらに持ってくる。

そして、わたしをじっと見ながら「初めて?」と言った。

……あ、初めて作る物かって訊いてるのかな?

頷くと、後ろを振り向き、もう一つ持ってくる。

シルク婦人さんのお毒味用ね。

まあ、良いけど。

中央の部屋(食堂) に戻ると、何故か関係ない人達が揃っていた。

ヴェロニカお母さんや妖精姫ちゃん、姉姫ちゃん、その他妖精ちゃん達などなど……。

「いや、そこまで甘い物じゃないよ?」

と言っても、「楽しみだわぁ~」とか言っている。

口に合わなくても、文句を言わないでよね!

わたしが壺を開けていると、玄関からイメルダちゃんが入ってきた。

汗をハンカチで拭きながら「やっぱり、サリーさんが言うように、早朝か夕方にするわ」と言っているから、ギブアップしてきたようだ。

そして、イメルダちゃんは揃っている面々を見て、目をぱちくりさせながら訊ねてくる。

「どうしたの?

何か作るの?」

だから、「夏バテ対策用の飲み物を作る所」と答えると、姉的妹ちゃんは興味深げに「そうなのね」と言いながら、黒バラちゃんに麦わら帽子を渡している。

さて、作りますか!

と言っても、既にほぼ完成している。

わたしは壺の蓋を横に置くと、白いモクモクを中に伸ばし、〝それ〟を取り出す。

蜂蜜にしっかり浸されたそれは、ぶつ切りにされた果実である。

レモンだ!

飛鳥人(ひちょうじん) のフュルーがつい先日、ようやく持ってきてくれたもので、早速、植物育成魔法で育てまくり、それを蜂蜜漬けにしていた。

ついにそれが解禁されるのである!

コップにそれを入れ、白いモクモクを伸ばし、水を入れる。

ふむ、ついでに氷も入れようかな?

白いモクモクで作った小ぶりの氷を、二つほど落とす。

塩も一つまみほど入れて、モクモクマドラーでかき混ぜて、完成だ!

前世で言う、蜂蜜レモンである。

あれ、前世Web小説には蜂蜜レモンソルティって書いてあったんだっけ?

記憶が曖昧だけど、まあ良いか。

お毒味として、まずはわたしが飲んでみる。