作品タイトル不明
あり得ない処分の仕方
「え?
処分!?
こんな立派な子を!?」
「そうよ」
と言いながら、ヴェロニカお母さんは顔を顰める。
「何か、失敗したとかしたんじゃないかしら。
少しでも傷が付いた美術品を焼き捨てるように、この子は多分、捨てられたのだと思う」
「そうなの?」
ヴェロニカお母さんは重々しく頷く。
「しかも、その時、貴族はどうすると思う」
「どうって?」
「娯楽に変えるの。
知り合いの貴族を集めて、見世物にしながら、魔獣の中に突っ込ますの。
逆らえないようにしてね」
「うわぁ~!」
そんなの、あり得ないでしょう!?
これは、ヴェロニカお母さんがイメルダちゃん達に訊かせたくないと思うはずだ。
顔を顰めるわたしを見ながら、ヴェロニカお母さんが続ける。
「その時、高級なら高級な方が良いの。
〝ユニコーン程度など、わたしにとっては大したことが無い〟ってね。
ケチな貴族であるほど、逆に、そういう見栄を張りたがるの」
「ろくな事をしないね」
わたしの感想に、ヴェロニカお母さんは大きく頷く。
「そうよ、ろくな事をしない貴族は存在するのよ。
なので、このユニコーンの事は内緒にした方が良いわ」
「うん」
わたしが頷くと、ヴェロニカお母さんはニッコリ微笑んだ。
「とはいえ、このユニコーンはなかなかよい子よ。
イメルダにも見せて上げたいんだけど、呼んできて貰える?
多分、わたくしの部屋にいると思うから」
「うん、分かった」
「あと、あらかじめわたくしが今した説明をしておいてくれるかしら」
「え?
いいの?
イメルダちゃん達には訊かせたくないんじゃないの?」
わたしの問いに、ヴェロニカお母さんは苦い顔をする。
「シャーロットは流石に早いけど、イメルダにはそういう部分も伝えておいた方が良いと思うの」
ヴェロニカお母さんが良いというなら、わたしがどうこう思う事もないかな?
「そうなんだ。
分かった」
と頷き、家に向かって歩く。
しかし、領主様……。
セコくて臆病な貴族さんだと思っていたけど、違ったのね。
セコくて臆病で見栄っ張りな面倒くさい貴族さんなんだね。
もう!
絶対に関わりたくない!
イメルダちゃんが言っていた、買い物とかはあの町以外に行くの、本気で検討した方が良いかもしれない!
そんなことを考えつつ、何気なく振り返ってみた。
そして、ギョッとする。
ユニコーン君を見るヴェロニカお母さんの笑顔が――酷く歪なものに見えたからだ。
だけど、そんなわたしに気づいたヴェロニカお母さんが視線を向け「ん?」と少し不思議そうに小首を捻る。
その口に浮かぶ微笑はいつものものだ。
……いや、気のせいだよね。
ちょっと、貴族の胸くそ悪い話を聞いて、ちょっと変な気分になっていたから、変な風に見えてしまっただけだよね。
そうに違いない!
頭を振ると、家に向かって軽く駆けた。
家に入り、ゴロゴロルームを覗く。
あれ?
イメルダちゃんが居ない。
部屋の中央にエリザベスちゃんの籠が有り、その側を妖精メイドのスイレンちゃんが飛んでいた。
エリザベスちゃんは眠っているのかな?
わたしに気づいたスイレンちゃんは〝静かに〟と言うように手振りをした。
イメルダちゃん、別の部屋に移動したのかな?
ゴロゴロルームから 中央の部屋(食堂) に戻ると、床を掃いているシルク婦人さんに声をかけた。
「ねえねえ、シルク婦人さん。
イメルダちゃんがどこにいるか、知らない?」
シルク婦人さんはわたしに視線を向けると「食料庫」と端的に言った。
イメルダちゃん、食料庫に移動したのか。
シルク婦人さんに「ありがとう!」とお礼を言いつつ、食料庫に向かう。
中に入ると、地下にある冷凍室の入り口で、イメルダちゃんが近衛兵士妖精の青空君達や妖精メイドの黒バラちゃん達と何かをやっている。
そんな様子を、イメルダちゃんの上空でくるくる飛んでいる龍のジン君が眺めている。
わたしに気づいたイメルダちゃんが苦笑しながら言う。
「サリーさん、また大きな獲物を獲ってきたわね。
冷凍室がそろそろいっぱいになりそうよ」
「ああ、そうなんだね。
どうしようか?」
イメルダちゃんはため息を吐きながら言う。
「まあ、今回は青空君達に切ってもらって、何とか収納できたけど、しばらくは必要ないから」
「うん、分かった。
そうかぁ~町に行くことが出来れば、孤児院にでも持って行けるんだけどねぇ」
「そうね……」
イメルダちゃんは困ったように冷凍室に視線を向ける。
はぁ~
領主様にも困ったものだなぁ。
あ、いや、今はそうじゃなくて!
「それはともかく、イメルダちゃん!
実は、我が家にユニコーン君が来たの」
「ユニコーン?」
イメルダちゃんは訝しげな顔でこちらを見る。
「うん、狩りをしていたら走ってきて、ヴェロニカお母さんに見せたら、イメルダちゃんにも見て貰った方が良いって」
「???
いまいち、飲み込めないんだけど……」
あぁ~
本当に説明下手だ!
わたしはヴェロニカお母さんの話を混ぜつつ、一生懸命説明する。
何とか理解したようで、イメルダちゃんは苦笑する。
「その、少しでも傷ついた馬を殺してしまう話、わたくしも訊いたことがあるわ。
下らない話だと思うけど、殿方にはそういうのを好む方もいらっしゃるみたいなの」
「馬鹿らしいね」
「ええ、わたくしもそう思うわ」
わたし達が苦い顔をしていると、不意に、異臭が鼻につく。
ん?
焦げ臭い?
遠くないと思うけど、家の中ほど近くない。
皮か何かを焼く臭いがする。
「どうしたの?」
とイメルダちゃんが不思議そうな顔で見てくる。
「何かが燃える臭いがするの」
「ん?
シルク婦人が何か焼いてるのかしら?」
「なら良いんだけど……」
気になり早足で 中央の部屋(食堂) に向かう。
チラリと見た台所には、シルク婦人さんは居ない。
玄関に視線を向けると扉が開いている。
近づくと、シルク婦人さんの背中が見えた。
臭いが強くなる。
外で焼いているのかな?
わたしに気づいたシルク婦人さんが玄関から体を離してくれるので、早足で近づき、外を見る。
先ほどの位置でユニコーンが立っていて……。
その三メートル先で何かがぼうぼうと燃えているようだった。
何やってるんだろう?
まあ、一応、近衛兵士妖精の皆が畑とかに燃え移らないよう警戒しているから良いけど……。
後ろから「どうしたの?」とイメルダちゃんに訊ねられたので、「ヴェロニカお母さん達が何かを燃やしているみたい」と答える。
まあ、話は ヴェロニカお母さん(当人) らに訊けば良い。
外に出ると、階段をジャンプでショートカットする。
イメルダちゃんが付いてくる気配を感じたので視線を向けると、近衛兵士妖精の青空君達が守るように飛んでいる。
なら大丈夫かな?
ヴェロニカお母さん達の元まで駆ける。
ヴェロニカお母さんはユニコーン君の真っ白な首筋を撫でて上げていて、一角獣君は気持ちよさそうに目を閉じていた。
前世のWeb小説に登場するユニコーンには、処女に固執する描写のものも存在したけど……。
この世界のユニコーンは、そういうの余り関係ないようだ。