作品タイトル不明
行かないという選択……。
機嫌良く家に帰っていく姉姫ちゃんを、呆れたように目を細めながら見送る。
いや、そんなことをやっている場合じゃなかった!
似たような表情のイメルダちゃんや妖精姫ちゃんに牛さんを紹介する
家畜運搬車に近寄った妖精姫ちゃんは、困ったような顔でこちらを見た。
ん?
問題あるのかな?
ただ、すぐに近衛兵士妖精君達に家畜運搬車から降ろすよう指示を出す。
いや、見ていないでわたしも手伝わなくては!
白いモクモクでフォローしつつ、牛さんを降ろす。
イメルダちゃんが興味深げに牛に近づく。
「以前、牧場で見た子より小さいわね。
まだ、若い子なのかしら」
「やっぱり、小さいよね。
ここから更に大きくなるのかなぁ」
「それ前提に、飼育小屋も再度、改装して貰った方が良さそうね」
「そうだね」
そんな話をしつつ、牛さんの背中を撫でて上げる。
温かで柔らかで、なかなか気持ちよい撫で心地だ。
牛さんも気持ち良いのか、目を閉じて「モォ~」と鳴いている。
可愛い!
「飼育小屋に移したら、少し乳を貰ってみようかな?」
わたしが言うと、妖精姫ちゃんが目の前まで飛んできて、身振り手振りをする。
え?
念のために、検査をしてから?
必要あるかなぁ~
妖精姫ちゃんは〝念のため!〟という様に手を振る。
イメルダちゃんも「一応、お願いしたら?」と言っているし、まあ、お願いしようかな?
イメルダちゃんには一旦家に戻って貰い、代わりにスライムのルルリンを連れて行く。
妖精姫ちゃん達と飼育小屋に牛さんを連れて行くと、とんがり帽子の妖精ちゃん達が飛んできて、何やら魔法? らしきことをやり始めた。
牛さんは嫌がるかな? と思い、意識をそらすために、大麦を準備したんだけど……。
悠然とした牛さんは、妖精ちゃん達に一瞥をしただけで、特に気にする様子もなく、大麦を頬張り始めた。
あと、山羊さんがまた突っかかっていくかなと思ったんだけど……。
何故か、雄の山羊さんと共に、牛さんの視線から逃れるように隅っこに縮み上がっている。
えぇ~
大丈夫かなと、わたしが近づくと、何も言わず太ももに頭突きをしてきた。
えぇ~
黄金羊さんとはなんやかんや、上手くいってたけど、牛さんとはちょっと厳しいのかな?
せめて、目に入らないようにして上げたほうが良いのかもしれない。
そんなことを考えつつ、山羊さんの背中を「もうちょっと、我慢して」と撫でていると、妖精姫ちゃんが飛んできた。
そして、〝乳を搾って良い〟と言うように、身振り手振りをした。
どれどれ~
牛さんの元まで歩いて行くと「少し乳を貰うね」と断りつつ、乳房を丁寧に洗う。
そして、妖精メイドのサクラちゃんが持ってきてくれた壺に、搾っていく。
その間、牛さんは大人しくしている。
なんか、今まで来た中でもっとも扱いやすい子かもしれない。
ルルリンが背中にぽよんと乗っても気にする様子もないし。
そんなことを考えていると、飼育小屋の端っこに言っていた山羊さんが、近づいてくる。
そして、わたしの袖に噛みつき引っ張る。
ちょっと!
何?
すると、山羊さんはわたしに腹部を押しつけてくる。
ひょっとして、自分の仕事が取られるとでも思っているのかな?
「大丈夫、山羊さんからもこれまで通り、乳を貰うよ」
これは気休めとかじゃない。
実は山羊さんの乳はチーズの為に使おうと思っているのだ。
にもかかわらず、山羊さんは不満そうに「メェ~メェ~」言いながら噛みついてくる。
ちょ、髪を食べようとするのは止めて!
そんなことをやっていると、牛さんが山羊さんに視線を向けて「モォ~」と鳴いた。
とたん、山羊さんはビクッと震えると、逃げるように小屋の端に行ってしまう。
あらら……。
この牛さん、なかなかの強キャラなのかもしれない。
そんなことを思っていると、妖精メイドのサクラちゃんが近づいてくる。
そして、妖精ちゃん用の小さなコップを差し出してくる。
あ、ごめん。
小さすぎて、指で摘まみにくいので自分で 掬(すく) って。
半分ぐらいになった壺を斜めにして、掬いやすそうにして上げる。
サクラちゃんはコップで白い牛乳を掬うと、妖精姫ちゃんの方に持っていく。
三角帽子の妖精ちゃん達と、何やら話をした後、妖精姫ちゃんはコップに口を付けた。
何度か、口の中で味わった後、ゴクリと飲んだ妖精姫ちゃんはわたしに向かって頷いて見せた。
問題ないって事かな?
念のために、わたしも飲んでみることにする。
白いモクモクでコップを作り、それで牛乳を掬う。
それに口を付けて飲む。
「美味しい!」
濃厚で甘い、凄く美味しい牛乳だ。
前世の牛乳なんか、これに比べたら薄すぎると感じるだろう。
いや、絞りたてだからかな?
皆にも飲んで貰わなくては!
壺を持って、 中央の部屋(食堂) に向かった。
牛乳は皆に好評だった。
最初に味見をしたシルク婦人さんも「良い味」と大きく頷いていたし、イメルダちゃんも「牛乳ってこんなに美味しいのね」と目を丸くしていた。
ヴェロニカお母さんも目を見開き「こんなに美味しいの初めてだわ」と言っていたから、多分、我が家の牛さんの乳は相当良いものなのだろう。
気を良くしたので、ベッドで寝ているシャーロットちゃんにも持っていって上げた。
温めた中に、少し蜂蜜を溶かして上げる。
ベッドの中で飲んだシャーロットちゃんも「 美味しい(おいじい) 」と言ってくれた。
牛乳を飲ませた後、ベッドに寝かし、額に手を置き熱を測る。
う~ん、まだまだ、あるなぁ~
とはいえ、冬の時ほどは酷くないみたいで、ベッドで横になっている妹ちゃんもなにやら嬉しそうにわたしを見ている。
そして、口を開いた。
「 サリーお姉さま(ザリーおでえさま) 、はんばーぐ」
「ん?
ハンバーグ食べたいの?」
シャーロットちゃんはニコニコしながら頷く。
風邪を引いても、肉食系(意味違い)な妹ちゃんは健在だなぁ~
わたしは掛け布団を肩まで掛けて上げると「治ったらね」と言って上げる。
「ぜっだい!」
「うん、絶対ね」
白いモクモクをだし、シャーロットちゃんを包む。
薄らと体力回復魔法をかけて上げると温かくなったからか、ゆっくりと目を閉じ、しばらくすると、寝息を立て始めた。
大丈夫かな?
妖精メイドのウメちゃんがすーっと飛んできて、にこやかな顔で〝見ておく〟と言うように身振り手振りをしてくれる。
「じゃあ、お願いね」
とそっと囁き、部屋を出た。
中央の部屋(食堂) に戻ると、イメルダちゃんとヴェロニカお母さん、そして、妖精姫ちゃんがテーブルに座り、お茶をしていた。
わたしに気づくと、ヴェロニカお母さんが心配そうに訊ねてくる。
「シャーロットの様子はどうかしら?」
「まだ、熱はあるみたいだけど、冬の時よりは酷くないかな?」
「そう」とヴェロニカお母さんは眉を寄せる。
出来れば、直接見に行きたいんだろうなぁ。
ただ、エリザベスちゃんの事もあり、今回も控えて貰っている。
手を洗った後、席に着くと、シルク婦人さんが茶器とお茶を運んできてくれる。
ありがとう!
わたしはシルク婦人さんにお茶をついで貰いつつ、イメルダちゃんに言う。
「念のために、イメルダちゃんも今夜はヴェロニカお母さん達と寝てくれる?
イメルダちゃんの部屋に寝台があれば、そちらで寝て貰えるんだけど……」
イメルダちゃんは困った顔をする。
「わたくしの部屋の寝台は優先順位的に低いから、まだ作って貰っていないわ。
なので、今夜はお母様の部屋で休ませて貰うわ」
イメルダちゃんが視線を向けるとヴェロニカお母さんはニッコリ微笑みながら頷く。
わたしはお茶に砂糖を入れつつ言う。
「明日以降、どうしようかなぁ~
やっぱり、町には行かない方が良いかなぁ~」
羊飼いのエメラルドさんはなにやら、どうにかするって言ってたけど……。
一体どうするつもりなのか、凄く気になってきた。
一応覗きに言った方が良い気がする。
でも、ヴェロニカお母さんが首を横に振る。
「止めておいた方が良いわ。
なんだか、わたくし、嫌な予感がするもの。
しばらくは、町に行かないで欲しいわ」
イメルダちゃんも「わたくしも、その方が良いと思うわ」と言うし、テーブルの上のミニチュアなテーブルに座る妖精姫ちゃんも〝行かない方が良い!〟と身振り手振りをしてくる。
えぇ~そうかなぁ~
ヴェロニカお母さんが「それに、出来ればシャーロットの側にいて上げて欲しいわ」と言い、イメルダちゃんが「モグラがまた出てきたら困るし。飼育小屋の件もあるし」と続ける。
う~ん、ここまで止められると、無理して行くことは出来ないかぁ~
「分かった、しばらく町に行かない」
というと、皆、ホッとした顔になる。
う~ん、本当に良いのかなぁ~
わたしは悩むのであった。