作品タイトル不明
汚い羊さんと真っ白な羊さん
あ、例の特別なハンカチのご令嬢さん達だ。
ひょっとしたら、ハンカチを手に入れたのかもしれない。
金髪の女の子も、赤髪の女の子も「おほほ!」と嬉しそうに笑いながら各々の馬車に、騎士さん達の先導で入っていった。
そして、見送りに出てきた店長さんが頭を下げる前で、馬車が動き出した。
しばらくすると、生地屋の店長さんは顔を上げ、わたしに気づくと笑顔で手を振ってきた。
なんだか機嫌が良さそうだ。
「こんにちは。
特別の 手巾(しゅきん) 、無事、売れたの?」
わたしが近づき訊ねると、店長さんは嬉しそうに頷いた。
「ああ、売れた!
凄く喜んでくれて、それぞれ、大銀貨二枚も払ってくれたよ!」
「それは良かったね!
やっぱり、それぞれの為の柄だったのが良かったんだね!?」
わたしも嬉しくなって訊ねるも、店長さん、少し不思議そうに言う。
「まあ、その通りなんだけど……。
なんだかちょっと、変な事になってね」
「変な事?」
わたしが小首をかしげると、店長さんは頷いた。
「ああ、あの 手巾(しゅきん) 、ご令嬢方それぞれの髪の色に合った花を刺繍してくれていただろう?」
「うん」
「だけど、今日も同時にお見えになったお嬢様方――手に取られたのは、自分の髪の色ではない方だったんだ」
「え?
どういうこと?」
「どういうこと……なんだろうな?
よく分からないんだ。
……まあ、凄く喜んでいらっしゃったので、良いと言えばそうなんだけど」
どういうことなんだろう?
ヴェロニカお母さんなら分かるのかな?
生地屋の店長さんと別れて、牧場に到着する。
入り口付近に、前回会った牧場主さんと数人の男の人が、馬車の後ろで集まっているのが見えた。
何やっているんだろう?
よく見ると、何やら薄茶色の羊とその側にいる一回り小さい羊を取り囲んでいるようだった。
あ!
薄茶色の羊が暴れて、男の人が三人、吹き飛ばされた。
なかなか、乱暴な羊さんのようだ。
さらに暴れて、牧場主さんを含む二人も、悲鳴を上げて吹き飛ばされた!
あらら。
わたしが近づくと、それに気づいた男の人たちが「危ないから近づくな!」と叫んで来た。
だけど、牧場主さんはわたしを見るなり、こちらに向かって駆けてきた。
「き、君は暴れ山羊を黙らせた子だよね!」
暴れ山羊?
我が家の山羊さんの事かな?
そんな呼ばれ方をしていたのね。
「うん、お久しぶり」
と挨拶をするも、それどころではないのか、牧場主さんは懇願してくる。
「お願いだ!
あの羊を捕らえてくれないか!?」
周りの男の人が「馬鹿な! そんな子に出来る訳がないだろう!」とか言っているけど、牧場主さんは「この子は強いんだ! 暴れ山羊を押さえ込んで、連れて帰ったぐらいに!」と言ったら、「何!? あの暴れ山羊を!」「暴れ出したら五、六人を血祭りにすると言われた、あの暴れ山羊を!」とか驚愕し始めた。
いや、我が家の山羊さん……。
どんだけ、暴れていたの?
「頼む!
あの山羊と同じように大人しくさせてくれ!」
と牧場主さんから頭を下げられた。
えぇ~
でも、そんな風に頼まれると、むげには出来ない。
仕方が無いなぁ~と薄茶色の羊さんに近づこうとすると、庇うように白い羊さんが前に出て「メェー!」と鳴いた。
薄茶色の羊さんはそんな白羊さんの体の側面に顔を当てた。
お!
頬で体を押された白い羊さん、軽々と退かされている。
薄茶色の羊さんより一回り小さいとはいえ、白い羊さんだってそこそこ大きいのになかなかやるなぁ。
どれどれ。
薄茶色の羊さんと向かい合ってみる。
ふむ。
モコモコした毛の部分が有るとは言え、全長は三メートルぐらい――前世、動物園で見たカバさんぐらいか。
大きくて、ねじれた角に、鋭い眼光をしている。
なんだか、草食動物には見えない、なかなかの強面さんだ。
それなりに力が強そうだし、山羊さん同様、魔獣の血が流れているんだろうなぁ。
まあ、もっとも、我らフェンリルファミリーにとっては、どこまで行ってもただの家畜でしかないけどね。
……それにしても、この羊さん、ずいぶん汚いな。
薄茶色に見える毛も、汚れているからなお、そう見えている感じがする。
側で、悲しげにメェー、メェー鳴いている真っ白な羊さんとは対照的だ。
もっとも、みすぼらしい感じはしない。
なんとなく、前世の剣豪って感じの力強さがあった。
そんな事を考えていると、農場主さんが言う。
「そいつはどちらにしても、絞めるつもりだ。
なので、最悪、殺してしまっても良いよ!」
……ちょっと、モヤリとしてしまったけど、家畜に対しては当然の判断だろう。
わたしだって狩りをする。
それを考えたら、わたしがとやかく言える立場ではない。
ただ、真っ白な羊さんが悲しげに鳴くので、ちょっと、嫌だなぁ~とは思ってしまう。
「……羊さんは毛を刈るために飼ってるんじゃないの?」
そんな事を言うと、農場主さんは苦笑する。
「いや、そいつは元々、うちにいた訳じゃないんだ。
なんというか、気づいたら住み着いていてな。
近隣の農場に確認したけど、知らないって言われてな……。
じゃあ、うちで飼ってみようかって事になったんだけど――こいつがなかなか言う事を聞かない奴で……。
暴れるから、毛を刈る事すら出来ない上に、うちの牧場で最も白い毛の羊と 番(つがい) になりそうになってしまってな。
致し方がなく、絞める事になったんだ」
「なるほどねぇ~」
農場主のおじさん、番になりそう――とか言ってるけど、当人達はもう、番になってるんじゃないかな?
牧場のスタッフっぽいお兄さんが、一生懸命、白い毛の羊さんを引っ張り離そうとしているけど、羊さん、首を振りながら必死に抵抗しているし。
「 番(つがい) にしたら駄目なの?」
「いや、そりゃあ、許して上げたいとは思うよ?
でも、せっかくここまで白い毛の 羊(子) なのに、色の付いた毛の羊と掛け合わせるのは、ね……」
ああ、なるほど。
そりゃ、牧場主さんとしては、どうせなら同じく白い毛のオスの子を産んで欲しいよね。
……。
そういえば、羊の乳という物があるってWeb小説に書いてあった気がする……。
一応、一応訊くだけ、訊いておくかな?
「ねえねえ、例えばだけど、この子達を購入する場合、いくらぐらいになる?」
わたしの問いに、牧場主さんは苦笑をする。
「君がまた買い取るって言うのかい?
雄(オス) の方はともかく、 雌(メス) の方は高いよ?
そうだな、 番(つがい) で金貨二十枚、と言った所か」
「金貨……二十枚かぁ~」
頭を抱えるわたしに、牧場主さんは申し訳なさそうな顔をする。
でも違うの。
買えなくない額だから、頭を抱えているの!
そもそも、金貨二十枚って、万年筆より安いじゃない!
とはいえ、買ったらイメルダちゃんに絶対怒られるだろうなぁ~ってぐらいには高い!
でも、このままスルーしたら、絶対、後に引きずりそうだし!
あああ!
わたしは苦悩するのであった。