軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十四話 父と息子

十月。リンダム王家にとって非常に喜ばしい出来事があった。王妃クレア・リンダムが、第一子となる男児を無事に出産した。

「あぁ、なんて可愛いんだ……どれだけ眺めても飽きる気がしない。むしろ段々と愛情が深まっていくようだ。あまりにも愛しすぎる」

「ええ、本当に。まるで神々の母パドメが遣わした天使みたいですね」

国王夫妻の寝室。籠の中で毛布にくるまれ、すやすやと眠る我が子を見つめながら、エドウィンとクレアは笑みを零す。

出産で命を落とす女性も珍しくない中で、幸いにもクレアはあまり苦しむことなく初めての出産を終えた。ドーラや側近の妻たちの手助けのもと、母子共に無事なまま我が子が産まれてきたことを、エドウィンは神々に深く感謝した。

誕生から数週間。赤ん坊は両親とその家臣たちに守られながら、少しずつ成長している。自分がいずれ一国を受け継ぐ立場にいることなど、今はまだ知ることもなく。

「何も心配することはない、エゼルウルフ。ゆっくり育てばいいんだ。このリンダム王国と共に」

父親としての慈愛に満ちた表情で、エドウィンは我が子に語りかける。

エドウィンにとって継嗣となる赤ん坊は、エドウィンが今も厚く敬う亡父ケンウルフの名から一部をもらい、エゼルウルフと名づけられた。幼きエゼルウルフは、眠りながらも父の声が聞こえたのか、小さな小さな手をぎゅっと握って応える。

その様を見て微笑したエドウィンは、一度目を伏せ、気持ちを切り替えるように息を吐き、そして立ち上がる。

「できることならここでずっと見守っていたいけど、そうもいかないのが残念だよ。王の忙しさが今ばかりは憎い」

「ふふふっ、お気持ちは分かります。エゼルウルフは私がしっかりとお世話をしておきますから、どうか安心してください」

エドウィンは苦笑しながら伴侶の言葉に頷くと、彼女と口づけを交わし、もう一度我が子に視線を向けてから寝室を出る。愛する妻子の人生が平穏かつ豊かであり続けるためにも、自分が王として仕事に邁進しなければならない。

・・・・・・

エドウィンがタイウェルやガレスを打倒する上で、戦士団の尽力は不可欠なものだった。彼らが王と戦列を成して奮戦したからこそ、リンダム王国は圧倒的な勝利を得ることができた。

戦勝の後、戦士たちには論功行賞の場で十分な褒美が与えられた。タイウェルや彼の配下たちから奪い取った戦利品――銀製のブローチや腕輪や指輪、質の良い武器など、本来の用途ではもちろん持ち運べる財産としても価値のある品々を、エドウィンは王自ら戦士たちに手渡した。

また、戦死したサベルトの献身に応えるため、エドウィンは最も価値の高い戦利品である鎖帷子の一着を、彼の息子であるオズワルドに下賜した。戦場に散った他の二人の戦士に関しても、それぞれ妻子がいたため、遺族への見舞いとして十分な支援を為した。

そうして戦士たちの働きに報いる一方で、エドウィンは戦士団の規模拡大にも乗り出した。

リンダム王国の領土はこれまでの倍以上に広がり、それに応じて人口も急増。一方で戦士は五人が失われた。三人の死者の他に、重傷者のうち一人が片腕を失い、一人が足に後遺症を抱えることとなり、それぞれ一線を退いた。

より巨大になった国を守るためには、常備兵力たる戦士を増やさなければならない。そう考えたエドウィンは、戦士団を総勢七十人まで拡大することを決めた。衣食住に不自由しない生活を保証し、働きに応じて褒美を与える。そう言って新たな戦士候補を募ると、国内各地から若者が少しずつ集まるようになった。

その多くは、さして裕福でない自作農家や小作農家の次子以下。あるいは、盗賊団による襲撃やタイウェルによる圧政でかつての生活が崩壊し、地道な立て直しに臨むよりも王家の家臣となる方がいいと考えた者。なかには農場や商人の用心棒をやっていた者や、大陸での傭兵経験者なども何人かいた。

早いうちに集まった者たちの能力をジェラルドが試し、見込みのある者をひとまず十数人ほど選抜し、本格的な訓練を開始。それから数か月が経った秋の後半には、彼らは戦士としての地位を認められることとなった。

「――では、次の者」

「はい。私は王家に仕える戦士となり、その地位を剥奪されるか、自らの意思によって退くまで、国王陛下に尽くすことを神々の下で誓います。我が力は王と王家、王国のためにこそあり。エドウィン王万歳」

「汝の誓い、神々に祝福されし王として確かに聞き届けた。汝は我が戦士である」

王の館の広間。新参の戦士たちによる宣誓の儀式の場。一人の戦士が口上を述べ、エドウィンはそれに応えながら、手にしている剣の刃を彼の肩に置く。両の肩を刃の側面で軽く叩く。

これはロドニア皇帝家の近衛隊で行われているという儀式を真似たもの。近衛兵は皇帝から首元に剣を当てられることを受け入れてみせ、皇帝に生殺与奪の権利を握られることさえ厭わない固い忠誠心を示す……という話を傭兵時代に帝都で聞いたことがあったエドウィンは、リンダム王家の戦士団の宣誓式にもこの儀礼を取り入れた。国を興して王となり、四十人の配下たちを正式な家臣に任命した際にも、全員にこの宣誓をさせた。

新参の戦士全員から宣誓を受け、王としてそれに応えた後。エドウィンは一同を見回し、満足げに笑む。

「これで、諸君は正式にリンダム王家の戦士となった。私は王として、これから他の戦士たちを頼るように諸君のことも頼ろう……今後こうして諸君の首に剣を当てることも、逆に私の方が諸君から首元に剣を突きつけられることもないように願っている」

エドウィンが語ったなかなか際どい冗談に、新参の戦士たちは苦笑いで応えた。

こうして宣誓式が無事に終わり、ほっとした様子の新参者たちにエドウィンが言葉をかけて回る様を眺めながら、広間の左右の壁際に並んでいる戦士たちは口を開く。

「……訓練を受けてある程度ましになったとはいえ、こいつらと一緒に盾を並べるとなると、まだまだ不安が残るな。元傭兵とかの奴は別としても、ほとんどの奴は正直言って頼りない」

「仕方ないだろう。今はとにかく戦士の頭数が必要なんだ。四十人足らずじゃあ見回りをするにも税の徴収をするにも人手が足りない。ひとまずこいつらも戦士ってことにして、後は働かせながら鍛えていくしかないさ」

「ああ。要は見習いみたいな奴らだと思っておけばいい。何年か訓練を積ませればだいぶましになるはずだ」

新たな仲間を迎えた戦士たちが交わしたのは、そんな言葉だった。

今回戦士に任命された者たちは、大半が元農民。短期間の訓練で最低限の武器の扱いを仕込まれているが、即戦力とは言い難い。かつては傭兵として実戦経験を積み、日頃から訓練に励み、この二年ほどで新たにいくつかの戦闘を経験した戦士たちからすれば、何とも頼りない。

「リンダム王国がこれからも存続するためには、強い国になるしかない。強い国には強い軍勢が必要だ。俺たちが新しい戦士たちを一人前に育てるしかない……最初に陛下への忠誠を誓ったのは俺たちだ。これからも俺たちが、陛下をお傍で支えるぞ」

そう語ったのはレオフリックだった。王の若き側近の言葉に、他の戦士たちも頷く。

「違いねえ。陛下が王様になる前からの配下として、新参の連中よりも頼りになるところを見せねえとな」

「言われなくてもお支えするさ。国王陛下のおかげで俺たちの将来は明るくなったんだ」

彼らのそんな会話が聞こえ、ジェラルドはエドウィンの後ろに立ちながら思案する。

エドウィンに付き従って大陸からこのアロナ島に渡った元傭兵たち。その多くは、元々は単に利益を見込んでエドウィンの配下となった。有能な野心家である若き元傭兵団長についていけば、地位と富が手に入る。そう期待してエドウィンを己の主人に選んだ。決して個人的にエドウィンを慕っていたわけではなく、なかには不穏な企みをはたらいてジェラルドに斬られた者もいた。

エドウィンは彼らの期待に応えた。瞬く間に己の支配域を確立して王を名乗るようになり、正式に家臣とした彼らとその家族に不自由のない暮らしを送らせ、国を守る戦士としての名誉をも与えた。戦士たちのエドウィンに対する期待は、結果を出し続ける主君への信頼へと変わった。エドウィンの振る舞いや精神に感化され、彼らもまた次第に王の家臣らしくなってきている。寛大で気前の良い王に接しながら、彼らの心の内にはどうやら忠誠心も育っている。

当初は彼らに警戒心を抱いていたらしいレオフリックも、彼らが王の下で逃げることなく勇敢に戦う様を受け、そして己の内心とも折り合いをつけ、今では新たな仲間としてある程度受け入れた様子。若さ故の潔癖さを見せる息子のことをジェラルドは気にかけていたが、優秀な息子は同時に柔軟さも持ち合わせ、王の若き側近かつ戦士たちのまとめ役の一人として、戦士団の中に築かれた新たな人間関係に上手く収まっている。

この調子で歩んでいけば問題ない。この調子で歩み続けるエドウィンを支えていけば心配は要らない。ジェラルドはそう考えている。亡き親友の息子であり、娘の命の恩人である若き主君に人生を捧げる覚悟でいるジェラルドにとって、現状は非常に望ましいものだった。

「……」

お前の息子は、お前を超える傑物に育った。どれほどの偉人に育っていくか、自分には想像もつかない。今は神々の国にいるケンウルフに、ジェラルドは心の中でそう語りかける。