軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十一話 帰還

宿として使っている家に戻ったエドウィンは、広間の椅子に深々と腰かけ、この場に呼ばれた三人の男女と対面していた。

一人はまだ若い男。一人は中年の女。そしてもう一人は、服装と体格で男だと分かるが、顔を粗末な木製の仮面で隠しているために、顔立ちや年齢は一見して分からない人物。顔の見える二人は分かりやすく不安げな様子で、仮面を被ったもう一人も、怯えているのが気配から分かる。

エドウィンはできるだけ優しく見えるよう微笑を浮かべ、彼ら三人に語りかける。

「君たちの境遇は聞いている。タイウェルによって自由を奪われ、彼と配下たちのために無理やり装飾品を作らされていたと」

その言葉を受け、三人は顔を見合わせると、再びエドウィンの方を向いておそるおそるといった様子で一礼する。その振る舞いを、エドウィンは肯定と受け取る、

彼らは金属を素材に使い、装飾品――例えばブローチや腕輪、指輪、首飾り、髪飾り、ベルトの留め金などを手がける金細工職人だった。

農村中心の社会であるアロナ島にも、精緻な装飾品を作ることのできる金細工職人はいる。そのような稀少な技術を持つ者たちは、治安が特に安定し、交通の便利も良く、人や物が集まる交易拠点――つまりはかつて帝国軍の部隊が駐留していた砦の付近に工房を構えていた。小都市と化していた砦の周辺で、帝国軍人や商人たちを取引相手に仕事をしてきた。

逆に言えば、アロナ島において金細工職人はそのような場所にしかいなかった。これまでのリンダム王国領土内に金細工職人は一人もおらず、なのでエドウィンが持っていた金細工の装飾品は、クレアや彼女の亡き家族の所有していたものと、盗賊団を討伐して得た戦利品だけだった。

帝国軍の撤退と共に島内社会の商業が崩壊し、商売が成り立たなくなった金細工職人たちは、おそらく鍛冶職人や農民に転身したか、あるいは島内各地で己の支配域を確立し始めた有力者に下っているものと思われる。タイウェルの領地を奪い取れば、ティリス川下流域の南側における帝国軍の拠点だったドゥムノス砦、その周辺に住んでいる金細工職人と出会えるはず。

エドウィンのそのような目論見は、見事に当たった。タイウェルはドゥムノス砦の近くで商売をしていた金細工職人たちを強引に傘下に置き、やはりと言うべきか、横暴に支配していた。職人たちは彼の館の敷地内にある小屋に半ば監禁され、不自由で厳しい生活を送り、家族を人質に取られて脅されながら装飾品作りを強いられていたのだと、エドウィンは村の住民たちから聞いた。

「タイウェルは死に、君たちは自由の身となった。その上で私から提案しよう。我がリンダム王国の都へ移り住み、私のために仕事をしてほしい。私は暴虐なタイウェルとは違う。働きには正当な対価をもって報いよう。移住に際しては一人に一軒の家を与え、君たちと家族が余裕をもって暮らせる報酬を与え続けよう……もちろん、これはあくまでも提案だ。君たちは自由な個人として、私の提案を断ってどこか余所へ行っても構わない。さて、どうする?」

エドウィンが問いかけると、三人はしばし黙り込み、そしてまず最初に若い男が口を開く。

「……ぜひ、王様のもとで働きたく思います」

「わ、私も、雇っていただきたいです」

続いて中年の女も答え、エドウィンは彼らの返答に頷く。

「それはよかった。君たち二人を歓迎しよう……さて、君はどうする?」

エドウィンがあらためて問うても、最後の一人である仮面の男は、そわそわと落ち着かない様子で黙ったままだった。エドウィンは彼の顔を覆う粗末な仮面に視線を向けながら、懐からひとつの腕輪を取り出す。精緻な模様の施された、見事な金の腕輪を。

「タイウェルが所有していた腕輪だ。これを作ったのは君だと聞いている。タイウェルの従えていた金細工職人の中で、君が最も凄腕だと。間違いないか?」

「……はい。その腕輪は私が作りました。この三人の中で、いえ、ドゥムノス砦の周りに工房を構えていた金細工職人の中で、私がいちばん腕が良いはずです」

やや掠れた、しかし十分に聞き取れる声で、仮面の男は答えた。

「君の名前は? 顔を隠しているのは、傷や病の跡を隠すためか?」

「……キネグラスと申します。生まれつき異様な顔立ちを隠すため、仮面を被っております」

続く問いかけに、仮面の男はためらいがちに答えた。

「そうか……彼とジェラルド以外は下がってくれ。全員部屋を出るんだ」

広間を見回してエドウィンが言うと、キネグラス以外の金細工職人と室内に立っていた護衛の戦士たちは、レオフリックに促されて急ぎ出ていく。

そのレオフリックも退室して扉を閉め、室内にはエドウィンと、直衛のジェラルド、そしてキネグラスだけが残る。

「君さえよければ、互いの顔を見ながら話したい。素顔を見せてくれないか」

「……はい」

キネグラスは頷き、粗末な仮面を外す。その手は少し震えていた。

露わになった顔は、彼の言った通り、人の平均的な顔立ちから大きく離れたものだった。頭の骨自体が歪な形を成しているのだろうと一目で分かった。

「きっと今まで、その顔立ち故に苦労してきたことだろう。私には想像もつかないほどに」

キネグラスの顔を見て、エドウィンは特に表情を変えずに言った。彼は首肯するようにゆっくりと頭を下げた。

生まれつき障害を抱える者は、エドウィンも大陸の帝国本土で何度も見てきた。高貴な身分や裕福な立場に生まれた者は相応の保護を得られるが、そうでない者の多くは、経済的にも社会的地位の面でも厳しい境遇にあるようだった。

そうした者たちの中でも、特に容姿が皆と大きく異なる者が、社会生活を送る上で大きな困難を抱えることはエドウィンにも容易に想像できる。このキネグラスに関しても、タイウェルとその配下たちから容姿に関して下劣な揶揄を受けていた様子。彼らが「装飾品作りの上手い化け物」について話しているのを村の住民たちが何度も聞いたという。

「キネグラス。私が君たち金細工職人に求めるのは、上質な装飾品を手がけること、ただそれだけだ。私は君を金細工職人の筆頭に任じ、我が家臣たちと同じように遇しよう。君の作り上げる素晴らしい品々は、私と家族が身に着けるための、あるいは格別の働きをした家臣へ与えるための、王家の威信を表す特別な品としよう。君への侮辱は私への侮辱と見なし、君に代わって私が怒ろう。そうすると神々に誓おう……だから、私のもとに来ないか?」

エドウィンはキネグラスを見据えて問うた。キネグラスは無言で視線を返し、やがて頷いた。

「……喜んであなたにお仕えします、王様」

彼の返答を受け、エドウィンは満悦する。彼がこれから王家にもたらしてくれるであろう素晴らしい品々を想像しながら笑う。

・・・・・・

さらに翌日。エドウィンより戦士と民兵を合わせて二十人ほどを預かったレオフリックが、西にあるガレスの拠点に乗り込んだ。すると、ガレスの家族はエドウィンからの報復を恐れ、私財を持ってどこかへ逃げ去った後だった。

死んだガレスと逃げ出した彼の家族に代わり、新たにリンダム王国のエドウィン王が支配者となることを伝え広めるようガレスの拠点だった農場の住民たちに言い渡し、レオフリックが戻ってきた後。エドウィンは今回の外征をひとまず終えて王の都へ帰還した。

留守を守っていた戦士と民兵たち、都の住民たちから歓声をもって迎えられ、喜色満面のクレアと再会したエドウィンは、およそ一週間ぶりに帰ってきた王の館の広間で一息つく。

「目の前の敵は打ち破ったが、これからが大変だ。何せ、抱える民の数がいきなり二倍に増えるわけだからね。急拡大する国をしっかりと統治していけるよう家臣団を強化して、新しい領土も我が国の一部として機能するよう、できるだけ早く情勢を安定させないと。まったく嬉しい悲鳴だよ」

「勝者ならではのお悩みですね。さすがは偉大なエドウィン様です」

椅子に座ってくつろぎながらエドウィンが語ると、その腕を胸に抱いているクレアがうっとりとした表情で答える。愛する夫が無事に帰ってきた喜びに浸る彼女は、先ほどからエドウィンにぴったりと寄り添い続けている。

「今日のところはゆっくり休んで、そして明日は戦士たちへの論功行賞と……サベルトたち戦死者の葬儀を執り行おう。死者を悼み、彼らに別れを告げて、生き残った者たちで前に進むんだ」

エドウィンの声に寂しげな色が含まれたことにクレアも気づき、伴侶を見つめるその目には憐憫の情が浮かぶ。

サベルトたち戦死者の遺体は、決戦の直後には本隊に先駆けて都に帰され、腐敗する前に埋葬を済ませてある。留守を守っていたオズワルドや彼の家族は、エドウィンたちが帰還したときには既に家長の死を受け入れて落ち着いている様子だった。皆、死が常に身近にある世界で生きてきた者たち。戦いを生業とする家族の死を当然に悲しむが、絶望してふさぎ込むことまではしない。

「……さすがに疲れた。今夜はずっと傍にいてくれ、愛しいクレア」

「もちろんです、エドウィン様。私はあなた様のお傍を片時も離れません」

エドウィンの肩に頭をもたれさせながら、クレアは慈愛に満ちた笑顔で言う。

避けられない戦いの末に、失ったものは大きい。得たものはさらに大きい。エドウィンは広大な新領土と、そこに暮らす大勢の民と、新たな人材と、山のような戦利品と、そして栄誉を手に入れた。戦いに圧勝したという事実は、エドウィンが強き王であることを国内外に印象づけ、その威光は結果としてリンダム王国の安寧を守る盾となる。

勝者として、エドウィン・リンダムは此度の戦争を終えた。