軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十話 勝利宣言

「……予定通りなら、今頃はもう戦いの決着がついているんでしょうね」

リンダム王国の中枢である王の館。広間で温かいお茶を飲みながら、王妃クレアは呟いた。

その呟きを傍らで聞いたのは、祭司長フィオナだった。家令のドーラと話し合い、王の不在で心細さを感じているであろう身重の王妃にどちらか一人は寄り添うことにしているフィオナは、ドーラが広間を空けている今、こうしてクレアのお茶話の相手を務めていた。

「そうですねぇ、二日の行軍の後に、敵の拠点を攻めるというお話でしたから……」

そう返しながら、フィオナはクレアの表情を窺う。これまでよりも数段大きな戦いに臨む伴侶を送り出してから、やはりと言うべきか不安を拭えない様子が続いていた王妃は、今は昨日にも増して不安げに見える。

「……神々は必ずや、偉大な国王陛下に勝利をもたらしてくださいますぅ。きっともうすぐ、陛下の御無事と王国軍の大勝利を伝える報せが都まで届きますよぉ」

王妃が不安を抱えているのならば、励ますのが今の自分の務め。聖職者である自分の言葉は、ただの気休めだとしても幾らかの効果はあるはず。そう思いながらフィオナが言うと、幸いその考えは間違っていなかったのか、クレアの顔には微笑が浮かぶ。

「ありがとう。フィオナさんにそう言ってもらえたら、なんだかさっきまでよりも安心できます……さすがは祭司長様ですね」

「ふふふ、そう言っていただけて光栄ですぅ」

普段は頼りないと見られることもあるが、今は自分のこの柔和な気質がありがたい。そう思いながら、フィオナは笑みを返す。

「あなたの言う通り、エドウィン様は必ず勝利されるはずです……だってエドウィン様は、神々がこの地に遣わしてくださった救世主様なんですから。神々に選ばれて、これからもこの地で私たちの上に君臨する特別で偉大な御方なんですから」

語りながら、クレアは膨らみの目立つようになった自身の腹部を優しく撫でる。もう一方の手には、創天教の象徴たる九芒星のブローチが握りしめられている。

エドウィンに対する想いを語るとき、彼女の表情は恍惚としたものになる。今このときも例外ではない。

「そうですねぇ。特別で偉大な御方の支配と庇護を賜っている私たちは、本当に幸運ですぅ」

どこか危うい王妃の有様を前に、フィオナは微笑を堅持して答える。クレアがエドウィンに対して崇拝に近い想いを抱いていることを、彼女と接する機会の多いフィオナは当然知っている。

そして、王妃のそのような様に否定的な感情を抱くこともない。「救世主様」たるエドウィンの才覚と実力に頼ることが、リンダムの地に暮らす自分たちが幸福に生きていく上でおそらく最良の選択肢。その現実をフィオナも理解し、受け入れている。他の家臣や民と同じように。

この日の日暮れ前。リンダム王国軍の勝利の報が、伝令の戦士によって王の都に届けられた。

・・・・・・

後方の野営地にいた者たちとも合流し、村で一泊して戦いの疲れを癒した翌朝。側近たちと朝食を囲んでいた最中に、エドウィンはタイウェルが死んだとの報告を受けた。

エドウィンが宿として使っている家に駆け込んできた戦士の報告によると、タイウェルは近くの適当な小屋に閉じ込められていた。朝、見張りの戦士がタイウェルの人生最後の食事となる朝食を持って小屋に入ったところ、彼は小屋の中にあった長椅子の角に何度も頭を打ちつけたらしく、割れた頭から血を流して死んでいたという。

処刑への恐怖から逃れるために自ら命を絶つとは、それもわざわざ処刑よりも難儀そうな死に方を選ぶとは、人間の心理とは摩訶不思議だ。エドウィンはそう思いながら、死んでしまったものは仕方がないので、予定を変更してタイウェルの死体を利用することにした。

その日の午後。エドウィンは村の広場に木箱などを並べた急ごしらえの演台に立ち、民衆の前に立っていた。

演台の周囲には王の信頼を受けている古参の戦士たちが、エドウィンの後ろには王家の旗を掲げるレオフリックと警護を担うジェラルドが立ち、そして演台の隣には、丸太の柱に縛りつけられたタイウェルの死体がある。

「暴君タイウェル・ドゥムノスは死んだ! この私、リンダム王国国王エドウィンが倒した! 諸君を苦しめた男は今、こうして無様な死体になり果てた! もはやタイウェルが諸君に暴力を振るうことはない!」

この場には村の住民や村に逃げ込んだ民兵たちだけでなく、付近の人里の住民たちも集まっている。エドウィンは「広場に来ればタイウェルの死体を見ることができる」という話を広めさせ、こうして大勢を集めた上で、高らかに呼びかけている。

「私は軍勢を率いてこの地に攻め入ったが、それはタイウェルが私の国を攻撃したからだ! 私の軍勢が諸君と戦争をして、双方に死人が出たことも、全てタイウェルのせいだ! タイウェルの暴走の犠牲になった者たちが、神々の国で安らかに過ごせるよう共に祈ろう! 戦いが終わってタイウェルが死んだ今、もはや私たちは敵同士ではない!」

両手を広げながらエドウィンが語ると、民衆の中には賛同の声を上げる者もいた。その他の者たちも、少なくともエドウィンのことを「敵軍の将」と見なしている様子ではなかった。

こうしてリンダム王国軍との戦いで発生した犠牲を彼らに受け入れさせ、タイウェルに全ての責任を押しつけた上で、エドウィンはさらに演説を続ける。いよいよ本題に移る。

「過去の話は終わりだ! 今からは未来の話をしよう! 領主タイウェルは死に、これからは私がこの地の支配者となる! この地はリンダム王国に併合され、我が領土の一部となるのだ!」

エドウィンのその宣言に対する民衆の反応は、肯定とも否定ともとれないものだった。彼らは不安や疑問を表情に浮かべながら、口々に何か話し合う。ざわめきが広場を包む。

「お前ら静かにしろ! 国王陛下が話しておられるんだぞ!」

ジェラルドが怒鳴り、演台を囲んでいる戦士たちも口々に「黙れ」と命令を発する。間もなく民衆のざわめきが収まると、エドウィンはまた口を開く。

「私は暴君タイウェルとは違う! 私が諸君に課す税は、タイウェルが課す税の半分にも満たないものだ! おまけに私は、税以上の貢ぎ物を諸君に要求するつもりはない! 私の従える戦士たちも、理由もなく諸君に暴力を振るったりはしない! むしろその逆、我が戦士たちは外敵から諸君を守るためにこそ力を発揮する! 諸君は私の庇護の下、タイウェルに支配されていた今までよりも、それ以前の帝国支配の時代よりも、豊かに安楽に暮らせるだろう!」

エドウィンの語った支配の内容を受けて、民衆が再びざわめき出す。安堵の表情を浮かべる者も疑わしげな顔を見せる者もおり、やはり彼らの反応を単純に言い表すことはできない。

言葉だけで語られた善政の約束を、安易に信じることができないのは仕方のないこと。エドウィン王は善き為政者であると、王が約束を守る様を見て理解していけばいい。今の演説をもってこの村とその周辺の人里に暮らす民は支配者が変わったことを知り、その他の人里にも話は徐々に広まっていくだろう。現時点ではそれで十分。エドウィンはそう考えながら、演台を後にする。

「さて、次の仕事に移ろう。例の職人たちを宿に呼んでくれ」

「分かりました」

エドウィンの指示に頷き、ジェラルドは手近にいた戦士の一人を遣いとして走らせる。