軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十二話 迎撃②

「殺せ!」

エドウィンの吠えたその言葉を合図に、戦士たちは盾を構えることを止め、それぞれ目の前にいる敵兵に襲いかかる。

ただ力任せに叫ぶだけではない、腹の底から殺意を叩き出すような雄叫び。何度も実戦を経験した者だけが放てる気迫。各々の手に馴染んだ得物と、そこからくり出される無慈悲な攻撃。

防御的に戦っていたエドウィンたちにさえ押し勝てなかった敵軍が、疲弊して士気が挫けた状況で、攻めに転じた戦士たちの猛攻を受けて耐えられるはずもなかった。彼らは一瞬さえも持ちこたえることができず、完全に崩壊して逃げ出す。民兵たちはもちろん、大将とその取り巻きたちも、もはや戦いを続けようとはしない。

何とも馬鹿らしい。こんな連中は敵と呼ぶに値しない。エドウィンはそう思いながら、正面にいた敵民兵を戦斧で叩き殺す。そして、先ほどまでは敵軍の中心に立ってこちらの盾の壁を攻撃していた、今は逃げ去ろうとする敵の大将に次の狙いを定める。

「ま、待て! お前ら逃げるな! 俺を守れ! 俺が逃げる時間を――ぎゃああっ!」

何やら喚いている往生際の悪い大将を目がけて、エドウィンは戦斧を投擲した。回転しながら宙を舞った戦斧は、配下への呼びかけに必死でまともに盾も構えていなかった大将の肩口に突き刺さった。

痛みに絶叫しながらよろめいた大将に対して、エドウィンはそのまま円盾を構えて体当たりをくり出す。円盾にエドウィンの全体重が乗った体当たりの衝撃に耐えられず、大将は武器を取り落としながら無様に倒れた。

「やああああっ!」

「おっと」

大将の取り巻きのうち、彼の近くにいた一人が、健気にも主人を守ろうとしてエドウィンに挑みかかる。振り下ろされた槍をエドウィンは円盾で受け流し、同時に腰から剣を抜き去ると、体勢を崩した敵の腹目がけて突き込む。

敵は盾を構えてその攻撃を防ごうとするが、エドウィンのくり出す刺突の方が速い。王家の御用鍛冶職人デリックによって鋭く磨かれた刃は、敵の衣服も皮膚も肉も容易く貫き、臓腑を深々と刺した確かな手応えがエドウィンの手に伝わった。

剣を引き抜かれた腹から血を溢れさせて敵が倒れるのを見届けたエドウィンは、まだ地面に転がっている大将の方を向く。

「初めまして、ガレス殿……で間違いないかな?」

返り血の飛んだ顔に微笑を浮かべながらエドウィンが尋ねると、大将は少しの間を置き、恐る恐るといった様子で頷いた。襲撃はガレスの軍勢によるものだというこちらの推測は、やはり正しかったようだった。

エドウィンとガレスの周囲では、戦士たちが逃げる敵兵たちを激しく追撃する。一兵も逃がすまいと追いかけ、まともな抵抗を受けることもなく一方的に屠っていく。

・・・・・・

戦闘とも呼べない戦闘は短時間で終結し、リンダム王国側の損害は軽傷者が数人のみ。一方でガレスの手勢は、誰一人として逃げることができずに無力化された。二十人以上が殺され、残る十数人は重傷を負って戦闘不能となり、あるいは武器を捨てて投降し、捕らえられて村の広場に集められた。

「――なるほど。タイウェル・ドゥムノスに命じられて、仕方なく襲撃に臨んだと」

「そ、そうだ。俺の領地は弱くて、俺が従えてる手下も少ない。大勢の手下を引き連れてるタイウェルには逆らえない。あんたの縄張りを荒らして兵隊を引きつけろと命令されて、言われた通りにするしかなかったんだ」

肩の傷を洗われて清潔な布をあてられ、他の捕虜たちからは少し離されて地面に座り込んでいるガレスは、エドウィンを見上げながら怯えた表情で言った。襲撃に臨んだ背景を詳しく語れば助命してやると約束されてからの彼の態度は、実に素直なものだった。

「我が国の主力を西に割くための陽動として動かされ、失敗して早々に壊滅したというわけか……まあ、理屈は通っている。その話が本当だとしたら、諸君には同情しなければ。だが、言葉遣いには気をつけてもらいたい。次に我が領土のことを『縄張り』などと呼んだら、君はその下品な言葉選びに対する罰を受けることになる」

エドウィンの細められた視線に刺され、ガレスは小さく息を呑み、こくこくと頷いた。

「国王陛下!」

そのとき。戦士の半数と共に村の中の様子を見回っていたオズワルドが、エドウィンを呼びながら歩み寄ってきた。その表情は険しい。

「オズワルド、どうだった?」

「逃げ遅れた住民は皆殺しにされてます。まだ正確に人数を数えたわけじゃありませんが、一人や二人じゃありません。十人から二十人は死んでます……おまけに、ありゃあただ殺されただけじゃありませんね。散々痛めつけられたようで、まともに見れたもんじゃない」

「……そうか、分かった」

若き側近の報告に答えながら、エドウィンはガレスの方へ視線を戻す。エドウィンと目が合ったガレスは、見る見るうちに青ざめる。

「不本意な襲撃に臨んだと言うわりには、随分と好き勝手に暴れてくれたようだ。無力な者たちに野蛮な欲求をぶつけるのは楽しかったか?」

「ち、違うんだ! その、民兵どもの一部が勝手に暴走しただけで、後から罰しようと……」

苦しい言い訳をするガレスを無視し、エドウィンは少し離れた位置に集められている捕虜たちの方へ視線を向ける。後ろ手に縛られた十数人の捕虜たちは、不安げな表情でこちらの会話の様子を見守っていた。

「……決めた。レオフリック!」

「はい、国王陛下」

数人の戦士と共に捕虜たちの監視を担っていたレオフリックが、表情を引き締めて王の呼びかけに応える。

「我が領土内で乱暴狼藉をはたらき、我が民の命を奪った賊どもにかけてやる慈悲はない。今すぐ皆殺しに……いや、一人だけ証人として生かしておいて、残りは全員殺すように」

「御意のままに」

レオフリックは生真面目な表情で一礼すると、その表情のまま戦斧を振り上げ、手近にいた捕虜の頭に叩き下ろした。

果実のように割れた捕虜の頭から戦斧の刃を引き抜いた彼は、別の捕虜に目をつけ、歩み寄っていく。後ろ手に縛られたまま逃げようとした捕虜の背中を蹴り飛ばして転倒させ、そのまま背中に斬りかかる。

他の監視役の戦士たちもすぐさま動き出し、それぞれ得物を振りかざして、泣いて命乞いする捕虜たちを殺していく。生かすなら自分にしてくれと頼む捕虜たちに、言葉ではなく暴力をもって応えていく。

「そ、そんな! 全員助命すると約束したのに!」

手勢が容赦なく命を奪われていく様を見て、ガレスは叫ぶ。よほど怖くなったのか、その目からは涙が溢れる。

「助命? ジェラルド、私はそんな約束をしたかな?」

「いえ、陛下。されていないかと」

エドウィンの問いかけに、傍らのジェラルドは彼の息子と同じように生真面目な表情で返した。望み通りの言葉を受けて、エドウィンはにやりと笑んだ。

もちろんこれは嘘だった。素直に情報を寄越せば少なくとも命は助けてやると、ガレスに約束したのはつい先ほどのこと。その約束を反故にしたのは偏に、ガレスたちの所業を知って気が変わったため。

ときに残酷なこの世界で、暴力を用いて富を得ようとしたり欲求を満たそうとしたりする者は決して珍しくない。武力によって建国という目的を果たした自分も、ある意味ではこのガレスたちと同類だとエドウィンは思っている。

特にこのアロナ島のように、秩序の根幹が崩れて弱肉強食の原則に支配された無法の地においては、力に頼って何を為すのも個人の自由。ただし、自由を行使する上では代償も伴う。力による目的達成に失敗すれば、自分が食われる弱者の側になることも当然にあり得る。

「そういうことだ。さようなら、ガレス」

「ま、待ってくれ! 命だけはどうか! あんたに、いや、あなた様に従います! 領地は全部差し上げます!」

ガレスは泣き叫びながら平伏する。涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、何度も地面に頭をたたきつける。上からだけでなく下からも水を溢れさせたのか、彼の足元に水たまりが広がる。

エドウィンは侮蔑の視線を向けながら、戦斧を振りかざす。

「この村がこのような惨劇に見舞われる前であれば、お前の服従を受け入れたかもしれないな……だが、事ここに至っては手遅れだ」

「い、嫌だ! 国王陛下! どうかお願いします! 許してください! お助けください!」

「我が民たちもそうやって慈悲を求めたことだろう。そしてお前は応えなかった」

戦斧が振り下ろされ、ガレスは二度と喚くことができなくなった。