軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十一話 迎撃①

襲撃のあった村までは、王の都から徒歩で数時間の距離。エドウィンたちは戦闘に備えて体力を温存しながらも、できるだけ急いで村を目指した。

道中では、襲撃を逃れた王国西端の村の住民たちと出くわした。彼らは最初から抵抗することは考えず、散り散りに逃げ出したそうで、都に逃げ込もうと東へ進んでいる者たちもいれば、エドウィンたちが通過した人里に逃げ込んでいる者たちもいた。

おそらく、東だけでなく南や南東に逃げた者もいるはず。進軍中に出会った者たち以外にも、生存者がもっといるはず。そうであってほしい。民は貴重なので、できるだけ多く生き残っていてもらいたい。そう考えながら進軍を続け、エドウィンは目的の村へとたどり着いた。

「……完全に油断していますね。一応見張りは立てているようですが、呑気なものです」

「まあ、仕方ないさ。こちらが国境地帯の各人里へ事前に注意を促していたことも、よく鍛えられた戦士の集団がどれほどの速さで出陣と進軍を成せるかも、敵は知らないはずだ」

村からほど近い森に隠れ、敵側の様子を窺いながら、エドウィンはジェラルドと話す。

「自分の支配域では、これほど迅速に襲撃の報を届けさせ、迎撃の軍勢を用意し、襲撃現場へ向かわせることはできない。だからリンダム王国側もできないはず。王国側の軍勢はまだ当面来ないはず。この襲撃を指揮しているであろうガレスはきっと、そんな風に思ってしまっているんだ。何とも可哀想な奴だよ」

敵への同情を語るエドウィンの表情には、言葉とは裏腹に攻撃的な薄ら笑みが浮かぶ。

報告してくれた住民の言葉通り、襲撃してきた敵の軍勢は三十人から四十人ほど。その大半が粗末な武器を持っただけの民兵だった。

そして彼らは現在、村の中で掠奪に勤しんでいる真っ最中。村のものであろう荷馬車や荷車を持ち出し、荷台へ金目のものや農作物などを積み込んでいる。さらには、馬や牛、豚や羊などの家畜も連れていくつもりなのか、一か所に集めている。人口に比して多くの兵を集められたのは、こうして山ほどの掠奪品を得られると喧伝した結果か。

見たところ、彼らは移動を急いでいる様子はない。そして村の外に立っている見張りらしき民兵は、真面目に役割をこなすつもりがあるようには見えない。明らかに仕事に集中しておらず、ぼうっと正面を向いて欠伸などしている。

それから察するに、彼らの誰も、この襲撃の件が既にリンダム王家に伝わり、戦士団が村のすぐ傍まで駆けつけているとは想像もしていない。戦利品を集め、自分たちの支配域へ戻る時間的猶予はたっぷり残されていると信じている。

「想像力の欠如は、ときに死に直結する失態となる。そのことを奴らに教えてやろう……このまま森伝いに村の北側まで回り込み、一気に襲いかかる」

「了解。皆に伝えます」

ジェラルドはそう言って、後ろで待つ戦士たちの方へ向かう。エドウィンの指示が速やかに伝達され、そして二十六人は森に身を隠しながら移動する。

敵側の見張りは、村の東を向いている一人だけだった。反撃の軍勢が来るなら東からだと決めつけているらしい敵の迂闊さに付け込み、エドウィンたちは村の北側に回り込む。

唯一の見張りが他の方角に注意を払う様子はない。そのことを確認した上で、エドウィンは口を開く。

「……前進」

王の命令を受け、戦士たちは森から出て前に進む。命令を発したエドウィン自身も、皆の先頭に立って村へ迫る。

二十六人は無言で村に近づいていく。静かに敵の軍勢との距離を詰めていく。

間もなく、敵側もエドウィンたちの接近に気づく。村内がにわかに騒がしくなり、円盾と上等そうな槍を持った男が、民兵たちに何やら指示を飛ばしている。彼がこの軍勢の指揮官で、おそらくはタイウェルの領地の西側に己の支配域を持つガレスという人物か。

間抜け面を東に向けていた見張りの民兵も、北を振り返って驚愕の表情を浮かべ、村の中に戻って仲間と合流する。指揮官の周囲にいるまともな装備の男たちの一人が、その見張りを引っぱたいて何やら怒鳴っている。おそらく、どうして周りをよく見ていなかったのかと叱責しているのだろう。そんなことを思いながら、エドウィンは微苦笑を零す。

慌ただしく戦闘準備をしている敵軍に近づきながら、エドウィンたちは隊列を整える。森を出たときは一塊になって進んでいた二十六人が、徐々に横に広がっていく。

そうして、村の北側に集まった敵軍との距離を数十メートルまで詰めたときには、エドウィンを中央に据えた前後二列の横隊が完成していた。

対する敵軍は、隊列も何もない群れとしてエドウィンたちに対峙する。

「……三十七人います」

「数の上ではこちらの四割増しか。質の面では……まあ、考えるまでもないな」

敵軍の人数を正確に数えたジェラルドの言葉を受け、エドウィンは薄く笑う。

「戦士諸君! あのような雑魚の群れが相手では物足りないかもしれないが、久々の実戦だ! 存分に暴れるがいい!」

「「「応!」」」

エドウィンの鼓舞に、戦士たちは力強く応える。戦いを前にした興奮と殺気が、左右と後ろからエドウィンのもとに伝わってくる。

敵軍の大将ガレスと思しき男は、あまり迫力のある顔立ちとは言えなかったが、兵たちの先頭に立って指導者の役割を果たすだけの気概はあるようだった。彼の周囲には、彼と同じ程度に装備の整った数人の兵士――おそらく彼の直属の配下らしき連中も並んでいる。

「敵は俺たちよりもずっと人数が少ない! 一斉に襲いかかれば間違いなく勝てる! そうすれば山のような戦利品を持って帰り、お前らは金持ちになれるぞ!」

「「「おおっ!」」」

敵軍の大将がそう呼びかけると、彼の周囲に集まる配下も、後ろに集まる民兵たちも、威勢よく吠えた。声の大きさではこちらに引けを取らない。数の有利と、勝利の後に得られる利益が彼らの士気の源のようだった。

「突き進めー! 俺に続けぇー!」

そう叫びながら駆け出した大将に続き、敵軍は一斉に突撃してくる。大半が粗末な武器を持っただけの民兵とはいえ、三十七人が勢いよく走ってくる様はそれなりの迫力があった。

自ら先陣を切る度胸は大したもの。エドウィンは雑魚どもの親玉を内心でそう評しながら、小さく息を吸う。

戦斧と盾を握る手に力を込め、凶暴な笑みを浮かべ、そして口を開く。

「盾の壁!」

鋭く命令を発しながら、エドウィンは円盾を正面に構えた。左右に並ぶ戦士たちもそれに倣い、前列にいる十五人ほどが一斉に左腕を上げ、円盾を敵側に向けた。後列の十人ほどは、前列の味方を援護するために槍などを構えるか、側面を守るために左右の後方に控える。

首から腰にかけてを守るように構えた盾を並べ、敵の突撃を防ぐ壁とする。これはエドウィンたちキラケス人はもちろんのこと、古今東西において最も基本的な陣形だった。大陸においてはロドニア帝国の誕生以前、都市国家や部族国家が群立していた時代から存在しているそうで、帝国軍においても、かつてのエドウィンたちのような傭兵においても、集団の力を活かす陣形として用いられてきた。

形の上では単純な陣形だが、それを実戦で活かすのは決して簡単ではない。指揮官の命令に迅速に従うだけの練度。迫りくる敵から逃げずに己の立ち位置を守るだけの勇気を、戦う全員が備えることで初めて盾の壁は機能する。

適当にかき集めただけの民兵では、おそらくまともに盾を並べることもままならない。しかしエドウィンの従える戦士団のような、普段から訓練を積んで実戦経験も持つ集団ならば、容易には崩れない強固な盾の壁を一瞬にして築き上げられる。

戦士たちが息の揃った動きを見せ、一斉に盾を構える様は、端から見ればまるでひとつの巨大な生き物のようだった。様々な色が塗られ、あるいは意匠が描かれた盾が、それぞれ左右の盾と擦れ合いながら一列に並ぶその光景だけで、なかなかの威圧感があった。ろくな実戦経験もない民兵たちならば、この盾の壁を向けられただけで怯むほどの威圧感が。

民兵たちも、大将とその取り巻きたちも、強固な盾の壁を前に揃って突撃の勢いが鈍る。そんな敵軍を見て、エドウィンは鼻で笑う。最初こそ威勢が良かったが、所詮は寄せ集めの軍勢。その士気は思った以上に脆いようだと考える。

敵軍はそれでも前進を止めることまではせず、いよいよエドウィンたちの戦列に到達する。

怒号が響き、敵の攻撃が盾の壁にぶつかる。武器をぶつけられ、あるいは体当たりや蹴りを受けて戦士たちの円盾が揺れるが、それでも壁が崩れることはない。激しい攻撃を受けても盾の壁を維持するために積み重ねられてきた訓練の成果が、この実戦の場で十全に発揮される。

敵味方が密集してぶつかり合う中では、武器を全力で振り回すことは難しい。敵の民兵たちがくり出す粗末な武器による一撃は盾を破壊できず、硬質な打撃音を虚しく響かせるのみ。一部の敵兵が持つ上等な戦斧や槍なども、その高い攻撃力を十分に発揮することはかなわない。

蹴りや体当たりを受けても、そうした体重の乗った攻撃に耐える訓練を積んできた戦士たちはしっかりと持ち場に踏みとどまり、壁の一角を維持してみせる。なかには戦士たちの足元を攻撃しようとする敵兵もいるが、頭を下げた瞬間に円盾の正面を顔にぶつけられたり、盾越しに振り下ろされた戦斧で後頭部を叩き割られたりして、いずれも攻撃をくり出すこと自体を許されない。

そして、機転を利かせて側面に回り込もうとした者たちは、そこに待ち構えていた戦士たちの攻撃を受けて逃げ戻り、あるいは倒れる。少人数での側面攻撃はすぐに頓挫し、まとまった人数で別動隊を作って側面攻撃に移るほどの練度はそもそも敵軍にはない。

盾の壁を維持する前列の戦士たちの間を縫って、あるいは頭越しに、後列にいる数人の戦士が槍などで攻撃をくり出す。盾の壁を越えて不意に放たれる一撃を受け、敵軍の最前列にいる兵たちは怯み、傷ついていく。

最初の突撃の勢いを完全に失った敵軍は、どれだけ攻撃しても盾の壁を破れずに疲弊し、死傷者が続出したために戦意を失っていく。大将とその取り巻きたちは懸命に奮戦しているが、民兵たちは早くも逃げ腰になる。

そうして敵軍が弱った様を見逃さず、エドウィンは新たに命令を発する。

「押せ!」

王の命令を受けて、前列の戦士たちは一斉に一歩踏み込む。エドウィンも盾の壁の一部として前進を為す。強固な盾の壁がいきなり迫ってきたことで、敵軍の最前列にいた者たちは突き飛ばされて転び、あるいは驚いて後ろへ下がる。

そうして態勢を崩し、もはや攻め手ではなくなった敵軍に、今度はエドウィンと戦士たちが攻撃を開始する。