軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十七話 接触の仕方

王の都に帰還したエドウィンは、館の広間に主だった者たちを集め、北の領主タイウェル・ドゥムノスとやらに対してどのように対応すべきか話し合う場を設けた。

「空白地帯が人の行き来を敬遠させ、情報の伝達も阻害していたおかげで、僕たちはタイウェル・ドゥムノスの勢力について知らなかった。おそらく彼の側も、我がリンダム王国の存在を未だ認知していないか、既に知ったとしても名前程度しか把握していないはずだ」

隣には腹部の膨らみが徐々に目立つようになってきたクレアを寄り添わせ、テーブルを囲む側近たちやフィオナ祭司長を見回しながら、エドウィンは語る。

「これは僕たちにとって、一定の規模を誇る勢力との初めての邂逅だ。その内容をどのようなものにしていくか、選択肢は二つある。敵対的な態度を示すか、あるいは穏便に挨拶をするかだ」

「とはいえ、今後も当面は自ら治める領土を拡大していくのが若様の御意向である以上、明らかに邪魔な位置にいる勢力とは敵対するしかないのでは?」

腕を組みながらそう言ったのは、戦士長ジェラルドだった。

「まあ、そうだね。最終的に敵対するのは確定だ。我が国の人口はようやく二千人に届く程度。強き国を作るにはもっと多くの直轄領とそこに暮らす民が必要だから、この程度のところで歩みを止めるわけにはいかない。我が征服行の進路を塞ぐタイウェル・ドゥムノスと共存していくことはできない。彼には消えてもらわなければ。少なくともこの地から。あるいはこの世から」

いずれ国が大きくなり、何百という人里を支配するようになれば、領土の全てを王が直接的に支配することは難しくなり、そうなれば王の下に貴族などを置くような体制を築くことになる。その段になれば、敵対した勢力の支配者を降伏させて服従させる選択肢も生まれる。

しかし、今はまだその段階ではない。強き王として君臨するには広大な直轄領が必要。王家が直接支配する領土が、今の数倍は欲しい。なので、このタイウェルには消えてもらうしかない。エドウィンはそう考えている。

「それに、もし他の方角に征服行の進路があったとしても、どちらにせよ北の一帯は我が手中に収めたい。彼の『領地』にはドゥムノス砦の跡も含まれている。その周辺で砦の運営を支えていた土地も、その土地に住まう民もだ。我が国をより強大にするために、それら全てが欲しい。できるだけ早いうちに」

帝国軍はアロナ島を放棄して去る際、島内の各拠点に火を放っていった。このティリス川下流域の南側における統治の拠点だったドゥムノス砦もその例に漏れず、一昨年の帝国軍撤退後にクレアの父が砦の様子を見に行ったところ、木造部分は焼け落ち、それに伴って石造りの部分も一部が崩壊していたという。

石材を用いた建築技術や文化は元来ロドニア人のものであり、アロナ人やエドウィンたちキラケス人の間では、木造建築の技術と文化が一般的。ロドニア人技術者たちも帝国軍と共に島を去ってしまった状況で、石造りの砦を再建し維持していくことは不可能ではないが膨大な苦労を伴い、現実的ではない。

そもそもエドウィンとしては、せっかく手に入れた住み心地の良い拠点を離れ、遠くにある冷たい石造りの砦などに移り住みたくはない。

とはいえ、砦の跡に残る石材の山は大いに使い道がある。炉をはじめとした様々な設備を作ったり、大規模な建物を造る上での基礎に用いたりする際、そのまま使える良質な石材の供給源があれば便利が良い。なので、ドゥムノス砦の跡は是非とも確保しておきたい。

また、帝国支配の時代、砦の周辺は小都市のようになり、様々な技能を持つ職人が住んでいたという。他に、帝国軍に売るための良質な馬を育てる牧場などもあったとエドウィンはクレアから聞いている。帝国軍撤退後も一部は残っているであろうそれらの人材や施設も、リンダム王国発展に役立つであろうから手に入れたい。

そうした点から考えても、タイウェル・ドゥムノスの領地は奪うほかなく、彼との戦いは避けられないとエドウィンは考えている。

「だが、敵対するまでの過程には注意が必要だろうね。他の勢力と接触するなり一方的に攻撃を仕掛けて滅ぼすというのは、あまりにも野蛮が過ぎる。エドウィン王は対話の余地もなくいきなり襲いかかってくる奴だ、などという悪評が立てば、後々まで困ることになる」

エドウィンはそこで言葉を切り、自身の前に置かれたお茶のカップを手に取る。長く喋って乾いた喉をお茶で潤し、カップをまたテーブルに置くと、使用人ドーラが進み出てお茶のお代わりを注ぐのを横目に再び語る。

「いずれリンダム王国が十分に領土を広げ、征服行を一段落させた後は、僕と同じように島内各地に己の支配域を確立した他の支配者たちと、争うばかりでなく共存を目指して交流する必要も出てくるだろう。そうなったとき、エドウィン王は対話もままならない野蛮人だと見なされていたら、誰もまともに交流してくれないかもしれない。周囲から話し合いの余地のない絶対的な敵と見なされれば、リンダム王国は発展するどころか、国として存続することさえ困難になる」

「……確かに、そりゃあ不味いですね」

主君の言葉に、納得した表情で返したのはサベルトだった。

エドウィンとしては、このままいつまでも領土拡大を続けられるとは思っていない。現実的に考えて、アロナ島全土を征服するのは極めて難しいと理解している。いずれは領土拡大も止まり、以降はその領土を維持し国内の社会を発展させることに注力していくことになると思っている。そのような展望は、以前に側近たちにも伝えている。

そうなれば、軍事だけでなく政治も重要となる。今からその時に備えなければならない。

「加えて言えば、僕は民が平和に豊かに暮らせるよう努めると神々に誓ったので、戦いに臨むのであればその誓約に則った形式を整えた方がいい。フィオナ祭司長、そうだろう?」

「……確かに、陛下の仰る通りですねぇ」

話を振られたフィオナは、思案の表情を見せた後に頷く。

「陛下が即位されたときに誓われた内容から考えると、例えば民の命や財産の庇護といった、正当な理由を掲げて戦うのが適切ですぅ。陛下が誓約を守るために必要な過程なのであれば、戦争に臨まれることも神々は受け入れるでしょうが、戦いにおいて大きな祝福を得るためには、大義名分は大切にするべきだと思いますぅ」

フィオナの語った見解に頷き、エドウィンは再び一同を見回す。

「だからこそ、まずは穏便な態度でタイウェルに接触したい。我が国が穏やかな交流を求めたにもかかわらず、あちらが敵対的な態度をとってきたら、僕は王として我が国とそこに暮らす民を守るために、致し方なくタイウェル・ドゥムノスの勢力を攻撃するというわけだ。彼が最初から攻撃的な返事をしてきたら話は早い。もし無難な返事をしてきたとしても、いずれ関係がこじれて敵対されたら、そのときは戦うのもやむなし……という理屈で事を進めよう」

「素晴らしいですわ! さすがは偉大な王の御考えです」

不敵な笑みを浮かべながら語ったエドウィンの腕を、恍惚とした表情のクレアが胸に抱いた。愛する女性からの称賛を受けてエドウィンが悦に入るその前で、集っている側近たちは王の意図に納得した様子だった。

「皆、何か異論は?……ないようだね。そうと決まれば、早速タイウェル・ドゥムノスと接触する準備をしよう」

エドウィンは今一度表情を引き締め、一同を見回して言う。

「僕が王として手紙を……いや、書簡と言った方が王らしいか。タイウェルに宛てて挨拶の書簡をしたためる。それを届ける役目は、誰か祭司に頼みたい」

「祭司に、でしょうかぁ? 戦士のどなたかではなく?」

再び王から視線を向けられたフィオナは、意外そうな表情で尋ねた。

「そうだ。タイウェルがこちらと穏便な挨拶を交わすつもりがなかった場合――おそらくないと思うが、その場合いかにも戦士といった風体の者を遣いとして送ると、敵対の意思表示として殺される可能性がある。一方で、祭司が遣いとして来訪すれば、タイウェルも地獄行きになることを覚悟で殺すような真似はそうそうしないだろう。その祭司には、自分は王の配下ではなく、あくまで王から頼まれて挨拶の仲介に来ただけだと語らせれば尚のこと安全だ」

「……なるほどぉ、確かに仰る通りですぅ。そう考えると、祭司って色々と使い勝手の良い存在かもしれませんねぇ」

「はははっ、ある意味ではそうとも言えるね。僕が言うのは罰当たりかもしれないが」

創天教の敬虔な守り手であり、おっとりとした気質が印象的な一方で、案外に現実主義的なところもある。そんな祭司長の物言いを受け、エドウィンは可笑しそうに笑う。

「それでは陛下、何なら私が使者を務めましょうかぁ? 確実に書簡を届けて、陛下の御言葉をあちらに伝えてまいりますよぉ?」

「君の忠誠心はありがたいが、それは止めておこう。君は今や我が国の内政に欠かせない人材となっているし、女性だ。祭司であっても容赦のない扱いをされることはあり得る以上、安全の保障されない場に送り込むことは避けたい。遣いには国内の祭司から適当な者を――真面目な気質で、人当たりが良さそうに見えて、できれば年を取った者を任じよう。無事にタイウェルの返答を持ち帰った暁には、その者に褒美を取らせ、君に次ぐ立場の聖職者として重用する」

「……かしこまりましたぁ。それなら、丁度いい人がいるので館へ呼びますぅ」

エドウィンの言葉の意味を正しく理解したらしいフィオナは、一礼してそう答えた。