作品タイトル不明
最初で最後の手紙
赤いバラの男は、処刑されるだろう。情報漏洩により、他国の王族を危険に晒したのだから。
国と軍のどちらで刑を執行するか、公開にするか非公開にするか、そんな話し合いに時間がかかっていた。
そんな中で手紙が届いた。
上司に別室に呼ばれて、言われるがままに対面に腰を下ろす。差し出されたそれには検閲済みの判が押してあった。
「これは、何ですか?」
「あー、獄中からの手紙だ」
差出人を見て、「獄中からの手紙」という意味がわかった。
「普通はご実家に書くものではないでしょうか」
「それはそれで書いてるんじゃないか? 処刑前の『三通の慈悲』だから」
上司は興味なさそうに、窓の外を見た。
我が国の風習で、死出の旅立ちの前に遺言を三通残すというものがある。
それが死刑囚にも適用されている。実際は、罪の告白や盗品を隠した場所が記されていないか、調査の対象となっているのだが。
「……こういうものに返事は書くべきなのでしょうか?」
まだ一行も読んでいないが、他の人はどうしているのか気になった。
「まあ、人それぞれだろう。返事を出したかったら預かるぞ。すぐに読みたいなら、ここを使ってもいいから」
上司はそう言って、席を立った。
私はしばらくその手紙を眺めて、どうしようか迷っていた。
それほど親しくはない人だ。襲撃で飴をもらったお返しは、まだしていなかった。収監されているところにわざわざ差し入れをするのは、身内でもないのにやりすぎだと思うし……。
ふう、と息を吐き、手紙を手に取る。当然のことだが、すでに開封されている。
『尋問されているとき、雑談で君が嘘の告白のせいで男性不信に陥っていると聞かされた。
俺が君を呼び出したときのことだろうか。
素直になれなかった少年時代の俺の出来心が、君を深く傷つけてしまったんだな。
君のことを嫌っていたわけではない。それどころか好意を持っていて、俺の言葉に反応して欲しかっただけなんだ。泣きそうな君の顔を今でも思い浮かべることができる。とても儚げで、守ってあげたくなった。
襲撃されたとき、俺たちの息はピッタリ合っていたよな。君が俺のキャンディーを口に含む姿に、俺の胸は早鐘を打っていたんだよ。
君はこれからも、男性の好意を信じられないままなのだろうか。申し訳ないが、少し嬉しく思う。それとも、俺の真実の心を知って、君の心の傷は癒えていくのだろうか。
もうすぐ死にゆく俺に免じて、幼い頃素直になれなかった俺を許してほしい。
だが、君の態度も良くないと思う。執念深いところを反省して、人の好意は受け取れるようになった方がいい。俺からの、最後のアドバイスだ。
本当に、真面目に、心を込めてプレゼントを選んだんだ。……君が好きだから。
どうか、忘れないでくれ。君のことを愛していた、愚かな男のことを』
……気持ち悪い。
悲劇に酔っているようにしか見えない。
これ謝ってないよね? 反省していないよね? 許してほしいとか図々しくない?
命を盾に、脅されている気がする。
嫌だ。この紙も封筒も悍ましいものに思えて、触りたくない。この部屋のゴミ箱に捨てたい。
ますます嫌いになっただけ。こんな押しつけがましい、自分を正当化するだけの文章なんか、読みたくなかった。
だけど、死にゆく人に「許さない」と言うのも冷血漢のようで……少しばかり後味が悪い。
私よりももっとひどい場合――例えば犯罪被害者の遺族たちは、どう向き合うのだろう。
どうしてこの人は、私を傷つけたり困らせたりするのか。
まさか、心に爪痕を残したかったのだろうか? 子どもの頃の嘘告では、足りないとでも?
いい思い出ではなく、悪い思い出でも構わないという神経がわからない。
気力を吸い取られたように、私はしばらく椅子から立てなかった。