作品タイトル不明
事件後の日常
翌日、死者が一名という情報が流れた。王女のエスコートをしていた騎士だ。
他にも重軽傷者が多数いた。重傷者の多くは、煙で視界が悪かったときにやられたそうだ。
「送風魔導具で煙を散らしたのはお手柄だった。表彰されるかもしれないぞ」
上司にそんな言葉をかけられた。私一人ではなかったことは、改めて報告した。手柄を独り占めする気はない。
数日後、襲撃犯から隣国の王弟の名前が出た。
開戦派の旗頭とされ、王弟の妻の実家が後ろ盾となっている。王女を殺害して、その罪を我が国に被せて戦争をする。そんな計画だったという。
王弟は今回の祭典には出席しないため、指示書が押収された。
地方から派遣された兵士のうち、隣国との街道沿いの地域に所属するものたちは、早急に元の職場に戻ることになった。
他の地方から来た兵士たちは、調査の手伝いということで派遣期間が延びた。あの日、公園内やその周辺にいた人たちを探して、聞き取りをするために飛び回っている。
私たちは、花屋と飾り付けをした業者を順番に呼び出す手伝いをした。呼び出した後の聴取は、別の部署が担当する。
顔見知りの例の花屋も対象となっている。だが、また何か言われても困るだろうと、他の人が担当してくれた。そんな配慮をしてもらうなんて、申し訳なくて情けなかった。
当然、事件のことだけをやっていればいいわけではない。祭典の後片付けや報告に加えて、通常業務もこなさなければいけない。
祭典前の緊張感が漂う状況よりはマシだが、なかなか忙しい日々となっていた。
そんな中、お昼がいつもより貴重な時間となっている。
「王女殿下たちは帰国したんでしょ?」
同僚がパスタをフォークに絡めながら、話題を振ってきた。
「翌日には、お二人とも……ね」
「自分を庇った騎士の葬儀にも出ないって、そういうもの? まあ、残られても警備が大変だからいいけど」
率直な同僚の意見に同感と言えども、少々返答には困ってしまう。王族にとっては、騎士も使い捨ての駒なのかと気が滅入ってくる。
本人たちがどう考えているかなど、畏れ多くて知る術もないが……。
事情通の友人が、私たちを見かけて近づいてきた。
「相席していい?」
「もちろん」
そう答えて、座ったまま片手で椅子を引いてやる。
彼女からの情報はとても濃いものだった。
隣国からは「王女を危険な目に遭わせたな」と苦情が来た。
こちらの国は「そちらの国の権力争いに我が国を巻き込むな。将来有望な侯爵令息が犠牲になった」と応酬する。
今回も仲介国が口をきき、落とし所を探った。
そして、王弟を裁くのは隣国王家の威信を損なう。よって、王弟の最大の後ろ盾である、その妻の実家に全責任を被せた。妻の実家は侯爵家だったので、子爵に落とす。そして、莫大な慰謝料を犠牲になった騎士の家に支払うよう要求する。
我が国はその騎士に名誉爵位を授与し、準国葬を行う。お姫様を救った英雄として大々的に讃える。街中で襲撃事件が起こったことから、人々の目を逸らせるためにも、盛大に――
「人の死を政治的なことに利用するのね。なんだか、釈然としないわ」
政治の中枢にいる人たちの大変さはわからない。無責任な発言かもしれないが、すっきりしない。自信ありげに王女をエスコートしていたあの日の彼は、こんな急に人生が終わるなんて考えてもいなかっただろう。
「すごく言い方は悪いけれど、騎士が死んでくれたから我が国の面目が立ったって感じ」
情報通が肩をすくめた。
「ギリギリの政治的な駆け引きなのでしょうけど、えげつないわね。私は平民で良かったわ」
社会を知れば知るほど、貴族は大変だと思う。ただし、権力を振り回すだけの駄目な貴族は除く――なんて自分にツッコミを入れてしまった。
「でも、あなたの家は、そろそろ男爵になるんじゃないかって噂があるけど」
同僚が別の話をしだした。よりにもよって、私の家の話ですか。
「ならないわよ。我が家では、自力で騎士爵を得るのがステータスなんだもの」
その見込みがない私の地位は低い。女性でも騎士爵になれる人はいるから、尚更だ。
「そのために爵位を断っているの?」
同僚は驚いたようで、フォークがお皿に当たって音を立てた。
「そのためだけってわけじゃないけど……」
どこまで説明しようか考えていたら、後ろから声をかけられた。
兄が、食事を終えてトレイを持って立っていた。
「赤バラの男が捕まったぞ」
まず、わざわざ声をかけてきたことを不審に思った。
次に、なぜ兄が赤いバラのことを知っているのか。一瞬、そちらが気になったが、それどころではない。
「捕まったって……何をやったの?」
祭典の襲撃事件で忙しい、こんな時に――