作品タイトル不明
襲撃
まず、煙で目と喉をやられた。煙の中で、悲鳴や怒号が飛び交っている。
「送風魔導具のところ……ごほっ……行ってくる」
同僚に声をかけて、公園の中心部に急いだ。魔導具の弱風を強風に変えたら、煙を薄くできるはず。両手を前に出して、人がいたらそっと押して避けてもらえるように進んだ。
気をつけていたが、斜め後ろからぶつかられた。不意を突かれて、転んでしまう。膝と手のひらに砂利がついた。ヒリヒリと痛むが、動けないほどではない。
「すみません。大丈夫ですか」
と手を差し出された。この声は赤バラ男だ。
「送風魔導具で……けほっ……煙を散らしたいの」
「わかった。護衛する」
私の背中に手を回し、低い姿勢を取らされた。足元は見えないけれど、空を見るとうっすらとシルエットがわかる。周辺の建物を見て、進む方向を決めるしかない。
手のひらに丸いものが押しつけられた。
「屋台で買った飴だ。喉が楽になるぞ」
「あ、ありがと」
口に含むと酸っぱくて、背筋がぞわっとした。
「あははは」
こんな時でも意地悪を忘れないのかしら。いいえ、それは穿った見方だわ。彼は自分のために買ったものを分けてくれただけだもの。
王女たちがいる辺りから争う音が聞こえる。エスコートの騎士も護衛もいるのだから……そう、信じるしかない。
ようやく送風魔導具に辿り着いた。上部にある操作盤の蓋を開けようと手を伸ばす。
「ここか?」
彼がさっと開けてくれた。
「そこのボタンを押して、つまみを強にして」
ごうんと音がして、風が強くなった。煙が吹き飛ばされ、徐々に視界が開けていく。
「きゃー」
と誰かの悲鳴を皮切りに、公園は狂乱状態に陥った。倒れている人、赤い血……。
煙で見えていなかった惨状が、目に飛び込んできた。
「私は大丈夫だから、王女の加勢に行って!」
「おう!」
非情なようだが、この場における最優先事項は王女たちだ。襲撃者の狙いも王女だろう。
邪魔をしなければ、庶民まで狙われることはないと思う。……そう、思いたい。
では、どこかに避難させるか? いや、この公園が避難場所の一つだ。みんなで固まっていたら安全かというと、そうとも言い切れない。バラバラに逃げた方がいい場合もある。
ああ、どうしよう。
とにかく、加勢がほしい。誰かが本部に報告しただろうか。それもわからない。
公園内も時計台が立っている。屋根の下には鐘があった。
指輪をはめた指を鐘に向け、風魔法を放った。
カラーン、カラーン。予定にない鐘の音が響く。
神経質になっている警備の誰かが、気付いてくれますように。
私は戦闘に加われない。火を使う屋台を回り、消すように伝えなければ。
駆け寄ると、すでに同僚の姿があった。
「火は消してもらったわよ。……けほっ」
「そう、よかった」
頼もしい同僚だ。
王女たちの方を見ると、襲撃犯を押さえることに成功したようだ。この公園に兵士たちの休憩所があったのは、襲撃犯にとって誤算だっただろう。
王女は侍女に世話をされて馬車に戻っていく。ドレスが土煙ですすけ、赤茶色い汚れもついていた。だが、自分の足で歩いている。
無事で良かったと思う一方で、これが政治にどんな影響を与えるのか不安になった。
「生徒会長と孤児院の子は?」
王女たちに近い場所にいたはずだ。言いながら、周囲を見回す。兵士たちは、生きている容疑者たちを縛り上げている。
倒れている人たちの中に、子どもはいるだろうか。恐怖を飲み込んで、激戦だった場所に近づいていく。
そのときベンチの下から、這い出してくる人影があった。
「ああ、よかった。無事だったのね」
なんという判断力だろう。感心してしまった。
「さすが、優等生たちね」
同僚はそう言って、「彼女たちからも話を訊かないと。すぐ側で見ていた証人だもの」と肩をすくめた。
バタバタと足音が聞こえ、増援の兵士たちが公園に入ってきた。戦って疲弊していた兵士たちは、安堵の表情を浮かべた。