作品タイトル不明
祭典が始まる
祭典当日は、連絡係や待機組と行事補助に赴く人員に分かれていた。
私は行事補助になり、平民向けの催しが行われる広い公園に配置された。他国の王女殿下も顔を出すことになっている。
公園の隅にはテントを立てた。資材や荷物を置き、兵士たちの休憩所も兼ねている。
ちらりと赤バラ男が見えたが、「この近くが持ち場なのね」と思っただけだった。
今回祭典に参加する国々の料理が、屋台に並ぶ。香辛料や発酵調味料の臭いが混ざるので、中央には風の魔導具が設置されていた。
「髪にも服にも臭いが染みこみそうだわ」
同僚が苦笑いする。
「本当ね。でも、休憩時間に異国料理が味わえるのは役得じゃない?」
私は休憩時間が楽しみだった。
「食べ尽くすことはできないから、厳選しないといけないわね」
「あなた、意外と食いしん坊? 好奇心が旺盛なのね」
同僚が「知らなかったわ」と笑った。
落ちたゴミを拾い、ゴミ箱が一杯になっていたら袋を取り替える。迷子がいたら、案内所につれていく。子どもの頃に武道会でやっていたことと変わらない。
お祭りの高揚感と、裏方で主役にはなれない自分の寂しさが混じり合う。
「こういうの、苦手だわ」
うっかり口に出してしまい、慌てて手で口元を隠した。祭のざわめきで、誰にも聞かれずにすんだようだ。
カポカポと蹄の音がして、馬車が現れた。
裕福なご令嬢が街歩きをするような装いで、二人の王女が馬車を降りてきた。一人は戦争をしていた国の第三王女。もう一人は終戦交渉を仲介した国の第五王女だ。
我が国の若い騎士がエスコート役として付き添い、会場を見て回っていく。実は、彼らは高位貴族の令息で、簡易的なお見合いの意味があるらしい。
正直、そんなお見合いは王城の庭園でしてくれないかと思う。市民の生活の場で、不特定多数が出入りする公園だ。どれだけ注意しても死角は生じるだろうし、警護しにくくて敵わない。
美しい言い方をすれば、「平和の架け橋」と言うことなのだろうけれど。
子どもというものは、時々ギョッとするくらい度胸がいい。大人だったら絶対に近づかない、王女と騎士の集団に無邪気に近寄ることは充分考えられた。
私服を着た護衛がさりげなく周囲に散らばり、近づきそうな子どもがいないか警戒している。
一通り会場を回った後に、平民学校と孤児院の代表者が王女に親睦の証を渡すことになっていた。平民学校の生徒会長から花束を、孤児院の優秀な子からは刺繍したハンカチを進呈する。その孤児は元貴族だったりするから、整えられた様式美といったところだろうか。
それが済み、王女たちが馬車に乗り込めば一息吐ける。そんなことを考えながら、宰相府の職員が、進呈役の子どもたちを決められた位置に並ばせるのを眺めていた。
記者たちがその脇に待機している。
なんの役目も持たない子どもが、屋台で購入した鈴を鳴らしながら走ってきた。
王女たちは定められた場所に近づき、エスコート役の騎士は邪魔にならないよう一歩後ろに下がる。
子どもが王女たちの横を駆け抜けようとした瞬間、鈴から光が出た。
ドンッと空気を揺らすような音。
そして、公園中が煙に包まれた。