作品タイトル不明
縁が切れる
幼なじみの花屋が、寮の前で俺を待っていた。一瞬なんで王城にいるのかと思ったが、仕事で文官棟に来ると言っていたな。そこから寮まで足を伸ばしてきたのか。
「これから城下に出て飲みに行くか」と、こちらから誘ってやった。
ところが――
「謝ったなんて、嘘じゃないか。彼女は俺に対しても怒ってたし、花束は押しつけられたって言ってたぞ。どういうことだ?
俺の分まで話をつけるからって、タダで持っていったんだろ。約束が違う。花束の金を払えよ」
顔を真っ赤にして、手のひらを上にして差し出してくる。俺の腰巾着だったくせに生意気な。だが、落ち着かせた方がいいだろう。
「友達じゃないか」
「花屋の花は商品だ。友達だから無料とか、そんなわけあるかよ。そんなことなら、高価なバラなんか渡さなかった」
取り付く島もないくらい、怒っている。交渉の末、お友達価格ということで安くしてもらった。
言い合いの中で、「もう、お前の子分じゃない」とか「口ばかりで実力もないくせに」とか、許せないことも言われた。
「払えばいいんだろ。そこで待ってろ」
俺は寮の部屋に戻って、金を取ってきた。
その金を鷲づかみにして「もう顔も見たくない」と、捨て台詞を吐いて奴は帰って行った。
おかしい。ここにきて、次々と幼なじみに縁を切られるなんて……。どういうことだ?
彼女に会って、花束の真相を確かめなければならない。俺はそう考えた。
彼女が退勤するときに待ち伏せをしようと思ったが、その時間に用事を言いつけられてしまった。なんて気の利かない上司なんだ。
祭典までもう何日もない。祭典が終わったら、俺は地方に戻らなくてはいけないんだ。
王都に残れるように活躍するはずだったのに、彼女に振り回されて、手柄を立て損ねている。ああ、もう、むかつくなぁ。
翌日、ようやく食堂で昼食を食べている姿を発見した。彼女に近づいたが、こちらを見ようともしない。
「おい、無視するなよ」
「あなた誰? いきなり失礼じゃない」
彼女の隣にいる女が、不審人物に対するように俺を牽制してきた。
「あんたは黙っててくれよ。用があるのは、そっちの女だ」
「……なんですか?」
挨拶もせず、不機嫌そうな顔を向けられた。ちょっと待てよ。不愉快なのは俺の方だぞ。
「俺からの花をいい加減に扱ったらしいな」
「強引に置いていっただけじゃないですか。両手が塞がっていたのに、胸に押しつけてきて。困っていたら、引き受けてくださる親切な方がいたのです」
「胸に」なんて言うから、周囲がざわつく。別に、いやらしいことしてないだろ。
「俺が謝罪して、お前はそれを受け取ったんだから……俺の気持ちをわかれよ」
真心を無下にされて、悔しくて拳を握った。
「ねえ、礼儀もわきまえないそこの男。挨拶もしないで昼食に割り込んできて、イチャモン付けるのやめてくれる?
それに、謝罪する態度じゃないよね。口先だけで謝って、『許さない方が悪い』って言うつもり? 馬鹿じゃないの。
ほら。こんなに怯えちゃってるじゃない。誰かこいつを追い出して」
その女に言われて、彼女が震えていることに気がついた。
「あ、わりぃ」
大きな声が怖かったのかな。
「ああ、すまん。臨時で私の下についているんだが、困った奴で――」
上司はそう言って、俺の首根っこをひっつかんだ。そのまま引きずられて、食堂を出るはめになった。
まだ昼飯を食ってなかったし、人前で恥をかかされた。
陰険で高飛車な、同僚の女め。今度会ったら、容赦しないぞ。彼女も、なんで幼なじみの俺を助けようとしないんだ。
ただ、プレゼントは連行される前に、目の前のテーブルに置いてやった。女性に大人気のものだ。今度こそ、喜んで受け取るだろう。
ところが……次の日も、それはそこにあった。昼時で混んでいるのに、不自然に、その周りだけ人がいない。
食堂のやつに「盗まれても責任取れないから、持って帰ってくれ」と言われた。悔しくて唇を噛んだ。それをポケットにしまい、俺はうつむいて食堂を後にした。
ふざけるな。手に取りもしないで。もう、あんな奴、知らん。