作品タイトル不明
花の手配
「女には贈り物をすればいい。チョロいぜ」
俺は娼婦に勧められた品物を用意した。会ったときに渡せるよう、ポケットに入れる。
だが、彼女になかなか会えない。見かけても必ず誰かと一緒にいる。
彼女の方から俺に会いに来てもいいと思うのだが……見かけ通り、奥手なのかもしれない。
祭典まで残り一週間となった。
パレードが行われる沿道は、鉢植えの花で飾られる予定だ。花は祭典の二日前に並べることになっている。
今日、沿道の飾り付けを担当する業者に花屋を紹介する。沿道装飾の業者は複数いて、今後は自分と組む花屋に指示を出してもらうことになる。花の配達時間など細かいところまで、軍は関与しない。
ただ、簡単に持ち上げられる鉢は凶器に使われるかもしれない。容易に動かせない物にするよう、沿道装飾担当の代表者と軍で打ち合わせ済みだ。
私は花屋の受付をしていた。花屋の名前を聞き、名簿に振られた番号の札を渡す。沿道装飾担当は、その番号札で自分と組む花屋を見つけることになっていた。
一人の花屋の顔を見た瞬間、嫌な記憶が蘇った。青ざめるこちらを無視して、仕事に関係ないことを話し出した。
「あのときは軽い気持ちで呼びに行っちゃってごめんな。だけど、ほら、俺も付き合いで断れなかったっつーか」
眉間にしわが寄ってしまった。嘘の告白のときに、私を呼びに来た少年だ。
「あんたも泣いてなかったし、大丈夫だよな? もう気にしてないだろ?」
「人の傷口に塩を塗りに来たんですか? 後ろの方に迷惑なので、雑談はやめてください」
どういう神経をしているのか。低い、威嚇するような声が出た。
「え、ちょっと。あいつから謝罪の花束、受け取ったんだろ?」
あいつを許したなら、俺だって許されるだろうと言わんばかりだ。だいたい、謝られていないし。
「花を押しつけられただけです。……親切な方に引き取ってもらいました」
「え、ひどくない? あいつの純情をなんだと思ってるんだ?」
「女の子の気持ちを踏みにじっておいて、よくそういうことが言えるな」
同期の「変な人」が、なぜか間に入ってくれた。彼は沿道装飾担当の業者の受付をしていた。揉めているのに気付いて、助けに来てくれたらしい。
花屋は恨みがましい顔をしたが、引き下がった。こんなところで他の花屋からひんしゅくを買うのは、得策ではないだろう。
同期の男性は、件の花屋が沿道装飾担当のところへ向かうのを確認してから、こちらを振り返った。
「子どもの頃にひどいことをされたんだろう? 大丈夫か?」
「……ありがとう。助かったわ」
なんで、この人が嘘告のことを知っているのか。あの男がバラの花束を持ってきたりしたから詮索する人が出てきて、噂が流れているのかもしれない。本当に、昔も今も嫌な人だ。
「いや……以前のことを引きずるのも、お互いあれだし。君の事情を知っていたら、違っていたかもしれないと思うと残念だけど。結婚相手が見つかったから、あれは苦い思い出というか、さ」
もごもごと、段々聞き取りにくくなっていく。相変わらずよくわからないことを言う人だ。そう思いながらも、いつもの習慣でにこにこと聞いている。
実家で、母の愚痴を笑顔で聞くように躾けられてきた。よくわからない話もつまらない話も、にこにこしていれば空気を悪くしないですむ。
でも仕事中だから、そろそろ切り上げてもらうか。
「そう。ご結婚おめでとう」
「あ、うん。ありがとう。じゃ、また同期の集まりがあったら……」
「そうね。まずは祭典を成功させましょう」
「お、おう」
うまく切り抜けたと、ホッとした。
このときの様子で「あの花屋は関係者の一人か」と知った人が、その花屋を避けるようになる。以後、軍からの注文が減っていき、潰れることはないものの経営は苦しくなっていくのだった。