作品タイトル不明
53 未来へ
53 未来へ
春の終わりの柔らかな陽射しの中、白い蒸気を吐き出しながら列車がゆっくりと王都のホームへ滑り込んできた。
出迎えの人々で賑わう駅の中でも、ひときわ目立っているのは隣に立つ夫――アレクだ。背が高く、どうしても視線を集めてしまう。
窓越しにこちらを見つけた瞬間、客車にいたルーク様の顔がぱっと明るくなった。その隣では、マーガレットも嬉しそうに身を乗り出している。
さらに双子までが元気いっぱいに窓から手を振っていた。
それを見つけたメアリージェーンと、小さなルークも懸命に手を振り返す。
うちのルークは、ルーク様の名前をいただいて名付けた子だ。
家ではつい『ちっちゃいルーク』と呼んでしまう。よくないとは思っているのだけれど、どうしても癖が抜けない。
「相変わらずだな」
隣でアレクが楽しそうに肩をすくめた。
口調は淡々としているのに、その横顔はどこか嬉しそうだ。
「身内を迎えるだけで、街が祭りみたいな騒ぎだ」
やがて列車が停止し、一行がタラップを降りてくる。
再会の空気に包まれる中、さっきまで燥いでいたメアリージェーンが、急にすました顔になった。
小さく膝を折り、綺麗にカーテシーをする。
「ルークおじさま、マーガレットおばさま。お久しぶりでございます」
それに触発されたのか、双子とちっちゃいルークも慌てて続いた。
「おひさしぶりでございます!」
「おばさま、おじさま……ええと、いろいろ、おひさしぶりです!」
たどたどしいながらも、一生懸命な挨拶だ。
子供たちはすぐに顔を見合わせ、
「今の上手だったね!」
「ちゃんと言えた!」
と褒め合っている。
その姿があまりにも可愛らしくて、思わず頬が緩んだ。
再会の挨拶を終え、移動しようと手を繋ごうとしたのだけれど……
「もう大きいから繋がない!」
双子が揃って言い張った。
結局、苦笑したルーク様とアレクが、それぞれ一人ずつひょいと抱き上げる。
わたしとマーガレットは、メアリージェーンとちっちゃいルークの手を引き、用意されていた馬車へ乗り込んだ。
向かう先は、マリー義姉様が待つ避暑地の別荘だ。
お義姉様は、この日のために随分前から張り切っていた。
『双子ちゃんたちのお菓子は足りるかしら』
『お部屋のお花はもっと明るい色にしましょう』
『メアリージェーンには、お姉さんとしての心得を教えておかないと』
その様子は、すっかり、優しいお祖母様そのものだった。
別荘の門をくぐると、待ち構えていたお義姉様が真っ先にマーガレットを抱きしめ、続いて双子を力いっぱい抱きしめた。
お義兄様も、穏やかな顔でマーガレットを迎える。
そのあと、ルーク様とお義兄様はしっかりと握手を交わしていた。
わたしたちが馬車を降りると、今度はうちの子供たちが、
「おじさま! おばさま!」
と二人に飛びついていく。
比較的よく会っているはずなのに、顔を合わせるたび毎回この騒ぎだ。
「釣りをするんだ!」
「僕は馬に乗りたい!」
「両方やるんだろう?」
当然のようにルーク様が言うと、子供たちは顔を見合わせながら元気よく頷いた。
「うん!」
「全部やる!」
弾けるような笑い声が、初夏の空気に広がっていく。
それを聞きながら、わたしはそっと息を吐いた。
幸せだな、と。
昔は、こんな未来を想像もしていなかった。
二人の結婚は心から嬉しかったけれど、遠い異国へ行ってしまう寂しさも確かにあった。
けれど、新しい線路が敷かれ、国と国が結ばれた。
かつては遥か遠かった場所が、今ではこんなにも近い。
大切な人たちが、笑いながら行き来している。
そして、その中心にはいつも、あの二人の笑顔があった。
「何を笑っている?」
不意に隣からアレクが覗き込んでくる。
「別に? 何でもありませんわ」
「嘘だな」
「ふふ……ちょっとだけ、幸せだなって思っただけです」
正直にそう告げると、アレクは一瞬だけ眩しそうに目を細めた。
それから、ごく自然な仕草でわたしの腰へ手を回す。
「そうか」
短く返された声は、春の陽射しよりもずっと優しかった。