軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話 反社に喧嘩売られたの……?

柔らかな陽光が差す。

どういう作りかは知らないが、教会の中に入ってくるそれは、さらに暖かくふんわりとしたものになっている気がする。

教会の中に入れば神聖なものを感じるのは、こういう視覚的なものの要因が大きいと思う。

そして、そんな中で信者たちに説法をする俺。

めちゃくちゃ格好いいと思う。間違いなくイケメンだ。

後光が差しているだろう。自分で自分が恐ろしい。

こんなことを考えながらも、俺の口からは美声で説法が次から次に飛び出してくる。

ちなみに、全然心を込めていない。

だって、説法の内容なんて、俺全然興味ないし。

こんな言葉の羅列をありがたがって聞いているこいつらの気が知れない。こわ……。

「それでは、本日はここまでとします。皆さん、お忙しい中ありがとうございました」

そう言って頭を下げる。

マジで俺も忙しいんだから、こんなことに時間を使わせないでほしいわ。

お前らもマガツヒ様を信仰しているんだったら、勝手に個々でやればいいのに……。

俺を巻き込まないでほしい。

とか思っていると、わらわらと近寄ってくる信徒たち。

近寄るな! 帰れ! もう俺の仕事は終わったんだ!

後はごろごろタイムだ! 失せろ!

と声を張り上げたい気持ちはやまやまだが、それができないので黙り込む。

近くを見れば、ユーリエも同じように囲まれていた。

俺のもとには女、ユーリエのもとには男が多い。

あからさまで笑えるわ。

しょせん、人間なんて動物でしかないわな。

「教祖様。いつも優しいお言葉をありがとうございます。最低な人生だと思っていましたけど、救われました」

「最低だなんてことはありません。あなたはとても頑張ってきました。これから、少しでも豊かな人生になるよう、私にもぜひお手伝いさせてくださいね」

「ああっ、教祖様……!」

感激したように手を合わせる信者。

マジで俺に手伝わせるなよ。社交辞令だからな?

「聖女様。あなたの優しさで今日も生きていけます! 何かあったら、俺たちなんでもしますから!」

「ありがとうございます。でも、私のためではなく、マガツヒ教のため。そして何より、自分たちのことを蔑ろにしてはいけませんよ? あなたたちがとても大切なのですから」

「あぁっ、聖女様……!」

なんか同じようなことをしているユーリエ。

眉がぴくぴくしているぞ。ちゃんと聖女維持しろよ。

そんな感じで寄ってくる信徒たちをさばき、裏に戻る。

休憩室であるここは、俺とユーリエ以外は基本的に入ってこない。

だからこそ、だらりと力を抜いた。

「ぐぇぇぇぇ……疲れたぁぁぁぁ……」

「なぁぁぁんでこんなに信者が増えているのよぉぉぉぉ……。楽して普通以上の生活はどこに行ったの……?」

俺にもたれかかってきながら不満をぶちまけてくるユーリエ。

知らん。別に布教していないのに、どんどん信者が増えていっている。

これはおかしいぞ。どうなってんだ。

勝手に信者が増えていくとかホラーだ。

というか、そもそも俺とユーリエはそんなにマガツヒ教を拡大させるつもりなんてないのだ。

あまり拡大しすぎたら天使教に目を付けられるかもしれないし、俺らの仕事が増える。

お互い押し付けようとしているから、これ以上増えるとどうしても一方にだけ負担を強いるのが難しくなってしまう。

今まででも、そこそこ贅沢な生活を他人のお金でできていたのだから、特に不満はなかったんだけど……。

そもそも、楽してちょっといい生活をするために始めた宗教なのだ。

ぐったりとしている俺たちのもとに、マガツヒ様がウキウキした様子で降りてくる。

そんな気軽に降臨するなよ……。

「お疲れ、二人とも! いやぁ、信者が増えてきていい感じだね! 僕もどんどんと力が戻っていくことを感じるよ! 信者万歳!」

今までそうそう見ることができないほど上機嫌なマガツヒ様。

詳しくは知らないが、神の力は信仰の力と直結しているらしい。

数が多ければ多いほど、質が良ければ良いほど力になるらしい。

それでいうと、天使教の信仰している神はとてつもない力を持ってそうだな。

やっぱり、目を付けられないようにしないとなあ……。

「いや、こっちとしては仕事が増えて最悪なんですけど……。他人の悩みとか知らねえよ……」

「本当よ……。どうでもいい話を親身になって聞かないといけないこっちの身にもなってください」

「え……? それが君たちの仕事じゃん……?」

「それはそうかもしれないけどむかつきますねぇ、その言い方ぁ……」

キョトンと首を傾げるマガツヒ様。

さすがに、自分たちのちょっといい生活のために御身を利用しています! とは言えないからなあ……。

「でも、本当に信徒が増えてきたよ。僕はそれがはっきりとわかるからさ、余計に驚きが大きいよ。君たちの頑張りのおかげだね!」

俺たちは仕事量の感覚で信徒が増えてきたと思っていたが、力として感じ取れるマガツヒ様はもっとはっきり分かるのだろう。

頑張りたくて頑張っているんじゃないんですけど……。

「マジっすか。給料上げてください」

「……プライスレス!」

「はあ?」

「マジトーンのはあ? は止めてください……」

ユーリエの威圧に震えるマガツヒ様。

うーん、この上下関係逆転現象……。

「でも、このまま順調に信徒を増やしていきたいね……。そして、ある程度力が貯まったら天使教に聖戦だ」

「恐ろしいこと言ってるんだけど、この自称善神。宗教戦争を引き起こそうとしているぞ」

こそこそとユーリエに話しかける。

どうしたものか。これで善神とかジョークで言っているのか?

というか、天使教の戦争吹っ掛けるとかやばいだろ。押しつぶされるだけじゃん……。

ユーリエは今俺に抱き着くようになっているから、こそこそ話もしやすい。

すると、彼女も同じようにこそこそとささやいてきた。

くすぐったいからやめろ。

「あなたが拾ってきた女神でしょ。ちゃんと責任取りなさい」

「俺たちは比翼連理の鳥。責任は当然連帯責任となる」

「ふざけるな……!」

「お前がふざけるな! さんざん俺に乗っかって甘い汁を啜ってきただろうが! 命を懸けて俺に恩を返せ……!」

取っ組み合いを始める俺とユーリエ。

このガキ……! 力で俺に勝てると思ってんのか……あああああああ!? 首筋噛むのはやめろおおおお!

そこ人間の急所なんだぞ!

「順調なのはいいんだけど、これからちょっと気を付けていかないとなあ……」

「え、なんで? このままどんどん増やしていこうよ!」

何とかユーリエを引きはがし、ガチガチとかみつこうとしてくるのをいなしながらつぶやくと、マガツヒ様は不思議そうに首を傾げる。

いや、だってあんた力を付けたら本当に戦争仕掛けそうなんだもん……。

戦争とか、俺がこの世で最も忌避するものの一つだ。

いや、別に他所で勝手にやってくれるのは構わないのだが、俺が巻き込まれるのは許さないということである。

「目立つと頭をたたかれますよ。特に、この世界では色々とセンシティブな宗教を扱っているんですから。天使教の目に留まったら、すぐにつぶされますよ」

「上等だよね。天使どもは全員両手両足を引きちぎって犬の餌にしようね。おーっ!」

「可愛らしく手を挙げていい言葉じゃないんだけど。どうするんだよ。がちがちのカルトじゃん……」

目を『><』のようにして両腕を突き上げシュプレヒコールをしている。

可愛らしい動きと声音だが、言っていることは蛮族そのものである。

俺が見つけるまで廃れていた理由が分かったわ、この神……。

「教祖様、聖女様。少しよろしいでしょうか?」

そんなことを考えていると、休憩室をノックして入ってきたのはダリアだった。

ちっ、女か。

ユーリエも俺に譲るように鼻で笑うので、仕方なく対応する。

「どうしました、ダリア?」

『この変わり身の早さ、いまだに慣れない……』

いつの間にか消えているマガツヒ様も相当なものですよ。この人見知り。

「それが……」

言いづらそうにするダリア。珍しい。

彼女に誘導されるがまま外に出ると、教会の外壁の前で立ち止まった。

そこは、信者どもが毎日掃除しているから綺麗なはずなのだが、黒い文様のようなものが描かれている。

なに? この前衛芸術は。

「なんだ、この汚い落書きは」

「印、ですね」

思わず仮面が取れかける。

人の家に何落書きしてくれてんの?

てか、印ってなんだよ。

だから、それがなんだって聞いてんだ。

「このスラムの支配者が、これから攻撃をするという宣戦布告のようなものです」

「えぇ……?」

反社に喧嘩売られたの……?