作品タイトル不明
第13話 …………ま、いっか!
「ふわあ……。今日もいい天気ねぇ……」
伸びをして幸せそうにあくびをするユーリエ。
長い白髪が、ところどころ寝ぐせではねている。
人前に出るときはきらきらしてサラサラになるのだから、これが分からない。
ちょっとくらい隙を見せた方が、逆ハーメンバーたちは大喜びしそうだが。
「「…………」」
そして、そんな幸せそうなユーリエと反比例して不服そうにしているのが、俺とマガツヒ様である。
当たり前だよなあ? どこがすがすがしい朝だ。クソみたいな一日だ。
「あら、二人してどうしたのよ? 朝っぱらからそんな機嫌悪そうにして。見ているこっちが不快だからやめてくれるかしら?」
「俺らがどうしてこんな顔になっているか教えてやろうか? お前が品のない寝相をしているからだよ」
「僕なんて、地べたに蹴り落されたんだけど。おかしいよね? 僕女神だよね? 君、僕のこと信仰しているんだよね?」
そりゃユーリエは幸せだっただろう。
俺の腹の上に遠慮なく足を置き、マガツヒ様を蹴り落し、悪魔のようにベッドを占領していたのだから。
自分の好きな体勢で寝られたら、俺だってすがすがしい朝を迎えられていたに違いない。
……というか、こいつらはなんで俺の部屋に普通に入ってきて、寝泊まりしているの? バカなの?
神出鬼没の暇人であるマガツヒ様はともかく、ユーリエは自分の部屋があるだろ。
なんでわざわざ俺の部屋に来て、俺のベッドで寝て、寝相で俺を苦しめてるの? いやがらせか?
「……僕にひどいことを考えなかった?」
「考えてないです」
変なところで勘がいいのがマガツヒ様だ。
迷惑である。
俺とマガツヒ様の尋問を受けたユーリエは、やれやれと首を横に振った。
「寝ているときのことなんて責任とれるはずないでしょ。バカなの?」
「起きていても責任取らないだろ、お前」
「わたしの責任はあなたがとるのよ」
にっこりと笑いあう俺とユーリエ。
殺してぇ……。
「マガツヒ様、こいつ追放しましょうよ」
「う、うーん……。でも、君と一緒で僕の筆頭信徒だし……」
マガツヒ様、筆頭信徒好きすぎだろ。
俺が言うのもなんだが、どれだけひいきしているんだ、この女神。
信仰心のかけらも持っていないのに……。
「はー……。朝っぱらからしんどいけど、とりあえず教会に行くかあ。あそこでぼーっとしているだけでいいし、楽だわ」
「やっぱり、宗教ってコスパいいわね」
「……なんで平然と同じ場所で着替えているんだ、この子たち」
マガツヒ様がなんとも言えない表情をしている中、俺とユーリエは着替えて教会に向かう準備を整えていく。
……俺のクローゼットからシスター服を取り出すのはやめろや。匂い移りそう。
下着姿のユーリエを見て白い眼を向けていると、頬を赤らめるどころかひどく冷たい顔を向けてきて、何見てんだとガンを飛ばされる。怖い。
これがマガツヒ教の聖女です。世も末だ。
そんなことを考えながら準備を整え、俺たちは教会にいた。
ここでボケーっとしているのが、俺とユーリエの仕事である。
最初はグチグチ言ってきていたマガツヒ様だが、最近はサボる快感を覚えたせいで、何も言ってこない。
日当たりのいい場所で日向ぼっこしている。
あの人が一番怠惰だ。
「聖女様!」
そんなときに、扉をバタンと開けて入ってきたのはハメルだった。
相変わらずのイケメンである。俺には及ばないが。
ハメルということは、ユーリエの逆ハー要員。
すなわち、これの対応をするのはユーリエだ。
俺は何もしなくていいから、気楽にぼーっとしておく。
「あら、ハメルさん。どうしましたか?」
「こちらを……」
ハメルがユーリエに手渡したのは、重たそうな袋だった。
少し動くたびにじゃらじゃらと音が鳴る。
明らかにお金だった。
…………明らかに大金である。
俺もユーリエもお金は大好きだ。愛しているといっても過言ではない。
だが、これだけの大金をいきなり手渡しされて喜べるほど、間抜けな性格ではなかった。
こんなにはいらない。毎日ちょっと贅沢できるくらいのお金がいいのだ。
……と思っていたが、そもそもこれはユーリエがもらったものだから、俺関係ないじゃん。よかった。
そう思っていたら、ぎろりと俺をにらみつけてくるユーリエ。
人の思考を勝手に読み取らないでくれます?
「えーと……この大金は? まさか、寄付ですか? これだけのことをすれば、ハメルさんの生活がとても心配です」
「大丈夫です。自分の罪を認めた者が、それを悔い改めて、自分から差し出したものですから」
にっこりとイケメンスマイルを見せるハメル。
……ほんとぉ? 言っていること不穏なんですけどぉ?
別にお前が恨みを買って復讐されるのは全然かまわないんだけど、まさかこっちに恨みが向けられるのは困るのだ。
……まあ、受け取ったのはユーリエだし、俺は関係ないか!
復讐に来た時、『俺は止めようとしたんだけどユーリエが……』的なことを迫真の演技ですれば、俺にヘイトが向けられることはなくなるだろう。
やはり天才か……。
「そうですか……。それでも、これだけの大金です。その方の生活が心配ですね……」
「そちらも大丈夫です、聖女様。もう彼らはお金を必要としていませんから」
「……? よくわかりませんが、ではこちらの寄付金は大切に使わせていただきましょう」
「はい!」
元気な返事をするハメル。
……これ、ユーリエやばいな。
…………ま、いっか!
『ダメじゃないかな!?』
俺とユーリエの前以外では決して姿を見せないヒキニート女神さまが、何か仰っているが無視した。
◆
ライアーがユーリエのことを見捨てるという日常茶飯事を繰り広げているころ。
彼らマガツヒ教がいる場所よりも、さらにスラムの深淵に近い中心部で、その女はうなるような声を上げた。
「ゴールの奴が死んだ? なんだ、それ」