作品タイトル不明
438.和やかなお食事会
ヴァージルとクランハウスでローストビーフ丼を食べたときに、案山子が貴族の食事が気になるという話をした。
シャトーブリアン(部位)を差し入れしたが、どんな風に調理をしたのか知りたいという。
すると、ヴァージルがそれならば招待しようということで、アスター家のお食事会に呼んでくれたのだ。初めは貴族の食事会とか、マナーが怖いという話になったが、ヴァージルのお兄さんであるジェロームもぜひおいでと言ってくれて、みんなで向かうことにしました。
七人で揃ってイェーメールに到着すると、ヴァージルがポータルの出口、酒屋の近くで待っていてくれた。服装もいつも通りで構わないとのことだったが、さすがにねってことでみんなおめかししました。
以前みんなで作った黒服を!!
「おそろいだね」
どう考えても浮いている俺たちを、羨ましそうに見ている。
ピロリ:
これ、欲しがってる!?
セツナ:
やだよ!! お揃いで隣歩く俺の身にもなって!
半蔵門線:
引き立て役極まれりでござる。
ピロリ:
でもー、いっつも白メイン、街歩きはフード被った冒険者衣装とかが多いじゃない。真っ黒見てみたいわっ!
八海山:
まあ、本人が望むならいいんじゃないか?
無理強いをしないならという話になったが、すでに本人が羨ましがっているのだから結論はわかっている。ピロリが手配するということになった。
「案山子にこの間もらったローストビーフ、うちのシェフがとても気に入って、自分でもかなり試行錯誤していたよ」
「あれはねッ! 肉はほとんど焼かないッ! それがポイントッ!」
そんなことを話しながら屋敷へ向かう。
屋敷の門番さんは俺たちに礼をする。
出迎えてくれたのはジェロームとトラヴィス。三兄弟が揃った。
「お招きありがとうございます。こちら、ミラエノラン近くで採れる氷ブドウです」
ブドウの房を採ると凍って、口に放り込むとじんわりと溶ける。最近お気に入りの果実だ。皮ごと食べられる冷凍ブドウがコンビニに売っているが、あんな感じ。
「それは味わったことのないものですね」
「美味しそうだね。デザートに出してもらおう」
二人とも嬉しそうでよかった。貴族なので珍しいものにしたのは正解だったようだ。
アスター家の食堂には初めて踏み入れる。いつも応接室に通されていた。
これぞ貴族の食事といった長い机にシミ一つない白いテーブルクロスがかけられ、花などの装飾もだが、すでに席が用意されていた。
柚子の席だけクッションで嵩ましされている。
そうしてコース料理が始まった。
自慢じゃないが、こういった前菜がある洋食は親戚の結婚式に出て以来だ。テーブルマナーがわからないと言っていたら、ヴァージルがお手本を見せながら色々と説明してくれた。
大きな音を立てないようにすれば、概ね問題ないといいながらもやはり手順は色々あるようだ。
勉強になりました。
「シャトーブリアンのステーキ、焼き加減が最高だねッ」
普段より心なし小さな声で、それでも楽しそうに弾んで案山子が褒めると、ジェロームもにっこりと笑う。
「素材がいいから余計にだな」
「セツナ、また時間が合ったら狩りに行こう」
「いいよー」
トラヴィスはちょっとよれよれ残念貴族だが、テーブルマナーは完璧だったし、所作も優雅だ。ギャンブル狂という設定が残念だな。
「お肉に合わせたワインが、最高なのじゃ……」
料理に合わせてシャンパンだったり白ワインだったり、柚子は食事の初めからずっと幸せそうだった。そしてとうとう赤ワインとシャトーブリアンで昇天する勢いだった。
「私はもうここのおうちの子になりたいのじゃ」
「ゆずっち飼ったら酒代がうなぎ登りだねッ!」
「酒に合わせてよく食べるでござるしね」
クランメンバーの軽口にもアスター家三兄弟は笑っていた。
メインが終わり、用意してくれていたデザートと、俺たちが持ってきた氷ブドウが並ぶ。 美味しいと言い合っていたとき、セバスチャンが食堂から出ていき、戻ってきた。
そっとジェロームに耳打ちをすると、それまでの笑顔がなりを潜める。その空気の変わりように俺たちもおしゃべりを止める。
「申し訳ない、少々領地内で問題が起きたようだ。みなさんはこのまま食事を続けてくれ」
しかし、はいそうですかというにはジェロームの周りの空気が厳しい。
「何か困り事ならお手伝いしますよ?」
ソーダが代表して言う。
俺はヴァージルを見ながら、ジェロームに頷いた。
すると、待望のクエストお知らせだ!
《クエスト:領主の矜持 を受領しますか?》
八海山:
イェーメールのアスター家のクエストだな。
柚子:
親衛隊スレにあったのじゃ!
俺はもちろんYESだ。
《同時受領者に『バスタビア子爵の商品横流し』クエストクリア者がいるため、クエストが改変されます》
なーにー!?
《クエスト『領主の矜持』はクエスト『バスタビア子爵家の反乱』へ変更されました》
これは完全に戦だ。
ソーダから素早くパーティーが配られた。ここまでは特に必要なく、クランチャットで十分だったのだ。
『みんな受領からの改変になったか?』
『なったでござる。前にセツナ殿が言っていたやつでござるね』
『確かお嬢様の揉め事の合間にやっていたやつよねー』
『イケイケドンドンで巻き込まれるッ!』
「冒険者としての力が必要なら協力させてくださいよ。アスター家もですが、イェーメールには知り合いも多いんです」
「兄上。さすがに俺も気になります」
一人トラヴィスは目の前のデザートを満喫していた。
この状況で食事を続けられるのは、反対に大物なのかもしれない。
立ち上がろうとしていたジェロームだが、俺たちの言葉にため息をついて座り直した。
「実は、イェーメールの南の方に、バスタビア子爵領があってね……アスター家の領地の一部を任せていた。そこには領地から見て高価なものがあって……セツナ君の助けで横領されていたのを捕まえたところなのだ。首謀者である子爵が引退し、息子に代替えすることによって領民の暮らしに影響がないよう配慮したつもりだったのだが……息子が挙兵したという一報が入ったのだ」
『戦よぉ~! いぇーい!!』
戦闘狂いが盛り上がっている。
「イェーメールへ迫る前に進行を抑えるべきですね」
「すぐ準備しましょう! 敵の戦力とこちらの戦力どの程度か教えていただけますか? 場合によっては友人に声を掛けます」
「いや、領地の問題に来訪者の方々を巻き込むわけには……」
「イェーメールを拠点としている奴らも多いですし、このあたりを気に入っている来訪者が多数います。使えるヤツは使えるだけ使えばいいんですよ! 何よりまず数! 圧倒的に有利というわけでないなら、とりあえず知り合いは呼びましょう」
ソーダの勢いに、ジェロームは気圧され、トラヴィスは驚いて食事の手を止め、ヴァージルは笑っていた。