作品タイトル不明
437.お礼のローストビーフ丼
ヴァージルにお礼をしたあと、俺は午前九時頃にアランブレへ移動した。ヴァージルを夜遅くにイェーメールに送って行ったら女子たちがうろついていた。夜中だから騒がしくしないようにひたすら熱い視線をヴァージルへ向けている。
執念がすごい!
俺はそのままミュス狩りをして、朝まで待機。午前九時なら開店といえるだろうと貸本屋に突撃した。
「おはようございます!」
そこには普段通りのアンジェリーナさんがいた。
ほっと胸をなで下ろす。
「セツナくん!! ごめんなさい、かなり迷惑をかけてしまったわ。留置所に入れられたとか」
相変わらずアンジェリーナさんの情報は早い。オルロさんから聞いたのかな?
「いえ、俺が留置所に入ったのは街中で 細剣(レイピア) 抜いてミュスを始末したからなので、アンジェリーナさんには関係ないですよ。それより体調は大丈夫ですか? 無理していませんか?」
「私の方は何も問題ないわ。巻き込んでしまったみたいで申し訳ないわ」
何をおっしゃる! アンジェリーナさんの困り事になら自分から巻き込まれに行きますからっっっ!!
そしてなんと奥の部屋へ招かれた。
おおお……鎮まれ俺の鼓動!!
以前案山子のお菓子を食べたキッチンへ通され、紅茶を淹れてくれたので向かい合って座る。
何かいい茶菓子はないかと【持ち物】を漁るが、袖の下用の丼か、袖の下用の蜂蜜クッキーしかなかった。ジンジャークッキーを常備しておくべきだった。
「第六都市はだいぶ不穏ね。今回行ってみて思い知ったわ。第六都市の貸本屋は男性なんだけど、一時撤退することを決めたそうよ。今回の騒ぎでいよいよまずいということでね。セツナくんは第六都市には行かないと思うけど、貸本屋は閉店中だから頼ることはできないわ」
「まあ、行かないですけどね。それにしても閉店までしなければならないなんて、かなり酷い有様になっていそうですね」
俺の言葉にアンジェリーナさんはクッキーを食べながらため息をつく。
「本当に。国はあれをどう扱うつもりなのかしら。ミュスは病を媒介するからね。神殿も大変そうだったわ」
「そんなところまで見て来たんですね」
「ふふ、気になってしまってね。ついでだからと思ったんだけどそのせいで余計な事態になって、みなさんに迷惑をかけてしまったわ」
「俺はまったく問題なしですけどね!」
「ありがとう。しばらくウロブルやミラエノランには近づかないようにするわ。セツナくんも気をつけて。第七都市にクランハウスがあるんでしょう?」
「そうですね。幸い第七都市にはかなり感謝してもらっているようですから、いきなり引き渡されるようなことはないでしょうし、第五都市も多少の目こぼしがありそうですから……どうしても用事があるときは俺が行きますから声をかけてください」
「もう、行っちゃダメよって言っているのに」
頬を膨らませるアンジェリーナさんがとてもとても可愛いです。
我ながらニヤニヤして気持ち悪いことになりそうで、にっこりに留めるよう全力を出す。
俺はポチッとボタンを押すだけでクランハウスに帰還できるから、緊急回避はできる。それができないときはすでにイベントなので諦めるときだ。イベント、クエストには巻き込まれるしかない。
「お昼ご飯にはまだ早いかもしれませんが、友人が作った美味しいローストビーフ丼があるんで、後で食べてください」
アンジェリーナさんと丼は解釈不一致? いやいや、美味しい物は食べてもらいたい! 前に丼系いけてたし。絶対気に入ってくれるはずってことでテーブルに出して俺は退散した。イェーメールの聖騎士団にもご心配おかけしてのご挨拶に行かねばならん。その後、ヴァージルと待ち合わせて牛狩りである。
シャトーブリアンのシャトーブリアンがかなり好評だったそうなので、お礼にとりにいかねば。そして、お礼と言えどもヴァージルと二人パーティーの方がとれる量が段違いなのだ。レアならば余計に。
ということで。
「ご心配おかけしました。お詫びと言ってはなんですけど、美味しいお肉の丼、新作です!」
案山子シェフの威光をお借りする。
騎士団メンバー大喜びだ。
肉&新作ということで歓喜の声が溢れている。
もちろん昨晩たらふく食べたはずのヴァージルも食べていた。
「セツナ君、これ、本当に美味い。かなりいい肉を使ってるんじゃないか?」
アランが潤んだ目をして見てくる。ホントお前ら肉好きだな。
「このあとヴァージルとまた狩りに行ってくるんだけど、とってもいいお肉みたいですねー」
「後はよろしく」
「はっ!? お前、昨日業務放り出して行ったから……って、セツナ君の一大事だからそれは問題ないけど! 今日は後始末を――」
「その肉をとりに行くんだよ。残りはお前で片付けられるだろう? 俺の認証が必要なところは済ませておいたぞ」
「行ってらっしゃいませ騎士団長。あとは俺にお任せを。そして肉を持ち帰ってくれ」
調子がいいアランと、全力で頷く周囲の騎士団メンバー。まあ、また案山子に頼もう。
ヴァージルが突然抜けて迷惑をかけたのは事実だろうし?
第六都市が不穏なだけにイェーメールでの俺の好感度は万全たるものにしておきたい。
パーティーを作り狩り場へ。ヴァージルと二人だと貸し切りになるのが助かる。
そして双子座の加護が今日もいい仕事をしてくれていた。
『そういえば、彼女は第六都市に何をしに行っていたんだ?』
『第六都市に届け物だったんだって。ついでに最近噂の第六都市を……』
はっ!?
もしや……アンジェリーナさん……。
『セツナ?』
『……たぶん、アンジェリーナさんは俺が第六都市で指名手配になっていたから、どんな様子なのか、色々街を見て回ってて親衛隊に目をつけられたんだ。くそっ……俺のために危ない目にあってまで!!』
『彼女は貸本屋だろう?』
『そうだよ!! 本が好きな修復師の女性でしかないのに! あんな危ないことをして。ウロブルにもなかなか遠いから行けないって言ってたアンジェリーナさんが、第六都市に本を届けにだけ行くなんてありえないんだよ』
『だが貸本屋だから――』
『弟子の俺のために……』
『だが貸本屋は……そうか、セツナはまだ……』
『俺が軽率にも第六都市でミュスを始末したせいで。すみませんアンジェリーナさんっっ!』
やっぱりアンジェリーナさんに心配かけるようなことをしたらダメだな。
清く正しく生きなければ!