作品タイトル不明
436.初めての留置所
目の前にある鉄の柵を掴む。
「出して~!!」
ぴくりともしない鉄の柵をガンガン揺らす。いや、揺れないんだけどね。ぴくりともしないから。
「もうちょっと待っててね~」
柵の向こうにいる兵士さんは苦笑している。
第六都市親衛隊の前で反射的にミュスを始末したら、あちらさんが激高して喧嘩になった。
門兵さんの目の前で。
もちろん止めようとしてくるが、親衛隊がその門兵さんを振り払ってあやまって殴ってしまい、その後はもう大混乱の大混戦。
俺と親衛隊は仲良く牢屋にぶち込まれましたとさ。
めでたしめでた……くないっ!
「俺はやられたからやり返しただけなのに」
「うんうん。わかってるよ」
門兵さんの頬が赤く腫れているのは、誰かしらの拳が当たったせい。
完全に話し聞こかモードになっていて、俺の檻の前に椅子を持ってきて座ってるんだよこの人。
「問題なのはあちらさんの地位がちょっと高かったことかな。向こうから飛びかかったのはたくさんの証言が来ているから大丈夫だけど、相手の地位に配慮して喧嘩両成敗ってことにするための拘留措置だから。もう少し大人しくしていてくれ」
親衛隊ってやっぱり貴族が多いのか。
「嘆願がたくさんきているね。セツナ君は人気者なんだね」
「嘆願?」
「現場で見ていた来訪者がこぞって君は悪くないと言ってくるんだよね。詰め所が大賑わいさ」
やめて、恥ずかしい。
しばらくグチグチしていたら、門番さんは上から呼ばれて行ってしまった。
ちぇーっ!!
留置所なにもすることないんだけど。
ソーダ:
プレイヤーで初めてクエストになった男!! いよっ!!
セツナ:
はっ!?
ピロリ:
嘆願書クエストがウロブルで発生しているのよ。セツナくん……運営に遊ばれてるの。ふふふ。
柚子:
その場にいた人限定じゃがな。
八海山:
一応クランメンバーとして日頃の行いを報告しておいたよ。
案山子:
俺たちにはクエスト来てないけどねッ!!
半蔵門線:
大立ち回りを視認できた範囲のプレイヤー限定クエストでござるね。
スレが立ってるでござる。
なにそれええ。
留置所の石畳の上をもだえて転がりまくって、服の汚れが気になって生活魔法を使うまでがお約束だ。
ソーダ:
クランリーダーとして引き取ると言ったんだけどお断りされた。
身元引受人としては俺らの身元が不十分だそうだ。来訪者だしなあ。
セツナ:
えーっ、リーダーよわっ!!
ソーダ:
うるせえ! 反省してろ!
反省?
何を??
俺悪くない!!
最終的にやんややんやと盛り上がるクランチャットを眺めつつ、留置所の隅で体育座りをしていたら、なんか光が上からやってきたんだ。
「セツナ……君はこんなところで何をしているんだ」
身元引受人ヴァージルの少々呆れた顔にいやぁと叫びそうになった。
「俺悪くないしっ!」
無言で少しだけ首を傾げてこちらを見てくるヴァージル。俺はすみっこで体育座り続行。
「俺、悪くないもん」
「だいたいの流れは聞いたが、君は第六都市の親衛隊とは会ってはいけないだろう? 幸い向こうはまだ気づいていないようだが、姿を見かけたら即その場を離れてもいいはずだ」
ぐぬぬぬぬ……。
「とはいえ、賢い君がそれに気づかないはずがない。意図して近づいたのは……聖騎士たちに言っていた女性のせいか?」
情報集めてからここに来てる!!
「アンジェリーナさんは無事だったのかな?」
「なんなんだよもーっ!!」
「君がこだわる女性なんて一人だろう?」
「そうですよおお!! まあ、無事だよ。メールで確認したし」
留置所、【持ち物】やアイテムポーチの使用は禁止されているが、メールやチャットは問題なく動いたんだよね。弁護士に連絡できるやつ。
「それはよかった。さ、それじゃあ帰ろうか」
「え、もう出ていいの?」
「アスター家が保証したからね」
「えっ!?」
迷惑かけた!?
だがそんな俺を見てヴァージルが笑う。
「まあ、ウロブルのヴィランウェバ家も動き始めていたみたいだが、領地で起こったことだから一方に荷担するのはあまりよくないだろう? こちらが話をしたら逆に感謝されたよ」
イェーメールの方向に足向けて寝れないじゃん!!
「申し訳ない」
でも、聖騎士にヴァージルとマブダチって言ったの俺だった。もうちょっと考えて口にしないと領地戦とか引き起こされそうで怖いな。
菓子折持ってアスター家訪問しないとだ。
「兄が、シャトーブリアンがいいって言ってた」
「全力で狩らせていただきます」
俺の表情を読み取ってか、牢屋の扉を開きながらヴァージルがウインクする。
おい、イケメン自重しろ。
牢屋はウロブルの街の端の方にあったらしく、兵士たちがヴァージルに敬礼しているわ、遠い昔俺を連行した兵士さんがチラ見してるわ、ウロブルの聖騎士がにこやかに笑っているわ、……大量のプレイヤーがひしめいているわ。
「セツナくーん、お疲れ!」
「せっちゃあああん! 無事で何よりなのじゃ」
女性陣(ガワ) に飛びつかれた。柚子がコアラ状態です。
「ヴァージルありがとう」
「お手数をおかけしました」
ソーダと八海山はヴァージルに挨拶をしている。
「これにて一件落着でござる」
「だねッ!」
ちょっと遠巻きに半蔵門線と案山子がこちらを見ていた。
ってかプレイヤー多過ぎじゃね? 一部完全に黄色い悲鳴しか出していない団体様がいらっしゃる。
「それじゃあ帰ろう」
八海山がポータルを出すとクランメンバーがぴょいっと飛び乗る。ヴァージルもポータルにはもう慣れたようだ。自然な流れで移動する。
後ろの方の女性たちが、「イェーメールに行くわよ」と言っているのが聞こえた。
残念。第七都市でした。
「すごい別荘だな」
「帰りもきちんと送るんで安心してください」
テラスでみんなで食事会だ。案山子の新作が並べられていく。注目すべきは、シャトーブリアンのランプ肉を使ったローストビーフ、さらに、ローストビーフ丼だ。
「うまっ!!」
「これヤバいでござる。お代わり必至!!」
EP減ってたから俺もお代わりしたい~!!
「つまみぃー!! つまみに最高!! ちょっとお酒の追加を所望するのじゃー!」
「わさびがいい仕事をするな……」
「私はローストビーフにはホースラディッシュの方が好きだわ~」
「そっちもあるよッ!」
騒がしいクランメンバーと違って、ヴァージルは……幸せを噛みしめていた。
「美味い……」
「この間のシャトーブリアンが化けただろ」
「この、ローストビーフ丼、少し家にわけてもらえないだろうか」
「たくさん作ったから持って行ってッ!」
「ヴァージルが知ってるってことはさ、騎士団の人たちも知ってるんだろ? お詫びに持って行くよ」
また今度ヴァージルと牛狩りをしなければならない。