軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

407.海人と地上人

謁見はそれで終わり。ポセイドン王はまぶたを閉じて、黙り込んでしまった。

「さあ、速やかに退出を」

ラーレが俺たちを促す。屋根付きの廊下を渡り、たくさんぶら下がるネットに揺られる海人の間を通り抜け、やってきた方向とはまた違う場所へ促された。

「海底都市は静かな場所です。海上が嵐でも、深海には関係がありません。海の中を行き、狩りをし、休息を得るために帰ってくる場所です」

「お店とかはない?」

「そうですね、我々は海のものをそのまま食べるので。地上人のように火を通さなければならないということはありませんから」

代わりにゆったり過ごせる施設が色々とあるらしい。

「若いヤツはあんまりここには寄りつかないよ。争い事が御法度だからな。海で好きにやってるさ。老い先短い年寄りが集まる場所だよ」

キーレは肩をすくめて言った。

つまり、血の気が多い奴らは表に出てるってことか。血の気……。

「乙姫様とか?」

ふと思ったら口から飛び出てしまった。

「ッ! お前……末姫様を知っているのか」

「先日生誕祭に参加させていただきました」

乙姫様、末の姫様なのか。

「末姫様の生誕祭というと……ステゴロ海底統一大会でしょうか?」

ラーレが小首を傾げながら問う。恐ろしい大会だな……。そんな名前じゃなかったぞ。

「一応武器は可でしたね。トライデント持った半魚人さんと戦ったけど、あれも海人さんだったのかな」

「でしょうね。我々海人には変身能力があります。海の中を行くための姿と、こうやって地に足をつけて歩くための姿です。そのほとんどは親から受け継ぐものです。親の影響を色濃く受けるものです。半魚人はそれが混じったもので、わりあい頻繁に現れる姿でもあります」

「この便利な姿を捨てて地上に行ったんだから、お前らの先祖も物好きだよな……いや、お前たちは違うのか。ややこしいな」

来訪者の地上人と、本来の地上人は別物扱いらしいからね。そう、俺らは幻影族。

「魔女もほくほくの取引だったでしょうよ。本当に、愚かとしか言いようがありません」

これまで、キーレのちょっと尖った言動を諫めていたラーレも乗ってくる。それ以上に気になる単語が飛び出した。

「魔女との取引って何なの?」

ピロリが食いつくと、二人はきょとんとして顔を見合わせた。

「なんだ、そんなことも知らないのか」

「彼らは来訪者、知らなくとも間違いはありません。それ以前に、寿命と変身能力を差し出して肺を得た彼らは短いサイクルで世代交代をしますから、過去あったことを忘れていても仕方ありませんね」

「何それーっ! 知りたい。教えてちょうだいよ~」

たぶんここがクエストのポイントだろう!!

「海の魔女はあまり関わることをオススメしませんよ? あれは与えた以上のものを奪っていく簒奪者です」

「海の魔女の住処だけは行きたくないね。一応海底都市の隅っこの方にいるけどさ。だいたい、個々の屋敷はないはずの海底都市に、我が物顔でその一角を自分のものだと主張しているのが異常だよ」

でもそういったものを望んでいるのが我々プレイヤーなのだ。

他の海人たちも座っておしゃべりしているような一角に案内され、俺たちも座って海の魔女と地上人について教えてもらった。

人はもともと海に住んでいた。現在海人と呼ばれる者たちだ。深い海の中を一つ目の姿で泳いで暮らしていたという。

ポセイドンは海の王で荒々しい一面もあれど、概ね公平な海を統べる王だった。

しかしある日、海から見える陸地に恋い焦がれた海人が、王にお願いをした。地上で暮らしてみたいと。

海の底、さらに底は静かで、あまりに静かで。

特に若者は地上に興味を持ち、ぜひ陸に上がってみたいと思うようになってしまった。

確かに海の底で暮らすには海人は多すぎて、いくつも建てた海底都市でも収容できないほどだった。また、どうも争い事が頻発する。海で争えば荒れる。海上で竜巻が起き、嵐が起きる。

どうしようかと悩んでいたところに、海の魔女は行きたい者は行かせてやればいいと言い放った。そして、その手助けをすることは吝かではないと。

海の魔女はいつからかポセイドンの周辺をうろつくようになっていた。不思議な魔法を使う、怪しげな魔女。それでも、ちょっとした海人の悩みや、それこそ海に住むものすべての悩み事を、魔法で解決する。

ただし、対価が必要だった。

「ほら、これです」

ラーレが髪の毛をすくって耳裏を見せる。

「私たちは特別な肺を持っています。海に浸かればこちらで呼吸をしますが、今こうやって海から出ると疑似肺で呼吸するのです」

「魔女が海人が地上で暮らせるよう身体を作り替える条件は、変身能力と、このえら呼吸だったんだ」

地上に行けば海で泳ぐ必要はないと、皆変身能力とえら呼吸を差し出した。

「優しき王は、彼らが帰ってきたくなったときのために、彼らが地上へ向かった近くの海に通り道を作りました。あなた方が通ってきた通路です。事実、地上人たちが帰ってきたという話も聞きました。そして、海の魔女の元へまた向かっていった話も」

「海の魔女というのは、とても強い力を持った者でござるね」

半蔵門線の言葉に、ラーレとキーレはまたお互い目を合わせて、首を傾げる。

「どちらかというと対価が大きいのだと思います。変身能力、えら呼吸、そして寿命も差し出したという話ですから」

海人は百五十年くらいは生きるそうだ。

『あれ、でも空人はもっと生きるよな?』

『そういえばそうね。どういうことかしら』

この話を聞くに、対価を払えば願い事は叶えてくれるが、それこそ損をしているような対価を支払わねば叶えてくれなさそうだ。

「歴史の話は興味深いわね~」

「その魔女さんにも話を聞きたいんだけどダメ?」

ソーダが二人に手を合わせると、うーんと唸る。

「話を聞きたいって行くと、話を聞く時間に対価を払えって言われるな、間違いなく」

「ごうつくばりなのです」

それでも話を聞いてみたいというと、二人は案内してくれるという。

「でも私たちは近づきませんよ」

「近づいただけで、そばの空気を吸ったからと何かを要求されるレベルだ」

そいつはヤベー!!!

「おうちまでの橋に、『このはしを渡るべからず。守らぬ者は罰金を課す』とか書いているタイプね!」

「よくわかったな」

やってるんかい……。