軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

408.海の魔女

魔女の家は本当に都市の外れだった。同じく白い石でできているのだが、その手前にかかった橋に立て看板。橋も石でできている。ちょっとアーチ状になっている短い橋だ。

「中央歩いて行くか」

「基本ね」

橋の手前でラーレとキーレとはわかれた。二人とも近づきたくないからって話だ。

帰るときはキーレを呼べばいいとラーレが言い、キーレはもと来た道を行けと言った。ぽちっとなで帰るからいいよ。ありがとう。

話の流れ的にキーレは何か大きな海の生物なのだろう。背中に乗せるお約束なら亀である。全然亀っぽくないけどね。

海底都市の建物に扉はない。あって薄い布で仕切っているだけだ。

「おじゃましまーす」

中は薄暗い。色々なものが雑多においてあった。ヘドロみたいなのが瓶にたくさん詰まっていてちょっと嫌だ。カクさんの錬金術のお店の方がもっと清潔感があった。

薄暗い家の中で奥の方に動く姿が見えた。

「誰だ、勝手に入ったヤツは」

「あ、すみません。聞きたいことがあって来ました」

動く小山は一人掛けのソファに座った、フードを目深く被った老婆だった。手のしわがしわしわしてるから多分老婆! ほら、魔女は老婆か美女だろう。

「土のにおいがするね。地上人か?」

「そう、かな?」

「……違うと?」

「俺たち来訪者なので」

ソーダが言うと、老婆は少し顔を上げる。フードの隙間から鋭い眼光でこちらを値踏みしていた。

「私は魔女だ。何か聞きたいことがあるならお前たちは対価を払わねばならぬ」

「聞きたいことがまとまってないのでちょっと待っていただけますか?」

法外なものを言われはしないだろうと踏んでいたが、何かしら要求されそうだということでさぐりさぐりやることにしたのだ。

「つまりー、最初海人だった一部の人が、寿命と、えら呼吸と変身能力を対価に、地上で暮らせる身体、つまり肺呼吸一辺倒になったってことだよな」

「水の中を自由に行き来できる姿を失うのはマイナスよね~ただ、肌が乾いたらダメとかありそうだから、対価と言えば対価? 寿命はその足りなかった分かしら」

「150年から50年から100年分もらうって感じでござるね。身体作り替えるから余計に、いや……えら呼吸は対価じゃないということでござる?」

メタにならない会話を心がけて魔女の反応を見るが、何も始まらない。

クエストだから何かしらトリガーがあるという話だったのだ。普通に対価を払えば教えてくれそうではあるが、それじゃあ面白くないとこんなことをしてみている。

「地上人を空人にしたのも魔女さんなのよね?」

ピロリが尋ねると、魔女は身じろぎをする。

「そりゃ聞くまでもなくそうだろうさ。海人を地上人にできたんだ、地上人を空人にするなんて朝飯前だろ~」

「その場合の対価はなんだったんでござろう」

実はここで俺たちも思考停止中。

対価を払えという魔女。まるで第七都市の申し子だ。

多少魔女の手間賃があって、対価というか代償を支払っているとは思うのだ。ようは対価がちょっと重い。

なら地上人から空人になるにはさらなる重い対価が必要なのだ。

「ちょっとわからないよね。海人マイナス寿命、えら呼吸、変身能力だったけど、空人は反対に寿命が延びてるし、翼までもらってる。 無翼(ムルス) になったとしてもさ、翼がないだけで寿命はもらえて地上人と変わりないんだよ?」

「実際地上で生活していたって聞くものね」

またもやびくりと魔女が反応した。

「空人ってどんな対価を払ったのかしら」

「別に地上に来られないってわけじゃないよなー」

「あ、けどタパパ君、海には入れないって言ってた」

「それは翼が濡れてしまうからではござらぬか? 海に入れない呪いがかかっているとかではない気がするでござる」

つまり?

「地上人から空人になるとき、どんな対価を払ったんですか?」

ソーダが魔女に尋ねると、魔女は身体を震わせる。そして、笑い出した。

「ヒヒヒ、等価交換をよくわかってる来訪者だね。えらいこどもたちだ。面白いねえ。ひとつ昔話をしてやろう」

「タダで?」

タダより怖いものはないって言う。

「ババアの独り言だよ。それを耳にするだけさ」

魔女はババアの方でした。顔はまだ見えてないからさ。手年齢で判断しただけだし。ワンチャンと思ったがなかったようです。

「広い海から陸に上がりたがった海人たちには、対価を支払えばと言った。私の魔法は相手の差し出したものと同等の魔法を使うんだ。そこから一割魔力をいただくのさ。この魔力は私の美貌を保つことに使う。かなりたまってるね。貯金できるタイプなんだよ。ほら、今は愛しい人に会っているわけじゃないだろう? そこら辺の海人に会うのに美貌なんていらないからねえ」

ヒヒヒと笑った。

「美貌は羨ましいわ」

ピロリはどこに向かっているのだろうか。

「節約だね、愛しい人に会うときだけ使うのさ。地上に向かったのは百人ほど。それほど多かったわけじゃないが、長い年月を経てかなり数を増やした。そうしたら欲深い者が出てきてね、今度は空を制圧したいとほざく。欲は尽きないものだ。だからこそ私の仕事があるってものだ。けれど、対価を払うなら私はもちろん請け負うさ。結果空人が生まれた。最初の空人はまた百人ほどだ」

「大盤振る舞いでござる……」

「それが空人の種ってわけか」

「ほう……種がまだ残っていたのか? そりゃ貴重だね。それを飲み込めば翼が生える。正確には、私は種を百粒やったのだ。空人から空人の子が生まれる。だが、翼のない空人も生まれる。対価の軽減はそこでしているね」

つまり、完全に空人から空人が生まれるわけではないから、対価が軽くて済んだと? にしては寿命が二百年三百年はかなりプレゼントされていると思うのだが。

「納得いってない顔をしてるね。ヒヒヒ、これ以上話すならお前たちにも対価を求めるよ……支払えるとは到底思えぬがね。他人との契約に首を突っ込むということだからね」

突然の守秘義務を主張される。

「しかるべき準備をして、空人の種を飲めば空人になれる。そうさ、お前たちだってね」

《空人に進化できるようになりました。必要材料は空人の種を飲む前に確認ください》

アナウンスだ。が、クリアしていない。クエストクリアのアナウンスがありません!

「さあ、対価を払わぬ者は邪魔じゃ。出て行きなさい」

そこまでが魔女の出番だったのだろう。魔女は手を振って俺たちが出ていくまで何を話しかけても口を開かなかった。