軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

345.スマートなお誘いの仕方

と言ってはみたものの。

実際そんなスマートなお誘いの言葉が出てくるはずもなく、俺は今、貸本屋の前で固まっている。どう、しよう。どうしてくれよう。

脳内で練習しようとするが、はかどるどころか思考停止してしまってこのざまだ。

ヴァージルの顔が欲しい。

あれくらいの自信が欲しい。

「あれー、セツナ君じゃん」

扉の前でうだうだしていると後ろから声がかかった。

「……ウォルトさん」

「久しぶり。何、どうした? アンジェリーナと喧嘩でもしたのかい?」

「アンジェリーナさんと喧嘩なんてするわけないじゃないですか」

「だよね」

そういって横からすっと扉を開ける。開いたら入るしかなくなり、促されるがまま中へ移動した。

「いらっしゃい、ウォルトと一緒なんて珍しいわね」

「ちょうど店の前で会ったんだよ。俺はこれね、ケルムケルサの写本」

写本師としてのお仕事続行中のようだ。

「セツナくんは今日も本を読むの? ケルムケルサの、前に入ってきた本ならもう貸し出し可能になったわよ」

「あ、はい……」

俺は、意気地なしです。

一緒にお出かけしましょうって言い出せない。ヴァージルなら簡単なのにぃ!!

「セツナ君は何か用があるみたいだよ」

まさかのウォルトの言葉にそちらを見ると、綺麗なウインクを返された。

「それじゃ、また」

そういって颯爽と帰って行くイケメン。くっそ、なんだあの眼帯男はっ!!

「忙しい人ね。それで、セツナくん何かあったの?」

「いやあの……ええと」

頑張れ俺! たくさん揃えてくれた案山子の期待に応えるためにも!!

「ちょっと美味しいお菓子とサンドウィッチを友人が作ってくれたので、もしよかったら素材採取がてらお出かけしませんか!!」

た、魂抜けそう。

突然の申し出にきょとんとするアンジェリーナさん。

「いやあの、ここは飲食禁止だから……外ならいいかな、とか」

「確かにここは飲食禁止だけど、奥ならいいわよ」

そういって練習のたびにちょくちょく入る貸本屋の奥の部屋に通された。

えっ。

えええええ!!! しかも新部屋!! なんと、キッチンです!

なんて最高の日。ヤバイ。涙でそう。耐えろ、強制ログアウトだけは絶対だめだ。

シンプルな四角い木の机に白と緑のタータンチェックのクロス。全体的に緑色の小物が多い。

「それで、美味しいお菓子とサンドウィッチは?」

心が破裂しそうになりながら、俺はピクニックバックを取り出した。

「あら、可愛いわね。まあ、こんな可愛いものがあるなら確かに外に行くのもよかったかもしれない」

「いえ、お仕事もあるでしょうし」

蓋を開くとお皿とカップを取り出した。

うん、多分この部屋にもあるだろうけど、この可愛いバックは乙女心に刺さるとおもうんだよね。見せたかった。

次に【持ち物】からサンドウィッチとチャイとジンジャークッキーを取り出す。

ポットのチャイをカップに移し、アンジェリーナさんに勧めた。

「どうぞ」

「セツナ君も立ってないで一緒に食べましょう」

ああ、我が最良の日よ……。

アンジェリーナさんはとても喜んでくれたが、俺はなんだか心がふわふわしていて夢見心地でその日は退散した。とうてい本を読めるような状態じゃなかったのだ。ログアウトされても仕方ないような、現実じゃないVRゲームがさらに現実感を無くしていた。

クランハウスに帰り、誰もいない机に突っ伏す。

笑顔が、アンジェリーナさんの笑顔がヤバイ!!

セツナ:

案山子師匠!! 大成功ですっ!

案山子:

おめでとーッ!! 好感度アップッ!

セツナ:

今ならミュスにも優しくできそう……。

ソーダ:

何www 何したのwww

案山子:

セツナっち、アンジェリーナさんとデートッ!

ピロリ:

なんですって!? 前進したの!?

セツナ:

貸本屋奥のキッチンで一緒にお茶しただけですけど-、でも最高の笑顔ゲットしましたー!

半蔵門線:

爆発四散!!

柚子:

せっちゃんおめでとうなのじゃ~!

これは結婚実装来たらせっちゃんいっちゃうー?

セツナ:

それはヤバイ。

とうとう強制ログアウトする可能性が!!

そんな風に俺の周りは和やかに進んでいた。

『おめでとうセツナ。一歩前進だな』

『ありがとう、ヴァージル』

狩りに行かないかと誘われ今日はヴァージルと一緒に食材狩りに来た。

美味しい魚がいるのだそうだ。

イェーメールから結構移動した先なので、周囲の魔物もそれなりに強い。が、ヴァージルの前には敵無しだった。

『セツナが【気配察知】できちんと教えてくれるから対処がそれだけ早くできるんだよ』

そして男同士になったら恋バナでしょう!! アンジェリーナさんのことは言ってたからね。報告だよ。あれからもう数日経ってるのに俺のウキウキは抜けません。案山子には次のスパイシーアイテムをお願いしておいた。

悔しいが眼帯男ことウォルトの情報は的確でした。

とっても喜んでくれた。

食べきれない分を置いていくと言ったら本気で喜んでくれていたのだ。

これはもっともっと探さねば。

スパイシーなお菓子、待ってろよ!!

『セツナ、あそこだ。あの辺りに降りよう』

結構大きな川だった。

その横の少し開けた場所に降りて、ぎょろちゃんには戻ってもらう。赤水晶をあげて撫でたら石になった。

『今の時期に海からやってきて産卵するために川を上り故郷に帰ってくるんだ』

どこかで聞いた話だと思ったらやはり、鮭だ!!

『ビビッドサーモンと言うんだ。塩焼きでもムニエルでも美味しい。案山子に調理してもらいたいなと思ってさ』

ホイル焼きも大好きだぞー!

『鮭が跳ねたところをセツナの 細剣(レイピア) なら刺せると思う。問題は同じようにビビッドサーモンを狙いに来るアッシュグリズリーなんだが、そっちは俺に任せてもらえばいいよ』

任せろと言うだけあって、俺がグリズリーに襲われることはなかった。

『川に落ちないように気をつけて』

『う、うん。大丈夫だけど、俺は』

川の真ん中にある大岩に飛び移り、そこからサーモン串刺しをしている。

俺は大丈夫だけど、ドンドン積み上がっていくアッシュグリズリーが怖い。いや、モンスターだから普通に消えるんだけどさ。大きなクマと戦うヴァージルがクマより怖い。

なんで自分の二倍はある、重量級のモンスターが跳ね飛ばされんだよ……怖いって。

ヴァージルが頑張ってくれたおかげで俺はたくさんのサーモンを手に入れた。

『楽しみだな』

ニコニコのヴァージルに聞かずにはいられなかった。

『もしかして、サーモン好き?』

すると、ちょっと照れたようにヴァージルが頷く。

スクショいただきました。

そこまで期待されているなら、案山子に頑張ってもらわねば。