軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

273.司書の言い分

ケルムケルサの王宮の一室。

来訪者は俺のみ。円卓を用意してくれて、俺の右手側にテラエトゥーラの司書長とその補佐の司書、さらに王宮から騎士が1人。計3名が並んでいる。

左手側にはラシードさんともう1人、さらに厳つい騎士枠のケルムケルサの戦士が座っていた。

「今回は俺の思いつきで話が始まり、このような場を設けていただいて感謝しております」

頭を下げると皆が慌てた。

「こちらこそ、セツナさんのおかげでこのような機会が持てて、ありがたいばかりです」

「我々も、こうやって間に立ってくれることで話が円滑に進んで感謝しています」

ラシードさんと司書長がそれぞれ述べて、互いに頷きあっていた。

俺は事前にいただいていた手紙を広げる。

唸るしかない内容だった。

というのも、双方ほぼ同じなんだよ。

まず、目録が欲しい。そして、そこにあるもので重複していない本を写本したい。

「うーん」

問題は多々あると思う。

「目録、欲しいですよね……」

「そうですね、まずそこからです」

「目録を比べて、所蔵しているかの確認がしたいですね」

「まあ、お互い相手に見せてもよいとおもう物の目録を作りますよね、どうしたって。とはいえ、物量の差がですね」

テラエトゥーラはアランブレ、ウロブルに図書館があるのだ。館だよ。対してケルムケルサは図書室。蔵書の差が著しい。まあ、アランブレにあるものはウロブルにも同じようにあるのだろうが。

「こう、長い年月をかけて、蔵書を増やしていきますよね、お互いに1冊ずつとかでもいつか、ケルムケルサの目録は尽きる。本の量を見ても明らかだと思います」

ラシードさんは黙っている。アランブレの司書長は余裕の表情だ。

「そうなったとき、無償でアランブレの蔵書を写本する許可は与えられますか?」

「それは難しいですね」

即答です。

公平にと言うなら1冊に対して1冊だろう。

となると、いつかはアランブレはケルムケルサの外部持ち出し用書籍を全部手に入れ、ケルムケルサはそうはならない、ということだ。

俺は必死に、頭を回転させた。

ケルムケルサが損なんだよ、結局。でもそれ以上に俺は、アンジェリーナさんに利をもたらしたい!!

仕方ない。とてもとても不本意ですが、俺はフレ……フレェェフレエエンドチャットォォォォォ!!!

『入室していただけますか?』

『楽しいことになりそうだ』

俺が入室を促すと、ラフな黒シャツにパンツ、濃い茶色のウェーブの掛かった髪。青い瞳のイケメン。その左目は黒い眼帯で塞がれている。

「こちら、テラエトゥーラの写本師、ウォルトさんです」

「初めまして皆様。ご紹介にあずかりました、ウォルトと申します」

第7都市の貸本屋、眼帯イケメンことウォルトさんの登場です。彼、修復師じゃなかった。写本師でした。全員がそうというわけじゃないの言葉はココに繋がっていた!

彼の話はケルムケルサにはしてあった。ここまで来る許可はいるからね。

「俺の提案としては、写本は彼に一切を任せるというものです。さらに言えば、写本した本を複製する許可を出さないスキルを使っていただきます」

「私は優秀な写本師ですからもちろん持っています。【複写禁止】スキルを」

テラエトゥーラの司書長の表情が一瞬険しいものになった。

アンジェリーナさんと少し話をしたのだ。どちらの要望も見ていないが、きっとどちらも同じようなことを言ってくるだろうと。

「結局ね、みんな本好きなの」

素晴らしい笑顔を見せるアンジェリーナさん。

俺がやりたかったことは、アンジェリーナさんの利になることだっ!! ケルムケルサなんて関係ない!

「写本師の能力について聞いてもいいですか? 修復師と同じようにスキルを持っているんですよね?」

「そうだね。優秀な写本師は1日に5冊仕上げるという。例えばこの私のような」

「アランブレの図書館に写本した本を複製することは禁じられます。もしウロブルに必要というならば、もう1冊、ケルムケルサ側に写本分を渡してください」

「1冊に対して1冊。しかしそれはいささかこちらが損な取引なように思いますね」

「写本した物を複製しまくってテラエトゥーラじゅうに広げるのは、ケルムケルサにとって割に合わないですよね、なぜならケルムケルサの蔵書はこの宮殿だけですから。もちろん、ケルムケルサに写本する分も、複製禁止のスキルをかけますよ。当然」

それでも納得いかないようだ。まあ当然だろうなぁ。

「両者の歩み寄りが必要なんですよ」

と言ってみたものの、譲れない譲れない状態に陥る。

さっきの条件が一番いいと思うんだけどなぁ。

国同士の話なのだから、欲張っていたらいつまでも決まらない。

「テラエトゥーラに図書館っていくつあるんですか?」

アランブレの司書は少し黙る。すかさずウォルトが答えた。

「聖地の図書館を除けば全部で4つですね。実は規模が一番大きいのはウロブルです」

「なら、ウロブルの図書館の目録を提出いただいて、そちらの蔵書との取引でもいいかもしれないですね」

これはウォルトからもたらされた事前情報。実は、結構アランブレとウロブルの図書館は仲がよくない。

「アランブレが王都だ。国同士の取引なのだから、アランブレの図書館が対応する」

「ええと、国同士だったのですか? まあ、騎士様がついてらっしゃっておりますけれど」

「ケルムケルサ側は、王宮は何か問題があれば対応を手伝うが、知的財産を増やすための活動は我々司書に一任するとお返事いただいております。予算もありますし、その範囲内でやっていきたいと」

「まあ、国との取引となるなら、それこそ4カ所の司書様ともお話すべきですよね」

地域で違うのかと思いきや、結構同じような物が置いてあるのだ。

つまり、4カ所からの取引が始まれば、ケルムケルサは4倍の蔵書を得ることができる。

アランブレの司書長は、たぶん貴族の出なのだろう。顔色は涼しい。だがこめかみがひくひくしていた。

追い詰め過ぎたかな?

余所の図書館にこの権利をとられるくらいならと、最終的にはアランブレの司書長が折れた。

本は1冊につき1冊。お互いしばらく10冊ずつ欲しいものを提示する。目録は、写本許可の出たものだけを渡す。

写本はすべてウォルトが請け負う。

「しばらく忙しくなりそうだ」

窓口を多くしないことで不正をさせない。2冊目を写本する際も必ずアランブレの図書館からの依頼とする。つまり、ウロブルの図書館などと直接取引をしないようにという話だ。

まあ、もちろんそのつもりだ。

「図書館との契約はこれでよろしいですね」

双方作った契約書を読み、サインした。

図書館との契約は終了です。