軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0557 捕まる二人

翌日。

涼とアベルは、公船部のミュン船長に話を聞くと言って、『龍泉邸』を出た。

だが、門のすぐ外で捕まった。

一人の人物が、二人を出待ちしていたのだ。

「こんにちは。アベルさんとリョウさんですよね。私、吟遊詩人のワンア・シーと申します」

その瞬間、固まる二人。

だが、何も言わないわけにはいかない。

すでに、名前まで知られているのだ。

「お、おう、アベルだ」

「あ、はい、涼です」

言えたのは、本当に名前だけ。

しかも、見るからに二人とも 挙動不審(きょどうふしん) 。

視線も泳いでいる。

しかし、吟遊詩人ワンア・シーは、自分の『突撃』が相手を警戒させたと感じたらしい。

「突然申し訳ありませんでした。実は昨晩、演奏させていただいた際に、食堂でお二人をお見かけしまして」

「そ、そうか」

「アベルさんは見るからに異国の方ですし、リョウさんも髪の毛は東方諸国でよく見る黒ですが、お召し物がローブで……少なくとも、ダーウェイの方ではないなと。しかも、お二方とも冒険者だと聞きまして、これまでの経験から何か面白い話を聞かせていただけないかと思って、こうしてお待ちしていたのです」

ワンア・シーは丁寧に説明する。

どうも、どこかの国の国王と公爵だというのがばれているわけではないと分かり、ちょっとだけ安堵する二人。

そうなると、いろいろと言葉をこねくり回しはじめる。

「ぼ、僕ら、たいした冒険とかしてきていませんし……」

「そ、そうだな、ふつーの、ごくごくふつーの生活だからな」

「食っちゃ寝の繰り返しですよ。あははははは……」

アベルも涼も、アイコンタクトは完璧だ!

「失礼ですが、お二人はどちらの国から来られたのでしょうか?」

「え……」

たった一つの言葉の爆弾で、二人のこねくり回しは停止した。

さすが、言葉を 紡(つむ) ぐプロ、吟遊詩人である。

「く、国とか言っても、多分、分からない……」

「そ、そうそう、多分知らない国……」

「こう見えても、吟遊詩人ですからけっこう知っているんですよ。東方諸国だけではなく、中央諸国、西方諸国、あるいは暗黒大陸も」

アベルと涼の防衛線は、ワンア・シーの笑顔と共に語られた言葉によって簡単に 破綻(はたん) した……。

「中央諸国の……」

「ナイトレイ王国です……」

「え!」

諦めて、アベルと涼は答えた。

その答えは、ワンア・シーにとって、想像外の答えだったらしい。

大きく目を見開き、絶句する。

「ナイトレイ王国って……昨日歌った歌が、ナイトレイ王国の歌です!」

「そ、そうですか」

「故国が歌になっているなんて凄いな」

ワンア・シーの言葉に、涼もアベルもしどろもどろだ。

さらに……。

「そういえばアベルさんのお名前って、アベル王と同じですね。向こうでは、よくある名前なんですか?」

「そ、そうなんだ、よくある名前なんだ……」

「何て素晴らしい! これは、歌の神様のお導きに違いありません! ぜひ、お話を聞かせて……いえ、数日、密着取材をさせてほしいのですが……」

「それはちょっと……」

積極的なワンア・シーに、たじたじのアベル。

だが、竪琴一本、声一つで世界を渡る吟遊詩人、とてもタフな交渉相手だ。

「お二人は、拘束されたマタン伯のために動いているとお聞きしました。私、吟遊詩人ではありますが、実は、ダーウェイ皇宮に呼ばれることもあるんです。ダーウェイは芸に関して、とても理解のある国ですので。そういう面からも、お力になれるのではないかと思うのですが」

ワンア・シーのこの提案には、さすがに二人とも顔を見合わせる。

そして、ちょっと後ろの方で話し合う。

「どうしますか、アベル」

「本当なら、かなり強力な情報収集手段だよな?」

「ええ、ものすごく。いちおう今日の予定で決まっているのは、公船部でミュン船長からお話を聞いて、御史台のお話をリーチュウ隊長が持ってきてくれるからそれを聞いて……くらいですからね。それ以外の時間の情報収集で、役に立ってくれるかもしれません」

「確かにな」

こうして、吟遊詩人ワンア・シーは、涼とアベルの後ろからついていく許可を貰えたのだった。

港近くの公船部。

ワンア・シーはついてきてもいいとはなったが、話を聞くのはダメであった。

それは、当然、ミュン船長の許可を得ていないから。

ミュン船長も、法には触れないのだろうが、あまり外に出したくない情報を伝えてくれる予定なので、船長室に通されたのは涼とアベルだけ。

ワンア・シーは隣の待合室で待つことになった。

二人が戻ってきて、ワンア・シーに言っても大丈夫なことは伝えるという約束の下で。

「ああ、来たな。というか、お二人さん、珍しい客も連れてきたんだって?」

ミュン船長は開口一番そう言った。

「ああ、吟遊詩人だ」

「ワンア・シーさんという方です」

アベルと涼が答える。

「そうらしいな。このダーウェイで最も有名な吟遊詩人だな。彼が歌い始めた『ナイトレイ王国の歌』は、東方諸国中に広まっているとさえ言われているぞ。他の吟遊詩人たちも歌っているそうだが、やはり本人にはかなわんようだな」

「そんなに有名だったのか……」

「なんだ、知らんのに連れてきたのか?」

アベルが驚き、ミュン船長は呆れたように笑う。

「昨晩、『龍泉邸』の食堂で、それを歌ってな。今朝、冒険者の話を聞かせろと、宿の出口で捕まった」

「マタン伯の件で協力すると言われたので……」

「なるほど。そうそう、そのマタン伯の話だ。昨晩、皇帝陛下に報告した際に、どんなもんか聞いてみたんだが……陛下もおかしいと思っていらっしゃった」

「ほっほぉ」

ミュン船長の言葉に、少し驚くアベルと涼。

城内で剣を奪い、他の臣下に斬りつけたのだから、問答無用で死罪もあり得ると思っていたのだ。

ただ今は、第六皇子リュンの婚礼前だから猶予されているだけだと。

だが、皇帝もおかしいと思っているらしい。

「陛下も、マタン伯フォン・ドボー殿の武がからっきし……ああ、その方面に向いていないということはご存じで、それなのに禁軍兵士から剣を奪って斬りつけることができた点に、何度も首をひねっておられた。それに、マタン伯は融通の利かない部分は確かにあるが、真面目で、決して愚かではないという認識も持っておられて、そこからも今回の件は普通じゃないと認識しておられたぞ」

「なるほど」

「フォン・ドボーさん、死罪にはならないですかね?」

涼が希望を述べる。

だが、それに関してはミュン船長も分からないらしく、小さく首を振る。

「例えば何かで操られたとか、その辺の証拠が出ればいいが……分からんよな。どちらにしても、マタン伯を陥れるためであるなら、ちょっと 杜撰(ずさん) すぎる。もっと別の方法があったと思うんだが」

「ですよね。皇帝陛下に疑問を持たれたら、フォン・ドボーさんを追い落とすのは難しくなるでしょう?」

ミュン船長の感想に、涼も同意する。

「つまり今回の件、フォン・ドボー殿を 陥(おとしい) れるのが狙いではないと」

「う~ん、じゃあ、狙われたロシュ・テンさんが狙い? でも怪我もしてませんよ?」

アベルも涼も、そこまで言って、考え込む。

狙いが分からないのは気持ちが悪い。

いちおう、マタン伯フォン・ドボーが、そのまま死罪になる可能性は減りつつある……。

もちろん、操られた証拠が出ないといけないが、そこは御史台のシャウ司空もあり得ると言っていたので、なんとかなりそうな気がしている。

だからこそ、やはり首謀者の狙いが知りたい……。

ミュン船長が、何かを頭の中で確認しながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「今回の騒ぎで、一時的とはいえバシュー伯とマタン伯は、役目を外れる」

「バシュー伯ロシュ・テンは、第六皇子リュンの新居設営相談役。マタン伯フォン・ドボーは、シオ・フェン公主の饗応役……」

「そこに新しく入る人物が、妨害工作をするために……」

アベルが確認するように二人の役割をあげ、涼が閃きを述べる。

「あり得るな!」

ミュン船長はそう言うと、大きく頷いた。

そして、何かを思い出したようだ。

「バシュー伯の代わりは任命されていない。だがマタン伯の代わりが、昨日任命された。さすがにあれほどの事件、詳細な調査が必要になるだろうからということだ。確か後任は、メゾ伯。第四皇子の派閥だな」

「そいつが何かする可能性が?」

「分からん。だが、明日には婚礼の儀が執り行われる。だから、明日以降は、礼部が伝統儀礼にのっとって 粛々(しゅくしゅく) と進めていくから、外部からの介入の余地は極めて小さい。やるなら今日だが……」

「今日は何がある?」

「う~ん……」

アベルの問いに、ミュン船長も答えられない。

さすがに、それら全ての情報は持っていないのだ。

だが、そこに……。

「本日、公主様の予定が変更になったという話を聞きましたよ」

そう言いながら入ってきたのは、第十船のラー・ウー船長であった。

「予定が変更?」

「ええ。後任のメゾ伯が強引に決めたそうです。確か、梅林苑での花見になったとか」

「梅林苑は、あまりにも開放的すぎるだろう。民の立ち入りも簡単にできる。高貴な方の安全を確保するのが、極めて難しい場所だ」

「民へのお披露目を兼ねているだとかなんだとか言っていたそうです」

ミュン船長とラー・ウー船長の会話を、静かに聞く涼とアベル。

だが、二人とも表情は険しい。

シオ・フェン公主が、何度も襲撃されてきたことを知っているからだ。

二人は、同時に立ち上がった。

「とりあえず、その梅林苑とかいうところに行ってみる」

アベルが宣言し、涼も頷いて、二人は部屋を出た。

すぐに、隣の部屋にいた吟遊詩人ワンア・シーと合流する。

「ワンア・シー、梅林苑は知っているな?」

「ええ、もちろんです。何かあったんですか?」

「分かりません。でもとりあえず、一緒に冒険してみませんか?」

「それは、ぜひに!」

涼が誘い、ワンア・シーも乗った。

三人は、梅林苑に向かって走るのであった。