軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話「秘密基地へ初めてのお客さま」

僕の最高に平和だったお昼寝タイムに、新たな訪問者が訪れようとしていた。

好奇心と、少しの恐怖が入り混じった顔で、クラリスは僕が消えた岩壁へと、一歩、また一歩と近づいていく。

そして、その滑らかな岩の表面に、おそるおそる手を触れた。

「……ただの、岩ですわね」

ひんやりとして、硬い。どこからどう見ても、人が通り抜けられるような場所には見えない。

「でも、わたくし、確かにこの目で見ましたもの。あの方が、この中に……」

彼女は、もう一度、岩壁をぺたぺたと触ってみる。

もちろん、びくともしない。

「うーん……何か、秘密の言葉でもあるのかしら?『開けゴマ』ですとか?」

ぶつぶつと独り言を言いながら、彼女は岩壁をこんこん、とノックした。

その時、僕はちょうど、洞窟の中で気持ちよく寝息を立て始めたところだった。

《警告。外部から岩盤への物理的接触を多数検知。対象はクラリス・フォン・バルカスと断定》

『ん……ナビ、どうしたの……?』

僕は、眠たい目をこすりながら、ナビに尋ねた。

《現在、対象が扉の解錠を試みています。成功確率は0%ですが、物理的な打撃による騒音が発生する可能性があります》

『あー、もう、見つかったか……』

僕は、深いため息をついた。

まあ、大事なお客さんだし、仕方ないか。

僕の完璧なお昼寝計画は、どうやら今日も邪魔されてしまうらしい。

僕は、仕方なく、ふかふかの苔のベッドから体を起こした。

そして、洞窟の入り口に向かって、そっと魔力を流し込む。

僕の魔力に反応して、岩の扉が、音もなく、すっと横にスライドした。

「えっ」

ちょうど、諦めて帰ろうとしていたクラリスが、突然現れた入り口に驚いて、間の抜けた声を上げる。

そして、バランスを崩して、そのまま洞窟の中に、とてとて、と転がり込んできた。

「きゃっ!」

彼女は、尻餅をついたまま、目の前の光景に言葉を失った。

滑らかな曲線を描く、苔のベッド。

天井で、星のように瞬く、光る苔。

壁から、こんこんと湧き出る、綺麗な泉。

そして、そのベッドの上で、小さなキツネを膝に乗せて、少しだけ眠そうな顔で座っている、僕。

「な、なんですの、ここは……!?」

彼女のプライドの高いお嬢様然とした態度は、完全に消え去っていた。

ただ、目の前の信じられない光景に、子供のように目を丸くしている。

「やあ、クラリスさん。僕のお昼寝洞窟へようこそ」

僕は、あくびを一つしながら、彼女を迎えた。

「お、お昼寝……洞窟ですって……!?」

クラリスは、呆然としたまま、僕の言葉を繰り返す。

「うん。静かで、涼しくて、気持ちいいんだよ」

僕は、洞窟の中を、少しだけ面倒くさそうに説明し始めた。

「これは苔のベッド。ふかふかだよ。そっちは水飲み場。冷たくておいしい。天井のはヒカリゴケ。夜でも安心」

僕の、あまりにも淡々とした説明。

クラリスは、その一つ一つに、信じられないという顔で、いちいち驚いている。

「こ、こんなすごい魔法を、ただお昼寝のためだけに……!?あなた、正気ですの!?」

「うん。お昼寝は、すごく大事だからね」

僕が、真剣な顔でそう言うと、クラリスは頭を抱えてしまった。

どうやら、彼女の常識は、今日、何度も破壊されているらしい。

やがて、彼女は気を取り直したように、僕に質問を浴びせ始めた。

「このベッドはどうやって作ったのですか!?」

「この光る苔は、どこから!?」

「そもそも、さっきの扉は一体……!」

『ナビ、この子を静かにさせる方法はないかな。お昼寝の続きがしたいんだけど』

《対象の興味を、別の、より強烈な事象に誘導するのが効果的です。例えば、あなたの魔法を、目の前で直接披露するなど》

僕は、ナビの助言に、一つ頷いた。

仕方ない、とっておきを見せてあげるか。

「クラリスさん、ちょっと静かにしてて」

「な、なんですの、急に……!」

僕は、文句を言う彼女を無視して、ベッドのそばから、ふかふかの苔を少しだけちぎり取った。

それから、落ちていた小枝を二本と、綺麗な小石を一つ拾う。

そして、それを手のひらの上で、粘土をこねるように、優しく丸めていった。

「……何をしているのですか?」

クラリスが、不思議そうな顔で僕の手元を覗き込む。

やがて、僕の手のひらの上には、指先ほどの大きさの、素朴で可愛らしい「苔のお人形」が出来上がった。

「まあ、可愛らしいですわね。でも、それが何か……?」

彼女が、そう言いかけた、その時だった。

僕は、そのお人形に、ほんの少しだけ、生命を活性化させる特別な魔法を、そっと流し込んだ。

すると、僕の手のひらの上で、ただの苔と小枝だったはずのお人形が、命を宿したかのように、ぴょこんと立ち上がった。

「えっ」

そして、くるり、と優雅にお辞儀をすると、僕の手のひらを舞台にして、軽やかなステップで踊り始めたのだ。

「お、お人形が……踊って……!?」

クラリスは、目の前で起こったありえない光景に、完全に言葉を失っている。

目の前で、素朴な人形が生きているかのように踊る光景は、万華鏡以上の衝撃と感動を彼女に与えたようだった。

彼女は、夢中になって、その小さなダンスを、瞬きもせずに見つめている。

僕への質問も、すっかり忘れている。

よし、と僕は一つ頷くと、再び苔のベッドにごろんと寝転がった。

しばらくして、お人形がぺこりとお辞儀をして、またただの苔と小枝に戻ると、クラリスははっと我に返ったようだった。

「……そろそろ、お父様たちが心配しますわ。わたくし、戻ります」

そして、洞窟の入り口で、くるりと僕の方を振り返った。

その顔は、もうすっかり、いつものプライドの高いお嬢様の顔に戻っている。

「いいこと?この場所のことは、誰にも言いませんわ」

「うん」

「その代わり、またわたくしをここに招待なさい!いいですわね!」

彼女は、ツンとした顔で、そう言い放つ。

でも、その耳が、少しだけ赤くなっているのを、僕は見逃さなかった。

「うん、分かったから、静かに帰ってくれるかな。キツネさんが、起きちゃうから」

僕の言葉に、クラリスは一瞬だけむっとした顔をしたが、やがて「ふん」と鼻を鳴らして、洞窟から出ていった。

ようやく、完璧な静寂が戻ってきた。

僕は、深いため息を一つ。

『ナビ、これで大丈夫かな』

《はい。新たな脅威(イリス様)の介入確率は低下しましたが、別の脅威(クラリス様)の定期的な訪問が予測されます。メルの安眠環境は、限定的ながら確保されました》

『そっか……』

僕ののんびりスローライフは、なんだか、少しずつ賑やかになっていくみたいだ。

まあ、それも悪くないかな。

僕は、そんなことを考えながら、今度こそ、最高に気持ちのいい眠りへと、ゆっくりと落ちていった。