軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第135話「赤いスープと白いうどん」

茹でたうどんを食べるための、あたたかくて美味しい汁。

それを用意するのを完全に忘れていた。

「つゆ、でございますか?」

「うん。麺を美味しく食べるための汁がいるんだけど、それがないんだよね」

せっかくうどんが形になったのに、合わせる汁がないなんて……

「でしたら、いま厨房で出せる汁物をお持ちいたしましょうか。ちょうどお昼用の仕込みが上がったところですぞ」

「ほんと? それってどんなスープ?」

たずねると、ヒューゴは自信ありげに立派な胸を張った。

「完熟トマトと野菜を煮込んだミネストローネなら、すぐにお出しできますぞ。じっくり煮込んで、野菜の甘みがたっぷり出ております」

トマトのミネストローネか。

うどんにトマトのスープなんて、変わった組み合わせだけど、せっかくここまでうどんが形になったんだ。

早くどんな味になっているのか食べてみたい。

「うん。せっかく作ったんだし、まずはそれで試してみようかな」

「わかりました。おーい、ミネストローネを熱々にして二つ持ってきてくれ」

そう声をかけてから、ヒューゴは沸き立ったお鍋にうどんを入れた。

「これはどのくらい茹でればよろしいのですかな?」

『この太さだと茹で時間はどれくらい?』

《現在の麺の太さと湯の温度から計算し、約十分を推奨します》

「だいたい十分くらいかな。鍋の中で麺が浮き上がってきて、少し透明っぽくなってきたら、一本味見してみて」

ぐつぐつと煮えるお湯の中で、沈んでいたうどんが次第にふっくらとして表面に浮き上がってくる。

十分ほど経ったところで、ヒューゴがうどんを一本すくい上げて食べた。

「これは美味しいですな! 外はつるりとして、噛むともっちり押し返してくる弾力がありますぞ。いやはや、驚きましたな。練った小麦粉を茹でると、こんなふうになるのですな」

「ほんと? 僕にも一本ちょうだい」

ヒューゴから小皿に取り分けてもらったうどんを味見する。

もちもちとした弾力と、ほのかな小麦の甘み。

「おいしい! それに思ってた食感に近い!」

「それは何よりですぞ。では、先ほど用意したミネストローネをかけてみますかな?」

「うん、お願い!」

お湯から引き上げられたうどんを器に移してもらい、その上から真っ赤なスープをたっぷりとかける。

完熟トマトと野菜の甘い香りが湯気と一緒に立ち上り、それだけでお腹が鳴りそうだ。

「さあ、熱いうちに味見をどうぞ」

「いただきまーす」

そう言って、フォークでスープの絡んだうどんをひと口食べた。

「おいしい! 思ったより、麺とスープ合ってるかも!」

「おお、これは美味いですぞ! トマトの酸味と野菜の甘みが、このつるりとした麺によく絡んでおりますな! いやはや、素晴らしい料理ですぞ!」

嬉しそうにうどんを食べるヒューゴの言う通り、間違いなく美味しい。

ヒューゴの作ったコクのあるスープも、もちもちとしたうどんもちゃんとできている。

すごく美味しいんだけど、思っていたうどんとはどこか違う。

「んー……」

「味は悪くないと思うのですが、何か合いませんでしたかな?」

「おいしいんだけど、なんかしっくりこないんだよね……あっ」

持っていたフォークを見て、ようやく気がついた。

この世界での食事に慣れすぎて、すっかり忘れていたけれど、うどんと言えばお箸だ。

食べ方が違うから、なんとなくしっくりこないのかもしれない。

「ヒューゴ、あそこにある薪を一本もらってもいい?」

「構いませんが、火にくべるのですかな?」

「ううん、ちょっと作りたいものがあるんだ」

かまどの横にあった手頃な薪を手に取ると、魔法を使ってチャチャッと木を切り出した。

細長い棒を同じ長さに二本そろえたら、ついでにヒューゴの分も作って、即席のお箸を二組用意した。

「その棒はなんですかな?」

「お箸っていう道具だよ。二本の棒で麺を挟んで食べるんだ。こういう細長いものなら、フォークよりお箸のほうが食べやすい気がする」

「二本の棒で食べるとは、面白い道具ですな」

「ヒューゴも試してみる?」

「では、わしも試してみますぞ」

渡されたお箸を、ヒューゴはどう持てばいいのかわからない様子で眺めていた。

僕は自分の分を手に取り、器の中のうどんを挟んで口に運んでみせる。

「おお、そんなふうに挟むのですな」

ヒューゴも真似をしてお箸を持とうとするけれど、指がうまく動かずになかなか挟めない。

「むむ、これはなかなか難しいですぞ。ずいぶんと器用なものですな」

「たまに作って使ってるからかな。二本で挟むのは、コツがいるんだ」

苦戦するヒューゴを見ながら、もう一口、お箸でうどんを食べてみた。

フォークで食べるより、ずっと食べ慣れた感じはする。

けれど、違和感は消えなかった。

『……やっぱり、なんか違うな』

《肯定します。現在の麺は、このミネストローネに対して、小麦の風味と歯ごたえがやや弱い状態です》

『じゃあ、どうしたらいい?』

《麺を細くし、より小麦の風味が強い粉に切り替えることを推奨します。さらに卵を加えることで、コクと歯ごたえが増し、ミネストローネにも絡みやすくなります》

『それって、もううどんじゃないよね?』

《はい。分類としては、うどんではなくパスタです》

〆のうどんを作っていたはずなのに、ミネストローネに合わせるならパスタになってしまうらしい。

方向がずれてきた気はするけれど、せっかくなら、このスープに合う麺も食べてみたい。

お箸を置き、まだ箸の扱いに苦戦しているヒューゴを見上げた。

「ヒューゴ、もう一回作ろう」

「ま、まだ作るのですかな!?」