軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第110話「湖畔のブランコ」

丘でたっぷり遊んだあと、僕たちは屋敷で昼食をとった。

昼食を食べ終わるころには、父様たちはもうバルトール卿と一緒に領地の視察に出かけてしまっていた。

子供組はリディアに見守られながら、午後もまた湖畔の見晴台でのんびり過ごすことになった。

屋敷から馬車で戻り、東屋のテーブルでまたトランプ遊びを始めた。

「ダウトですわ!」

「うぐぐ……!また見破られた……!なんでよ!」

さっきからイリ姉とクラリス嬢が「ダウト」に白熱……いや、イリ姉が一方的に負け続けていた。

「ふふふ。イリス様は、カードを出した瞬間、目が泳いでいらっしゃいましたわ」

「もう!この遊び、わたしに向いてないわよ!」

(二人とも、まだ飽きないのかなあ……)

僕は観戦にも飽きて、少し離れたベンチにごろんと寝転がった。

湖から吹いてくる風が、頬を撫でていく。

その時、何度も負けて我慢の限界が来たらしいイリ姉が、むくれた顔で僕を振り返った。

「ねえメル!ほかに何かないの!?わたしがもっと得意そうなトランプ遊び!」

(うーん……トランプ遊びは沢山あるけど、何がいいだろう……)

『ナビ、イリ姉が得意そうなトランプ遊びってある?嘘つかなくていいやつ』

《イリス様の特性を分析します。……イリス様はポーカーフェイスや、相手の思考を読むような心理戦は不得手です》

『知ってる。猪突猛進だもんね』

《はい。ですが、反射神経と運動能力、瞬間的な判断力はメルやクラリス嬢を上回っています。よって、高度な戦略性よりも手の速さを競うゲームを推奨します。候補は「スピード」です》

(スピードか。確かにイリ姉が得意そうだ)

僕はゆっくりと体を起こした。

「イリ姉、クラリス嬢。じゃあ、スピードっていう遊びはどう?」

「スピード……?」

イリ姉が首をかしげる。

「カードをどんどん重ねていって、早く出し切った人が勝ちの遊びなんだ」

「なによそれ、速ければ勝ちなの!?そういうの好き!」

「まあ、聞いているだけで慌ただしい遊びですわね」

「うん。ルールは簡単だよ」

トランプを二組に分けて説明を始めた。

「真ん中に置かれたカードに、手持ちのカードをどんどん出していくんだ。同じ数字か、その前後の数字をね。早く手札が全部なくなった方が勝ち。頭も使うけど手の速さも重要だから、イリ姉に向いてるかもよ」

「面白そうじゃない!早速やりましょ!」

さっきまでむくれていたのが嘘みたいに、楽しそうに身を乗り出した。

「ふふっ、面白そうですわね。わたくしも挑戦しますわ」

(よし、これでまた二人で盛り上がってくれるかな……)

僕はトランプの山をテーブルに置くと、そのままベンチの日向ぼっこに戻るのだった。

日向のあたたかさと湖からの風が心地いい。

少し仰向けになって空を見上げる。

(こういうところで、ぶらぶら揺られながら、うとうとできたら最高だろうな……)

視線の先に、東屋の近くにある一番大きな木の枝が入ってきた。

『ナビ。あの枝にブランコを吊るせるかな?』

《はい。あの枝の強度は十分です。安全マージンを確保したブランコの構築が可能です。周辺の 蔓(つる) と土魔法の利用を推奨します》

『よし、決まり』

さっそく、近くに生えていたクモイトソウの蔓に植物魔法を流し込む。

蔓は瞬時に強靭な繊維だけを残して分解され魔力で撚り合わさり、あっという間に頑丈な縄が二本できあがった。

さらに土魔法で、地面の土を固めて平らな板を作った。

準備が整ったので、トランプに夢中な二人のところへ行き声をかけた。

「クラリス嬢、お願いがあるんだけど」

「まあ、メルヴィン様。どうかなさいましたの?」

「あのさ、あの大きな木の枝に、この縄と板を吊るしてもいいかな?」

「ええ、どうぞ構いませんわ」

クラリス嬢は、手元のカードに集中したまま答えた。

何を作ろうとしているのか、あまり見ていないみたいだ。

(よし、許可はもらえたな)

魔法を使って、縄の両端を木の板にしっかりと結びつける。

『ナビ、ロープを枝に渡す手伝いをお願い』

《承知いたしました。風魔法でロープを誘導します》

風魔法で縄を枝の真上まで持ち上げ頑丈な枝に丁寧に巻きつけて固定する。

(うん、完璧!)

あっという間に、簡易ブランコの完成だ。

さっそく座って、ゆっくりと地面を蹴ってみる。

(ん……最高……風がちょうどいい……)

しばらくすると、東屋の方からイリ姉の歓声が響いた。

「やった!また勝ったわ!」

どうやら新しいゲームは、イリ姉に合っていたらしい。

「きゃー!なによこれ、すっごく楽しい!もう一回よ、クラリス!」

「まあ、イリス様、手が速すぎますわ……!」

「ふふん、そうでしょ!……って、あれ?メル、何してるの!?」

クラリス嬢も、僕がゆらゆら揺れているのを見て、不思議そうに首をかしげている。

「まあ!メルヴィン様、それは何ですの?」

二人はテーブルを離れ、僕が作ったブランコのそばまで駆け寄ってきた。

「なによこれ!私もやってみたい!」

「えー作ったばっかりなんだけど……」

目を輝かせて僕を見上げてくる。

「もうしょうがないな……少しだけだからね」

僕は渋々ブランコを降りる。

「はい、どうぞ」

「やったー!」

イリ姉が「きゃっきゃっ」と声を上げながらブランコを漕ぎ始めた。

クラリス嬢も「まあ、楽しそうですわ!次はわたくしですわよ!」と順番待ちをしている。

(この様子じゃ、僕の番は当分回ってこなさそうだ……)

小さくため息をつき、反対側に張り出しているもう一つの太い枝を見上げた。

「……しょうがない。自分用をもう一台作るか」

さっきと同じようにクモイトソウの蔓に植物魔法を流し込み縄を作り板を結びつけてから、縄を枝に渡して固定していく。

(よし、これで完璧)

2台目のブランコが完成した。

イリ姉とクラリス嬢が盛り上がっているのを横目に再びぶらーんと揺られ、ぼーっと至福の時間を満喫し始めた。

ぶらーん、ぶらーん、と揺れているうちに、なんとなくまぶたが重くなってくる。

ぼんやりしていると、いつの間にかクラリス嬢の番になったらしい。

イリ姉が暇になったのか、こちらに駆け寄ってきた。

「メル!もっと漕ぎなさいよ!わたしが手伝ってあげる!」

「え?ちょっと、イリ姉!?危ないって!一人用だよ!」

僕が止めるのも聞かず、イリ姉は僕が座っている座面の前に強引に乗り込んで、向かい合わせになる形で座面に立つ。

「うわっ!?危ないって!」

「なによ、ちゃんと掴んでるから平気よ!」

イリ姉は縄をぎゅっと掴んで、にやりと笑う。

「ほら、もっと揺らしなさい!」

立ち乗りで体を揺らし始める。

「うわあああ!危ない!揺らさないでよ!降りてってば!」

「大丈夫!まだまだいけるわよ!!」

体が投げ出されそうになるくらい、ブランコが大きく弧を描いて揺れている。

「このまま飛び出したら丘から落ちちゃうよ!!」

『ナビ!これ、本気でヤバいって!丘から落ちる!』

《いいえ、メル。物理演算の結果、このブランコの最大振幅とロープの長さでは、最適化された角度で射出されたとしても、丘の端まで到達することは不可能です》

『いやいや、絶対落ちるって、この勢い!』

《仮に万が一、理論上ありえない飛距離で射出された場合でも、メルの風魔法による空中制動であれば、安全な着地が可能です。全く問題ありません》

『そこじゃないよ!!しかも、この状況問題ありまくりでしょ!』

「もう!メル、うるさいわよ!もっと漕ぎなさい!」

「うわあああん!」

「まあ!イリス様、メルヴィン様!楽しそうですわ!」

クラリス嬢がブランコを小さく漕ぎながら、楽しそうにこちらを見ていた。

(楽しいっていうか、危ないんだけど……!)

ひとしきりイリ姉の無茶に付き合わされ、僕はぐったりとベンチに腰を下ろした。

ふと見上げると、日が少し傾き始めている。

そろそろ屋敷に戻る時間だろうかと考えながら、魔法でブランコを片付けようとした。

「あ……!メルヴィン様!お待ちになって!」

クラリス嬢が慌てたように声を上げた。

「もしよろしければ、そのブランコを残していただけませんこと?」

「え?でも……よその領地の木に勝手に……」

「父には、わたくしから強く話しますわ!」

クラリス嬢は、きゅっと拳を握る。

「こんなに楽しいもの、わたくしだけじゃなくて、領地の子供たちにも遊ばせてあげたいですもの!」

「そうよ!いいじゃない!クラリスの頼みなんだから!」

イリ姉も、うんうんと頷いている。

「あ、そうだ!帰ったら、うちの広場にも作りましょうよ!もっとすごいやつ!」

「ええ!?また僕が作るの……」

僕は思わずため息をついた。

「……分かったよ。これはこのまま残しておこう」

クラリス嬢に向き直って釘を刺す。

「でも、二人乗りみたいな危ないことは、絶対にやめてよね」

「わかっていますわ」

こうして、バルカス領の丘に僕たちの友情の証が、二つ並んで残されることになった。