作品タイトル不明
第109話「丘の上のダウト大会」
丘の斜面は思ったより急だった。
僕は眠たい目をこすりながら、楽しそうに先を歩くイリ姉たちの後ろを追いかけていた。
「ねえクラリス、この丘の上には何があるの?すごく風が気持ちいいわね!」
「ふふっ、着いてからのお楽しみですわ。わたくしのとっておきの場所なんですもの!」
少し後ろからは、メイドのリディアが静かについてきてくれている。
(イリ姉、昨日からずっとテンション高いなあ……僕は眠いんだけど……)
そんなことをぼんやり考えているうちに、僕たちは丘の頂上にたどり着いた。
そこは風が心地よく吹き抜ける見晴台になっていて、小さな 東屋(あずまや) とベンチが置かれていた。
「わあー!すごい!湖がぜんぶ見えるわ!」
「昨日の中庭よりも、こちらの方が自慢ですのよ」
僕も景色を一応見たけど、それよりも日当たりの良いベンチに目が釘付けになった。
(……あそこ。あそこなら日向ぼっこできそう……)
ベンチへ吸い寄せられそうになっていると、クラリス嬢がトランプを取り出した。
「昨日のお約束どおり、ここでトランプをいたしましょう?」
「いいわね!今日はババ抜きと大富豪と七並べ、ぜんぶやるのよ!」
「え、全部……?眠いんだけど……」
「ふふ、どれも負けませんわよ?」
「わたしも負けないわよ!!」
(まずい……完全に二人とも本気モードだ。僕は日向ぼっこがしたかったんだけどなあ……)
こうして見晴台でのトランプ大会が始まった。
ババ抜き、大富豪、七並べと次々と遊んでいったけれど、僕はどのゲームでもパッとしなかった。
「もう、メル!弱すぎよ!」
「今日は調子が悪いの!僕はもう見てるから二人でやってて」
そう言って観戦モードに入ると、イリ姉とクラリス嬢の一騎打ちが何戦も続いた。
「ふふん、またわたくしの勝ちですわ」
「くぅー!もう一回!」
何度目か分からない勝負が終わったところで、イリ姉がこちらを振り向く。
「ねえメル。あんたって、こういうトランプの遊び考えるの得意でしょ?もっと面白いのないの?」
「わたくしも新しい遊びを教えていただけるなら大歓迎ですわ」
(……このままだと僕もずっと付き合わされそうだ。ここで新しいゲームを教えて、あとは二人で盛り上がってもらおう)
「じゃあさ、こんな遊びもあるよ」
「なになに?どんなやつ?」
「まあ、どのようなルールですの?」
「カードを裏向きに出して数字を宣言して、嘘だと思ったら”ダウト”って言う遊びだよ」
「まあ、相手の嘘を見破るゲームですの?面白そうですわね!」
クラリス嬢が、知的に目を輝かせた。
「なによ、簡単じゃない!わたし、嘘つくの得意よ!」
イリ姉はそう言うと、にやりと笑って僕を見た。
「で、メル。あんたもやるわよね?」
(まあ、最初の何回かだけは一緒に遊んで、頃合いを見て観戦に回らせてもらおう)
「分かったよ。ちょっとだけね」
こうして、まずは三人でダウトが始まった。
最初は様子をうかがいながらカードを出していたけれど、何戦か続けるうちに三人ともだんだん本気になっていった。
「はい、3よ!」
イリ姉が、自信満々にカードを出す。
「ダウトですわ!」
「う、うそ!なんでわかったのよ!?」
「ふふん。お顔に全部出ていましたもの」
得意げに微笑むクラリス嬢にイリ姉が悔しそうに歯ぎしりする。
(やっぱり、イリ姉は分かりやすい)
「じゃあ、今度はわたくしがキングですわ」
「ダウトよ!」
すかさずイリ姉が叫ぶけれど、めくられたカードは本物のキングだった。
「うぐぐ……!」
イリ姉がペナルティのカードをごっそり引き取る。
その横で嘘が下手な僕の手札も出すたびにすぐダウトされて、あっという間に山盛りになっていった。
「僕はもう見てるよ……」
僕は早々に勝負から抜けてベンチにごろんと寝転がった。
しばらく日差しを浴びながらぼんやりしていると、顔に当たっていた光が、ふっとやわらいだ。
(さっきより眩しくなくなったな……)
薄目を開けると、少し離れた場所で控えていたリディアが、ほんのわずかに立ち位置をずらしていた。
(リディア、ありがとう……)
東屋のほうから、「ダウトよ!」「違いますわ!」と、イリ姉とクラリス嬢の楽しそうな声が続けざまに聞こえてくる。
リディアはいつも通り静かに立ったまま、視線だけをこちらに向けていた。
その静かな気遣いに安心して、僕は静かに眠りに落ちていった。
◇
「絶対、今度こそ勝つんだから!」
「ふふん、今度もわたくしが勝ちますわ」
そんな賑やかな声で、僕は目を覚ました。
どうやら「ダウト」の激戦にも、ようやく一区切りついたらしい。
「この景色も素敵ですけど、フェリスウェル領の、あの温泉の丘から見た景色も忘れられませんわ。秘密基地も楽しかったですし」
「でしょー!あそこはわたしたちのお気に入りなの!」
二人は温泉の思い出を楽しそうに語り合いながら、次は一緒に何をして遊ぼうかと自然と話題を広げていった。
「あ、そうだわ!クラリス、今度うちに来た時はカードじゃなくて、体を動かす遊びをしましょうよ!」
「まあ!走り回るような遊びですの?」
「そう!今、わたしたちの領地ではフットサルっていう遊びが大流行してるのよ!」
「ふっとさる……?」
クラリス嬢が、聞き慣れない単語に可愛らしく首をかしげる。
「まあ、どのような遊びですの?」
「えっとね。丸い玉を蹴って相手の陣地に入れるのよ!手を使っちゃダメなの!すっごく白熱するのよ!」
「まあ!玉を蹴る……?貴族の遊びとは、ずいぶん違いますわね……!」
クラリス嬢は少し驚いたようだったけど、すぐに目を輝かせた。
「でも、なんだか楽しそうですわ!」
「ふふん、任せなさい!わたしが教えてあげるわ!」
「まあ!……楽しみですわ。必ず、また伺いますからね!」
二人の少女の次の約束は、湖畔のさわやかな風の中で楽しそうに結ばれたようだった。