作品タイトル不明
パーティーの準備(1)
その後、結局昼寝はしないまま、私はフラーラとお喋りしつつ体を休めた。そしてお昼になると隻眼の騎士と一緒に食堂へ行き、ごはんを食べる。
そして隻眼の騎士が午後のお仕事に戻ると、食堂に残った私は明日の『家族の日』のパーティーの準備を再開した。料理ができる算段はついたので、今度はパーティー会場を整えなければならない。
と言うか、まずはパーティー会場をどこにするか決めなければ。
一人で悩んでいると、計画を聞いてくれたフラーラが協力を申し出てくれた。
「わたくしにできることがあれば協力しますよ。わたくしもミルフィリアやこの砦の人間たちに感謝していますから」
そして『家族の日』のことを知ったフラーラはこう続ける。
「『家族の日』なんて素敵ですよね。わたくしには縁遠い日ですけど……」
「どうして? フラーラにもお母さんはいるでしょ?」
「いますけど、独り立ちしてからはたまに会うくらいなので。それにわたくし、一時期は人間と親しくしていましたから、人間のような家族に憧れがあるんです。夫婦二人で仲良く生活している家もありましたし、曾祖父や曾祖母もいて、家族四代で一つ屋根の下に暮らしている賑やかな大家族も見たことがあります。それに、血の繋がりのない孤児を何人も引き取って育てている女性もいました。わたくしたち精霊と違って、人間には家族の形は色々あるようです」
「うん、そうだね」
私はフラーラの話に頷いた。血の繋がりがあってもなくてもいいし、二人だけでも大人数でもいい。お互いを大事な家族と思っていれば家族なのだ。
「だからわたくしも、いつかそういう家族を作れたらいいなと思います。精霊のわたくしには、きっと難しいでしょうけど……」
「そんなことないよ! せいれいだってにんげんみたいな家族をつくれるよ。わたしは今、母上と父上と三人でくらしてるし、この前はおばあちゃんにも会いにいったもん。もうすぐ水のせいれいのおとうとも生まれるし、このとりでの騎士たちのことだって、わたしは家族みたいにおもってる」
私がそう言うと、フラーラは目を丸くして驚いた。
「……ミルフィリアって本当に精霊ですか? 家族を作りたいというわたくしの考えは、精霊の常識では馬鹿げた考えだと思ってましたけど、まさかすでに実現している精霊がいるなんて」
「えへへ」
そんな話をした後で、私とフラーラはパーティーの準備を進めた。会場はやっぱりこの食堂がいいかなと考える。砦の騎士たち、それに精霊たちがみんな入れる広い場所なんてここくらいだもんな。
「でもそうなると、ちょくぜんまで飾りつけはできないなぁ」
私は独り言のように言う。食堂は今日も明日も騎士たちが食事をするのに使うから、パーティーの準備をしていたらばっちり見られてしまう。驚かせたいから途中で気づかれたくないのに。
「うーん」と迷っている私に、フラーラが尋ねてくる。
「飾りつけってどういうことをするのですか?」
「あのね、大きなはっぱをたくさん拾ってきたから、そこに一文字ずつ『いつもありがとう』ってかいて、かべにはるの。あとはちょっとオシャレなテーブルクロスがほしいから、王さまのところに借りにいく」
「王様? この国の人間の王ですか?」
「うん。しりあいだから」
「交友関係が広いですね、ミルフィリアは」
フラーラはまたもや驚いて言う。
オシャレなテーブルクロスを貸してくれそうな知り合いとなると、王族とかこの地域の領主のおじいちゃんくらいしか思いつかないんだよね。王城にはテーブルクロスはたくさんあるだろうから、きっと貸してくれるだろう。
王城へは母上に頼んで移動術で飛んでもらえば一瞬だ。父上も連れて行ってテーブルクロスを運ぶのを手伝ってもらおう。だけどもちろん二人にはテーブルクロスを何に使うのかは秘密だ。
「王の住む城へ行くのなら、そこで花瓶もいくつか借りてきてはどうです? そうすればわたくしが花を咲かせますから、その花を飾るんです」
「それいいねー! はなやかにしたいと思ってたんだよね」
「それにこういうこともできます」
フラーラはそう言うと人の姿に戻った。そして片方の手のひらを上に向け、自分の口の前に持ってくると、ふーっと息を吹く。
すると吹き出されたその息に乗って、無数の花びらがひらひらと宙に舞った。
「なにそれ! すごい!」
「花を咲かせる以上に使い道のない力ですから、今までほとんど使ったことないんですけどね」
興奮している私に、フラーラは苦笑しつつ言う。
「だけどこれでたくさん花びらを作り出せば、花びらの絨毯を床に敷いているように見えて綺麗だと思いますよ」
「いいかも、それ。ぜったいきれい!」
「まぁ、後片づけは大変ですけどね」
「そうじはわたしががんばるから大丈夫」
そこでさっそく、私はフラーラも連れて一旦住処に戻った。父上と母上にはフラーラのことは話していたけれど、三人が会うのは初めてなので改めて紹介しておく。フラーラは私たち親子が本当に三人で暮らしていることに驚いていた。
そして母上に移動術を使ってもらって、四人で王城に向かう。
「テーブルクロスと花瓶を借りたい? 一体何をするつもりなのじゃ」
「ひみつだよ」
母上の質問にははっきり答えず、内緒のままにしておく。
母上は自分が城を訪れた時にいつも通される迎賓室を目標にして飛んだようだ。到着すると、母上は大きなお腹を抱えて豪華なソファーに腰かけた。
「……ここにいる人間たちは……信用できるのか?」
父上は妊娠中の母上が住処を離れ、人目に触れるのが心配なようだ。だけど王様たちは支団長さん経由で母上の懐妊を知っているし、城にいる人間たちも母上に危害を加えたりしない。
「そなたがそんなに心配性だったとはのう」
母上はちょっと愉快そうに言う。普段はぼーっとしている父上が、扉の向こうや窓の外をきょろきょろと警戒しているのが面白いみたい。
そして私はピンとしっぽを立てて言う。
「母上はここでまってて。わたしはテーブルクロスとかを借りにいってくる。父上は母上についててあげてね」
「いや、ミルフィリアも一人では危ない……」
走り出した私を止めようと父上が動いたが、フラーラがこう言って一緒に来てくれた。
「ではわたくしがミルフィリアについて行きます。お二人はここにいてください」