軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パーティの準備(2)

そうしてフラーラと二人で廊下に出ると、ほどなくして女性の使用人さんに出くわした。

使用人さんは人の姿のフラーラと子ギツネ姿の私を見て、ぽかんと口を開く。

「どうして城の中に子犬が? それにあなたは……? 使用人でもないようだし」

フラーラは花売りのようなエプロンとひざ丈のスカートだから、貴族や王族には見えないだろう。だけどただの花売りにしては華やかだし、顔立ちも可愛らしく、一般人とは雰囲気が違うと思っているはずだ。

「ここには勝手に入ってきては駄目よ。……だけどこの子犬、とっても可愛いわね」

使用人さんは思わずにっこり笑って、私を撫でようとしゃがんだ。驚かせるだろうなと思いつつ、喋らないわけにはいかないので私は口を開く。

「わたし、子犬じゃないよ。雪のせいれいだよ。王さまってどこにいる?」

「ひっ……」

案の定、使用人さんは息をのんで目を見開いた。

「王さまってどこにいるかわかる?」

こてんと小首を傾げて使用人さんを見上げる。

「せ、精霊……? 雪の……?」

使用人さんは混乱していた。私を実際に見るのは初めてなようだけど、私は何度か王城に来ているからその噂は耳にしたことがあるはず。

「王さまに会いたいんだけど、どこにいるかわかる?」

今度は反対側に首をこてんと傾げて、 三度(みたび) 尋ねた。

使用人さんは何とか頭の中を整理したようで、廊下に膝をついて頭を垂れる。小さい私より頭を低くしようと、土下座する勢いだ。

「も、申し訳ございません! 子犬だなんて失礼なことを……! どうかお許しください、精霊様」

「え? いいよいいよ。よくまちがわれるから」

精霊として敬われることが少ないので、こういう反応は新鮮だ。

怒らないから大丈夫だよ。自分でもほぼ子犬だと思ってるから。

使用人さんは少し顔を上げると、恐る恐るといった様子でフラーラの方を見る。

「では、あの、そ、そちらのお方は……?」

「花のせいれいだよ」

「……っほ、本当に失礼を致しました。軽々しく声をかけてしまって……!」

「あやまらないで。何もわるいことしてないよ」

謎の花売りと子犬が城の中を歩いていたら、声をかけるのは当たり前だ。

「それより王さまを……」

「あ! す、すぐに呼んで参りますので、こちらの部屋でお待ちいただけますでしょうか?」

使用人さんは慌てて迎賓室まで私たちを案内し、扉を開けた。しかしそこはさっき私とフラーラが出てきた部屋なので、中には母上と父上がいる。

「ひーッ!? 他にも精霊様が……っ!」

母上と父上は服装も変わっていて美形だし、見るからに精霊という感じなので使用人さんも一目見て分かったようだ。

精霊に囲まれて一瞬取り乱した使用人さんだったが、額に汗をかきながら何とか取り繕う。

「し、失礼致しました。どうぞここでお待ちください。すぐに呼んで参ります」

そうしてそっと扉を閉めると、パタパタと走って王様を探しに行ったようだった。大ごとにするつもりなかったんだけど、何だか申し訳ないな。王様の部屋とか教えてくれたら自分で行ったんだけど。

仕方がないので私とフラーラもソファーに座り、王様が来るのを待った。

そして十分後、王様はきっと忙しいだろうに、私たちが城に来ていると聞いて急いでこちらに来てくれたようだ。

「スノウレア? 一体何が……」

王様は妊娠中の母上に何かあったのではと心配してくれたようで、少し不安そうな様子だった。

しかも王様だけでなく王妃様と王子様まで一緒だ。

「何か緊急のご用件が?」

王妃様は心配そうに言った後、母上のお腹を見て「まぁ!」と口を開く。

「水の精霊の誕生も近いのでしょうか? わたくしたちにできることがあれば何でもおっしゃってくださいね」

「精霊の出産はそれほど大変でもないし、ミルフィリアもウォートラストもおるから問題はない」

母上はソファーの背もたれと自分の体の間にクッションを挟み、そこに寄りかかってのんびりと言った。

そして王子様はフラーラを見て尋ねてくる。

「花の精霊も来ていると聞きましたが、そちらの精霊がそうですか?」

王子様はさすがにさっきの使用人さんほど動揺することはなく、少し驚いている様子ではあるものの冷静だった。

「ええ、わたくしは花の精霊のフラーラです」

フラーラが答えると、今度は王様が言う。

「よく来てくださいました。しかしミルフィリアとスノウレアだけでなく、水の精霊に花の精霊まで揃って、本当に何があったのです? 一体どんな緊急の用事でここに?」

王様も王妃様も王子様も、みんな心配そうな顔をしている。母上が妊娠中だということもあるし、初めて会う花の精霊も一緒だから、一体どんな問題が起きたんだと思っているみたい。

だけど私の用事はただ一つ。

「えっとね……」

言い出し辛かったけど、私はもごもごしながらも用件を伝えたのだった。

「……テーブルクロスと、かびんをいくつか貸してください。おしゃれなやつ」

王様たちに笑顔で「安心したよ」と言われた後、私は予定通りテーブルクロスと花瓶をいくつか借りて砦に戻った。母上は先に住処へ戻ったけど、父上にはテーブルクロスと花瓶を北の砦まで運ぶのを手伝ってもらった。

そして父上も住処に帰り、フラーラと二人きりになると、フラーラは私にこう提案した。

「考えたんですけど、リースを作ってはどうですか? そしてそれを壁に飾るんです」

「リースって?」

「花を編んで輪っかにするんですよ。花冠を作る要領で作れます」

クリスマスリースみたいなものかな。確かにそれをいくつか作って飾れば壁も華やかになる。

「いいね! 作りたい!」

「じゃあ私が花を咲かせますから、それを摘んで作りましょう。でも花を咲かせるにはここは雪が多過ぎます」

「じゃあ、もっと南のほうにいく? 雪がつもっていないばしょに」

「そうしましょう。一時期滞在していた私のお気に入りの原っぱがあるので、そこに行きましょうか。比較的温暖な地域でしたから、雪は積もっていないと思います」

「わかった」

二人でその原っぱに移動すると、フラーラはさっそく花を咲かせた。フラーラを中心にして、原っぱ一面が花畑になる。

「わぁ、すごい」

やっぱりこれだけ花があると壮観だ。ただの原っぱが、私たちだけで独占するのはもったいないと思うくらい美しい景色に変わった。

「きれいだねぇ」

「ふふ、ありがとう。それじゃあさっそく作りましょうか」

フラーラはそう言うと、座って花を摘んでいく。私も人の姿になってフラーラの隣に腰を下ろした。

「あまり茎が短い花は編みにくいです。これくらい長さがある方がいいですね」

そしてフラーラに見本を見せてもらいながら、リースの作り方を覚える。

「こうやってくるっと茎を回して、後はこれを繰り返します。大きさや色の違う花を使っても華やかで豪華に見えるし、基本は同じ花を使って時々アクセントに違う花を入れても可愛いですよ」

「なるほど」

私のセンスが問われるな。だけど花の編み方は思ったよりも難しくなさそうだったので、私は人の姿に変わるとはりきって制作に取り掛かった。

しかし数分経ったところで、ふと炎の気配が近づいて来ていることに気づく。

クガルグが移動術を使って私のところに来ようとしている――。目の前で小さな炎がポッと灯った瞬間、私はそう察してとっさにクガルグを拒否した。サプライズパーティーの準備をしているのがバレてはまずいと思って、『来ないで!』と考えてしまったのだ。

そうしたら目の前の炎は消えた。クガルグは元いたところに戻ったんだと思う。来ようとしていたのを弾き返してしまった感覚があった。

「これがいどう術で飛んでくるのをきょひするってことか」

自分が拒否する側になったのは初めてだけど、本当にできるんだな。

隣で一連の流れを見ていたフラーラもこう言う。

「炎の気配がしましたね。ミルフィリアの友達ですか?」

「うん。いつもいっしょに遊んでるんだけど、いまは来られたらこまるから。ちょっとかわいそうだけど追い返した」

クガルグも私を拒否したことがあるから、移動術を拒否されたからこちらに飛んで来れないということは分かっただろう。何か理由があって来てほしくないと思ってるんだと察して、今日は遊ぶのを諦めてくれるといいな。

「あ、また来た」

しかしクガルグはなかなか諦めなかった。何度も挑戦して私に拒否されるというのを繰り返す。

だけど七回目くらいでやっと断念したようで、それからは静かになったのだった。

「よかった。これでリース作りにしゅうちゅうできる」